第3話 王都へ 2
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翌日。私たちは巨大イノシシから集めた毛皮や爪を持って、冒険者ギルドを訪ねた。
ハルが毛皮をギルドの受付カウンターに置く。その重みでカウンターがギシギシときしんだ。
「これ、引き取って。ついでに、あそこに貼ってある素材収集系のクエストから、イノシシの毛皮を集めるヤツを受けたことにしてほしいねん。それから、今回のクエストのことなんやけどな――」
「ちょ、ちょっと待ってください! こんな大量の毛皮、どうしたんですか!?」
普段は冷静な女性事務員が、毛皮の量の多さに目を白黒させる。
「探索に行った遺跡でめっちゃでっかいイノシシが出てきてな。その毛皮やねん。まだいっぱい残ってるで」
「え……まさか……」
信じられない、という表情で毛皮に触れる。つややかな剛毛は明確な魔力の余波を残しており、簡単な魔力感知スキルを使うだけでも普通のイノシシの毛皮とは一線を画すものであることが分かった。
「ちょっと待って! これ、ただのイノシシじゃない! 鑑定士! 鑑定士さーん!!」
事務員の叫びは半ば悲鳴に近かった。ギルド内にたむろしていた冒険者たちが彼女のただならぬ様子に驚き、一斉に注目する。
受付の奥から飛び出してきた鑑定士は、カウンターに積まれた毛皮を見て目を丸くした。
毛に残る魔力を調べ、色艶や硬さを確かめる。分厚い図録を引っ張り出し、ページをめくり、いくつもの項目について、特徴を照らし合わせる。しばらくして、彼はつぶやいた。
「……スターボアの毛皮で間違いありません」
それを聞きつけた冒険者たちが、大きなどよめきを上げた。
スターボア。星の魔力を毛皮に宿すと言われるSランクの魔獣だ。魔界の奥深くに生息し、人間界で遭遇することは滅多にない。この世界で出没する可能性があるとしたら、よほど魔界の瘴気が濃く漂っている場所か、魔界の深奥とつながった門が存在するような場所か……。
「これは、私だけでは判断できません。ギルドマスターに報告させてもらいます。ところで、お二人はどうやってこの魔獣を倒したんですか?」
「イノシシがばーっと突っ込んできたところをザクーって斬ったらドーンって遺跡の壁にぶつかってな。そしたら遺跡がドンガラガッシャン、イノシシ生き埋めになってオシマイや」
ハルの適当すぎる説明に、事務員の顔が険しくなる。
「そ、そんなわけないでしょう!? Sランクの魔獣ですよ!?」
「そんなこと言われてもなあ……。これが事実やねん」
「……そうなんですか?」
険しかった事務員の顔が、少し穏やかになる。
「そうやで。これが事実やねん。……な?」
「……仕方ないですね。ひとまず、この素材はお預かりしておきます。クエストの報酬や素材の引き取り料についてもあらためてお知らせするので、しばらくはすぐに連絡のつく所にいてくださいね」
「うんうん、おねーちゃんありがとう」
そう言うと、ハルは周囲の冒険者たちに振り向いた。
「おーい、お兄ちゃんたち。スターボアの素材収集、やりたい人がおったら明日の朝、このギルド前に集合な。自分で採取した分は丸ごと自分のもん。早い者勝ちやでー」
「うおおおおおっ!」
その場にいた全員が血相を変えて雄叫びを上げた。
Sランク魔獣の素材を、好きなだけ持っていっていいというのだ。文字通り一獲千金のチャンスだった。
大騒ぎになっているギルドを抜け出したところで、私はハルに尋ねた。
「ね、ねえ、ハル! さっき、事務員のお姉さんに何かしたでしょ!? あんな急に態度が変わるなんて、おかしいじゃない!」
「あは、バレた? ちょっと『説得』したんよ」
「『説得』スキル?」
「説得」のスキル自体は決して珍しいものではない。商売に携わる人や外交官など、交渉をうまく進めることが求められる人たちにとって、必須のスキルだった。しかし、それはせいぜい「交渉を自分の有利に進める」ために使えるぐらいのものであって、「Sランクの魔獣が遺跡の下敷きになって死んだ」などという荒唐無稽な話を信じ込ませるために使えるものではない、はずだった。
でも、ハルだったら、それぐらいやっても不思議じゃない。思い返せばこの前、ハルが適当な経歴でギルドに登録したことに私がキレまくったとき、「よーしよし、落ち着こうな……」となだめられて、そのままうやむやに丸め込まれてしまったのも、このスキルの効果だったのではないか。
まるで説得というよりも、相手の心の隙間に入り込んで、都合のいい現実を植えつけるような……。
本当にいったい、この男はどれだけの力を持っているのだろう……。
私は空恐ろしい気持ちがするのだった。




