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ど近眼の鑑定令嬢ですが、あの一夜が見えていませんでした  作者: 宇和マチカ


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そしてやけ酒に走った後

お読み頂き有難うございます。

追憶が終わりそうですね。

「……お疲れ様でした、ウラディーブ嬢」

「お疲れ様でした……」


 あの日もドヨーンとした空気が、職場に満ちていたわね。いる職員全て死んだ目だったわ……。

 だって、パフォーマンス後にも積み上がる山積みの仕事の量よ……。

 あの詐称女の次は……辺境伯領の流れ者が、辺境伯のご子息の婚外子を名乗ってきた件だったかしら。

 辺境伯のご子息、8歳なんだけど……。訴えが有ったからにはガッツリ跳ね除けないと駄目なんですって……。

 疑われるご子息が気の毒よ。


 と言うか訴える方、30代だったわよね。

 時空でも歪ませてやってきた奴なの? 調べるまでも無いでしょうに……。

 という無駄作業もとても多かったわ……。

 あの日は……星が瞬いていたわね。お腹も空いていたわ……。

 無駄に騒がれるから、お城の食堂へ訪れる気は無くって……。

 雑にフードを被って、城下町へと降りたのよね。

 眼鏡がないもんだから、実に足元に気をつけてね。


「こ、これは……このような所で……お会い出来、でき……出来るなんて!」


 そして、知り合いにエンカウントしたみたいなの。

 勿論ド近眼で相手は見えないし、ガヤガヤしてたもんだから、誰だか分からなかったわ。

 喧しかったわね……。


 でも、そいつが勧めてきたお料理が滅茶苦茶美味しかったのよ!

 ぼんやり視界でも分かる美しい照りのワイン煮込みとか、鼻に抜ける香りが素晴らしいハーブのサラダとか……! ナッツのソースの掛かったお肉の炒め物も美味しかったなぁ。

 兎に角、仕事のことと食事のことは覚えていたわ。


「ふはー………」

「思ってたのと違って豪快だな」


 ……あ、思い出した。

 おつまみとお酒との相性が良すぎて、ちょっとグラスを3杯程カラにしたら、そう言い出しやがったんだわ。

 甘口のお酒と辛口のお酒をちょっと頂いただけなのに。


「それであの……昔から、その……あの……」


 何だっけ……。

 何か色々言われたわね。

 お酒の席での会話なんて、殆ど覚えてないんだけれど。


「あの……」


 あれよあれよと、連れ込まれたんだったかしら。

 シーツがお高そうな肌触りだったから、お安い宿では無かったのかしら。白っぽい宿だった気が……見えてなかったからなあ……。

 やば。……置いてきたお金、足りたかしら。一年前とはいえ……。


 でもねえ。グダグダと『思ってたのと違う』連呼はマナー違反でしょ!

 幾ら私の顔がソバカスだらけで、化粧で盛ってたって!

 ダブっとした服だからふくよかに見えてたかもしれないけど、色々ささやかだからって!

 痛かったし!

 寝台でグダグダ言う事じゃ無くない!? デリカシー皆無よ!

 ……いやまあ、よく知らない殿方となだれ込んだ私の危機感ゼロさがいかんってのも有るわよ。

 だからこう、一夜の過ちとしてメモ(読めないかも)を置いて、出ていったんじゃないの!


 その後にバカンスにこの交易都市トリアイへ出かけたら、妊娠が発覚したのは……。あの時は仰天したわね……。


「ぅあー」

「ユララ姉さん、話し終わった? 

 家から手紙来てるけど」


 ……心を鎮める為追憶しているというのに、本当にドライよねこの従兄弟は……。後、レニアをあやすの上手いな。


「職場復帰はちょっとね……。やっと眼窩のクマとソバカスがうっすら消えてきたのよ。乳飲み子の世話より疲れる職場は駄目よね」


 家からの手紙は、早く戻ってこい一択だったわね。無茶言うわ。乳飲み子抱えて旅行とか無理ゲー過ぎでしょ。後、普通に此処が快適過ぎて帰りたくない。


「姉さんが失踪めいた退職してから、色々大騒ぎだよ。姉さんを慕う騎士も文官も何人も倒れたって」

「へえそうなんだ。

 でも、若くて明るい子が入ってくりゃ大丈夫よ。美女な侍女とか美女な女性騎士とか美女な業者とか」

「美女な業者って何。ザックリしすぎだよ」


 ミーハーな方々は新たな推しを見つけて欲しいものね。見つかったら即忘れるわよ。


「近衛騎士団もグダグダで、副団長が傷心出張ばっかりしてるらしいし」

「公私混同する方は駄目よね」


 概念美女信仰は早く卒業して欲しいものだわ。私なんて思ったのと違うショボい未婚の母に過ぎんのだから。

 それに、傷心出張ってただの仕事じゃないの。訳が分からんわね。

交易都市トリアイは個性強めのファッションの人達が集まります。

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