第150話 僕がいなかったら
「……じゃあ、突き止められるっていう根拠は? 今ここでそれを提示できる? できないなら、それはただの強がりに聞こえちゃうけど」
「……」
詳細を話せば、いずれ証拠となるものを提示できるだろう。だけど今の孝子さんはそう長話をしてくれそうにはない。むしろここでしたらかえって逆効果だ。
「……もう話は」
「でも、僕は一度行方不明になった楓を連れ戻した。その事実がある」
苦し紛れに振り絞った一矢の抵抗。だが果たしてそんなので射止めることは叶わず、矢継ぎ早に孝子さんの反論が返ってくる。
「それは根拠としてあまりに弱いよ。楓ちゃんが行方不明だったのは一週間ほど。でも二人のお母さんとお父さんは二年以上行方が分かってない。先月の病院での事件で両親が顔を出したのは刑事さん達からも聞いてるけど、でもそれが介くんの手柄だとは思えなかった。確かに行方不明になってた楓ちゃんを見つけて助け出したのは介くんだけど。でもそれが、介くんが見つけられる根拠になるとは思えない。事実、まだ介くんは二人のことを見つけられてない。なら国の行政機関である警察を頼ったほうがまだ理にかなってるし、こと捜索において警察を出し抜くのはあまりにも非現実的。ごめんだけど、私は介くんが二人を見つける確率よりも命を落とす可能性の方が高いと思ってる。だから家で安静にしてて」
包み隠すことなく、無垢な正論というものを真正面から突き付けられた。こればかりは、他の誰でもない自分の無力さを恨むしかない。
もう……何度目だ。本当に参る。今まで何度、自分に、敵に、僕の弱さを突かれてきたのか……。
「……分かった。学校には行かない。その代わり、これから刑事さんと協力して二人を探しに行くよ」
「何を言ってるの! 介くんにそんな危ない事させられない!」
「大丈夫だよ。僕が死ぬ確率は低い。だって銃を持った楓とやり合ってるし、今回の文化祭の騒動でも、その渦中にいたのに命は落とさなかった。僕ならやれる。生きて二人を連れ戻しに行ける」
「ダメ! それは全て結果論なの! 今後介くんが死なないという保証にはなってないの! なんでそこまでして動こうとするの!?」
「僕がやらないと、また誰かが死ぬかもしれないからだよ! 刑事さん達だけじゃ絶対に無理だ。二人を助けるには僕の力がまだ必要なんだ! 今回だって、僕がいなかったら! ……僕が、いなかったら……」
その時、ふと自分の中でよぎったのは、自分がこの世界に滞在しているからこんな事態になったんじゃないかという、自責の念だった。
そうか……そうだ。僕が現実世界に帰ることを選択していたら、そもそもこんなこと起きなかった。僕の望む結果を求めて選択したことの……弊害。
「……介くん?」
「お兄ちゃん?」
家にいたら、また敵AIが来るかもしれない。学校の場所は割れてたんだ。家の場所を知られててもおかしくない。
文化祭の時のように奇襲されたら……また楓が、そして今度は孝子さんも巻き込まれる。
「ごめん、楓。あとは頼む」
「え?」
うん、やっぱりダメだ。このまま家にいることの方がダメだ。僕だけじゃ済まなくなる。家にいちゃダメだ。僕だけどこかへ遠退いていくしかない。
「何してんの?」
「荷物、まとめてる」
足早に自室へ戻るなりクローゼット内に置いてあったリュックを取り出して、その中に生きていくために必要な物をまとめて入れていく。
最悪お金があればどうにかなるはずだ。バイトしてた頃の貯金はある。もし進学を選んでたら、このお金は入学金と授業料で消えてたけど。
颯爽といつもトレーニングしてる時のジャージに着替えて、まとめたリュックを担ぐ。
「どこいくの!?」
「孝子さん。今までありがとう。僕がいなくなっても、両親には勝手に出て行ったって言っといてください。楓のことは頼みます」
「何を言ってるの!? 今すぐそれを辞めて」
「無理です。ごめんなさい。僕は引きこもっているわけにはいかないから。僕がここに留まってたら、今度は孝子さんが命を落とす可能性があります」
「どういうこと? 介くん、それ説明して!」
……できるなら、もうしてる。こんな嘘みたいな、スケールがでかい、本当の話を……できるならもうとっくにしてるはずなんだ。
「……無理です。これは刑事さん達でも分かってない……というか、認識できないので。きっとこの話をしても、とりあえず家にいろって言うと思うので。じゃあ、行ってきます」
楓も孝子さんもすべて振り切って、僕はそのまま家を出ていった。
次に帰ってくる時は、僕は人として扱われることはないだろう。
でも、もうそれでもいい。人の尊厳とか自分の居場所とか、そんなものよりも今は自分の行いに決着をつけにいく。
それで全ての問題が解決する。これは僕だけの問題じゃない。行方不明になってる人、その人たちの家族も救うことができる。
このIZで起きてる事件を全て収めるためには、もう僕から動き出すしかないんだ。
『介くん。さすがに強引じゃない?』
家を飛び出すや、ふと視界左斜め前にリペアさんが現れる。
「仕方ないですよ。あのまま家に閉じ込められていたら、家庭の状況は悪化しないと思いますけど、僕はずっと両親を助けられない。体が鈍って、またコピーと最初に戦った時のようにすぐに限界が来てしまう。僕は誓ったんです、両親を助けるって」
『なら、せめてそのことを話すべきだったんじゃ……』
「無理ですよ。実際、孝子さんは聞く耳を持ってなさそうだった。そして僕じゃなく、警察の方を頼りにした。正論だとしても、その時点で話をしても仕方ないと思った。なら僕がこの家からいなくなってしまったらいい。自分からいなくなってしまえば、誰も孝子さんを責める人はいない。その矛先はすべて僕に向く」
ふと、遅れてリードさんが視界右斜め前に現れる。
『その考えは未熟ですよ。大人が子を押し留められなかったという状況が問題視され』
「その時は僕が孝子さんの味方をする。それにリードさん、一つ間違ってる。僕はもう大人だ。現実世界の方はどうか知んないけど、この世界の日本という国では満十八歳で成年になる。それは大人認定と同じ。僕はもう子供じゃない。大人なんだ。だから孝子さんが責められる謂れはない。そうなったら、僕が自ら説得するまでだよ。責任も僕が負う。今優先するべきは孝子さんと楓の安全。第二に優先するべきは両親の行方。この二つを叶えるには、僕があの家からいなくなればいい。これでいいんだよ。どうせ両親を救い出せば、僕はこの世界からいなくなるんだから」
『……』
『……』
二人とも、渋めな顔をして黙り込む。呆れたと、そう言わんばかりだった。なら言い返してやりたい。他に方法はあるのかと、あなた達が説明できるのかと。
いつどこから来るかもわからない敵AIに対処する方法があるなら、両親の居場所を突き止める方法があるなら、孝子さんにAIを認識させる方法があるなら、AIを認識できない人にこの世界の全てを話せる方法があるなら……素直にそれを教えてほしい。




