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SPRINT 06:理事長から説明を受ける

ドアのノックが聞こえた。

「ラミーシャさん、入りますよ」――白衣を着た医師らしい男性が入ってきた。

「マイスナー先生」

ラミーシャがそう言って立ち上がろうとするのを男性は手で制した。

「そのまま掛けていてください」

そして、もう一度、ドアの外に出ると、背の高い車椅子を押しながら入ってきた。


帯刀した男性も一緒に入ってくる。

車椅子の人物は要人らしく、その護衛のようだ。

どうやら、ここは剣と魔法の世界らしい。

護衛が手にしているのは銃ではなく、剣だ。

魔法は使うのを見たわけではないが、ラミーシャが魔法学園の生徒だから間違いないだろう。

そうマリトは思った。


マイスナー先生と呼ばれた男性はラミーシャに顔を向け、車椅子の人物に向かって「彼女です」と声をかけた。

そして、ドアを閉めた。

車椅子に座っている人物はベールがかかっており顔は確認できないが、

やりとりから漏れ聞こえる声と口調から高齢の女性のようだ。


マイスナー医師はラミーシャに向かって問いかけた。

「具合はどうですか」

「はい。いつもどおりです」

そして、声を潜めて続けた。

「今日も確認していますね」

「はい。いらっしゃっています」

うなずきながら、ラミーシャも小さく答えた。


手で車椅子の方を指し示しながら続けて聞いた。

「こちらの方は、ご存じですよね」

医師の問いにラミーシャはうなずいた。


「二人だけでお話をされたいそうなので、私と護衛は外に出ています」

そう言いながら、車椅子をベッドのそばまで移動させた。

「理事長、お話が終わりましたら、お声がけください。」


車椅子が近くに来たので、理事長の姿を間近で眺めることになった。

全体にゆったりとした、白を基調とした衣服が包んでいる。

風通しの良さそうな薄手の生地でありながら、かすかな光沢があり、紫外線を通さない工夫がなされた素材のようだ。

上下とも日差しを避けることを意識した装いだと見て取る。

ロングスカートに脚には布製素材のブーツを履き、肌の露出をさせていない。

上半身も長袖のガウンで覆われ、手袋をしている。

もっとも印象的なのは、顔の位置にかけられたベールで、素顔をうかがうことができない。


「状況はどこまで話をしておるのかの?」

車椅子の人物がマイスナー医師に尋ねた。

「いえ、何も。彼女には対話をする手順だけを伝えました」

「では、わしから話せることをすべて話すことにするが、それで良いかの?」

「はい、お任せいたします」

そう言って部屋の外に出た。


理事長が話をはじめた。

「歳のせいで足腰がきびしくての。こんな大仰なものを使わんと動けんようになって、まったく不自由じゃ」

「ただ、ベールはここでは強い日差しがないから、なくても大丈夫じゃろう」

そう言ってベールに手を伸ばし、片側にずらすと、長い時を刻んだ顔が現れた。


くすんだ感じの白い肌には深い皺が刻まれ、年齢を感じさせる。

細く切れ長な目の奥からは、すべての光を吸収するかのような黒い瞳がこちらを見据えている。

その視線には、長年にわたりこの地に様々な英知をもたらした知性の中に、何か、懐かしむような、面白がっているような、そんな暖かさがあるようにマリトには思えた。


理事長はラミーシャの方に向いて話を始めた。

「おぬしが、ラミーシャ・フォートレンディルさんじゃな。はじめましてじゃな」

「わしは、魔法学園の理事長をしている、ルーパ・ブルックスじゃ」

「知っての通り、ソンリーチャの市長も兼ねておる」

「今回の件について、状況は何も聞かされておらんようじゃな」

「四日前の朝礼で、おぬしを含めた六名が倒れたので、こちらに運び込まれたのじゃ」


「その朝の記憶は残っているかの?」

「はい。校長先生がいつものようにお話をされまして」

理事長の質問に、ラミーシャは少し頭を傾けて、そのときの様子を思い出しながら答えた。

「話の内容はよく覚えてないのですが、学校に来るときにすれ違った学生が、しっかりした挨拶をしていた――そんな話だったかと思います」


「校長先生のお話はいつも長いんですが、その日は特に長いなあなと感じていました」

「そうしたら目の前に、何か見たことない風景がいくつも重なって見えたような気がして」

「あれ、ここどこだろう、と思ったところまで覚えているんですが、その後は――」

「気がついたらここのベッドで目が覚めたんです」


「起きてからはどうじゃった?」

「少しいつもより頭が重い気もしましたが、ものすごく不調という感じではありませんでした」

「そうしたら、先生が来られて、医療魔法のリフレクションを行うように指示をされました」

「リフレクションは定期検診の時にやるので慣れていたのですが、今回はいつもとちがう魔方陣と検査薬だったのでなんだろってと思いました」

『やはり魔法が使えるのか。どんな魔法なのだろう?』

とマリトが思っていると、理事長が説明を加えてくれた。


「ニューロ・リフレクションは、医療魔法の中でも特殊なもので、脳内の神経伝達の構成を参照する魔法じゃ」

「健康診断で使うものは体内の構成を調べるソマティック・リフレクションで別物じゃの。」

「今回は賢者様の構成が含まれるかどうかを検査したということじゃな。さすがはマイスナー先生。」


「検査薬と言っても平たい棒のようなものじゃったろう?」

「診断する内容によって使う検査薬が変わるのじゃ」

「はい、そんな感じの魔法です。」

マリトは『さては君、あまり原理系に強くないのね……』と思った。

彼自身もどこかで似たようなことを聞いたような気もしたが、思い出せなかった。


ラミーシャは続けた。

「こんな風に検査薬に手をかざしてリフレクションを発動したんですが、今回は時間もいつもより長かった気がします」

「先生がもういいよと言ってくれて、何か変わったのかなと思っていたんですが……」

「検査薬の棒の真ん中にある丸い窓のところを見せてくれて、そこに赤い線が浮き上がっているのが見えたんです」

「そして、先生が『陽性です。おめでとう』って言ってくださったんです」


マリトは思わず苦笑した。まるで産婦人科でのやりとりみたいだ。異世界転生ならぬ、異世界誕生か――。


「それで、私は――あ、賢者様がわたしのところに来てくださったんだ、って思ったんです」

「私、すごくうれしくて……」

「『先生、どうしましょう、賢者様にどんなふうに話しかけたら良いんですか?』って、聞いたんです」

「そうしたら、『賢者様は、最初はご自分の置かれている状況がわかっていないので、いきなりいろいろ話しかけないでくださいね』といって、手順を説明してくれたんです。それで、朝になって……」


ラミーシャは最初は緊張していたのだが、そのときの気持ちを思い出したのか、身振り手振りも加えて、やや興奮気味にしゃべっている。

この調子で、ずっとしゃべり続けそうな勢いだったが、理事長が軽く制止するような手の動きをしてから口を挟んだ。


「なるほどのう。では、わしからは、全体の状況を説明するとしよう」

「先ほど話したように、おぬしを含めて6名の学生が倒れて、こちらに運び込まれたのじゃが、その中にはおぬしの兄君もおる」

「昨日に、全員が目を覚ましたので、全員に検査を行った結果――おぬしだけが陽性だということがわかったのじゃ」


「さて、ここからが大切なことなのじゃが――」

理事長は一拍置き、声のトーンを落とした。


「おぬしのところに賢者様が来られたことは、絶対に他に漏らしてはならん」

「ことは、おぬしの将来だけにとどまらず、このボルディアさらにはその他の国々の未来にも関わることじゃ」

「心してほしい」


#STATUS: SPRINT COMPLETED. PROJECT IN PROGRESS.

異世界転生ならぬ、異世界誕生のシーンです。あんまり他で見たことないかと思いますが、このあたり、ジョークにしてしまうのが、ありか、なしか、議論の分かれるところかと思います。「あり」と思ってくださる人がいらっしゃったら「いいね」ください。

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