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SPRINT 04:自己紹介をする

「え!?」

ラミーシャは驚いたように、目を大きく見開いた。

そして、映る自分の胸元に視線を落とす。

――いや、それだとむしろ余計に見えてしまうんだけど……。マリトは心の中でつぶやく。

慌てて両腕で胸元を隠そうとするが。

「え、えっ……」

かえって胸の谷間がくっきりと目立ってしまう。


ラミーシャは、自分の目に映っているものが、マリトの目にも映っているということが、まだよくわかっていない様子だ。

そのことにようやく気付いたのか、くるりと鏡に背を向けた。

「え、え、ええーっ!」

改めて驚きの声を上げる。

動揺が走る。マリトも動揺する。


「ちょっと、待ってください」

「賢者様って……男の人だったんですか?」

「そう」

「ええーーっ、そんな話聞いてませんっ!」

先ほどまでの優美な雰囲気はどこかにいって、あたふたしはじめた。


「わたし、てっきり女の人だとばかり思っていました」

「だって、その前の賢者様も女の人でしたし……」

「たしか、理事長先生も賢者様は女性だとおっしゃっていました」

「どうしてなんですか?」

質問で一旦、休止した。


「それは、こっちが聞きたいくらいで……」

一番何もわかっていないのはマリトの方である。

「声で、気付かなかったんですか?」

と聞き返した。


「あの、ですね……心の声って、音がないんです」

「だから今まで気付かなかったんです……」

そこでドヤられても困るんだけど。


「どうしましょう。どうしたらいいですか?」

なぜそこで、私に聞く。マリトは心の中で突っ込む。


「召喚だかなんだか知らないけど、私だっていきなり美少女の中にいて、どうしようって思っているところなんだよ」


しばらくの沈黙の後 ――


「あの、いま、美少女って言いました?」

「それ、私のことですよね?」


…… なんか、うれしそうだ。


そこ、今つっこむとこじゃないだろう――

とは思いつつ、とりあえず、気持ちの折り合いを付けたらしいということはわかった。


ならばこちらからも自己紹介をしておくことにしよう。マリトは思った。


「私はマリト。サワ・マリトです」

「日本の札幌にある『パーセプモーション・テクノロジー』という会社でコンサルタントをしています」


「『ニホン』というのは、地域の名前なのですね」

「『コンサルタント』というのは何ですか?」

なるほど、そういう職種はこの世界にはないということか。説明が難しい。


「簡単に言えば、会社が抱える課題を解決するためにアドバイスをする仕事かな」

「『会社』ってなんですか?」


これは長くなりそうだ。

もっとかみ砕いて説明しよう。


「困っている人に知恵を貸して助けるような仕事、かな」

「それは立派なお仕事ですね。さすが賢者様のやるお仕事だって思います」

尊敬の気持ちがわき上がってくるのを感じる。

これは、彼女の感情だ。 マリトはそう理解した。


「わたし、賢者様に、美少女って言われて、すごくうれしかったんです」

……そこに戻ってきたか。

「それって、賢者様のいた異世界の基準で見て、きれいだってことなんですよね?」

「わたし、異世界の賢者様から自分がどう見えるのか、どんな性格だと思われるのか、ずっと心配だったんです」

「私のいた世界の基準でも、君はとてもきれいだと思うし、性格もすごく好ましく思えるよ」

ちょっと天然ぽいけど、それは言わないでおく。


「それより、問題なのは、君が女性であるにもかかわらず、男性である私が君の中に入ってしまっているということだ」

「はい。わたしも驚きましたけど、賢者様の方がよっぽど驚いていますよね」

「『わたしが 取り乱して、どうするんだっ』て思ってます」

「目のやり場を考えながら暮らせば、大丈夫ですよ」


「私はもう平気です」

――気丈にそう言った。


だが、心の中の不安と戸惑いの感情は、マリトにはしっかり伝わっていた。

そのうえで、そのすべてを正面から受けて立つ、という覚悟までを感じることができた。


『たいしたものだ』マリトは素直に感心した。

応援したくなってくる。


洗面台に背を向けていたラミーシャは、鏡を見ないように気をつけながら、洗面台の方に向いた。

台の上にあるある筒状のものに手を差し出すと、そこからチョロチョロと水が流れだし、手を湿らせる。


どういう仕組みなのだろうかとマリトは思った。

テクノロジーが進んでいるようには見えないが、水道設備が整っているということか。


洗面台の横には、布やスプーンが吊るされていた。

ラミーシャは布で手を拭き、台の上にある蔓を編んだバスケットに手を伸ばした。

蓋付きのそのバスケットを持ち上げ、ぶら下がっているスプーンを取って、ベッドに戻った。

そして、左側にバスケットを置いて座った。


バスケットの中には、木製の深皿が二つと、ナンのような平たいパン、水筒のような筒が入っていた。

すべてに蓋が付いており、蓋を開けると、中身が明らかになる。


ひとつの深皿には、ほうれん草のような緑の野菜とエビを干したようなものが入っていた。

もう一つの深皿には、白く半固形の、ヨーグルトのようなものが浅く盛られている。


ラミーシャは、ナンにほうれん草と干しエビを挟んで、食べ始めた。

筒の中には水が入っていて、食事の合間にそれを飲む。

時折、スプーンでヨーグルト状のものをスプーンですくって口に運んだ。


味はマリトにも共有されている。

ナンはやや固めで、干しエビは何かのスパイスが利いている。

シンプルだがおいしい。

ヨーグルトのような食べ物は酸味が強く、これもまたスパイスが効いていた。

中に弾力のある肉団子のようなものも入っており、よく噛んで飲み込む。

色はどれも白っぽいが、なんとなくインド料理に似ていると、マリトは思った。

異世界かどうかはさておき、ここが日本ではないことは、もはや疑いようがなかった。


食べているあいだ、ラミーシャは言葉を止め、何事かを考えているようだった。

マリトのほうもまた、ひとつの疑問が頭から離れない。


――召喚が想定されていた人物は、本来、女性だったのではないか?

ラミーシャも、前の賢者も女性だったと言っていた。

しかも、自分には、賢者と言われるほどの頭脳は恥ずかしながら持っていない。


あの世界で、賢者と呼べるほどの頭脳を持っている女性を自分は知っている。

彼女以外には思い浮かばない。

ひょっとして、自分は彼女と間違えて召喚されたのではないか?

それは、この世界で召喚を行った人にとって残念な結果だったのではないか?

だとすると、召喚の目的を自分に達成できるのだろうか?


疑問と不安は尽きないが、いずれ現れる召喚を行った人物に問うしかないだろう。

当面はこの世界を知ることに専念しよう、そう思った。


#STATUS: SPRINT COMPLETED. PROJECT IN PROGRESS.

TS(性別転換)に気付かなかった理由は脳内会話のために声がわからなかったからでした。なるほど!って思ってくださった方、「いいね」ください。

ヒロインの少し天然ぽいキャラが明確になってきました。読者の皆様にもぜひ応援してもらえるとうれしいです。いいよ。応援するよ。って思ってくださった方も「いいね」ください。

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