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6.真相と彼女たちの理由①

 マンションに着くとまずは悠魅さんと日那さんの土下座で出迎えを受けた。

 特に日那さんはこのまま切腹でもしてしまうのではないかという勢いで謝り倒してきたので宥めて話を聞くまでが大変だった。

 で、ようやっと落ち着いた日那さんから聞けたのが以下の話である。


 ◇◆◇


 2ヶ月ほど前のその日、学校帰りに珍しく一人で歩いていた日那に見知らぬ女性が話しかけてきた。


「T高サッカー部でキーパーだった銅崎(どうざき)日那(ひな)さんですか?私ファンだったんです!」 

 

 日那もさすがに初めは警戒していたが、販売や勧誘をしてくることもなく、弥島美月(やしまみつき)と名乗ったその女性の会話の上手さに、どうせだからと入ったファストフード店で2時間も話した頃には、長身女子あるあるで共感しあってすっかり意気投合してしまい、翌週に居酒屋で飲む約束までしてしまっていた。


 彼女の正体が藤野氏のストーカーである多加坂氏とも知らずに。


 その後、3度目の食事会で歓談しているうちに美月から恋の悩みを相談される。

 美月の彼氏は美月の部屋には来るがなんだかんだ理由を付けて自分の部屋には絶対入れてくれないこと。

 どうも他に複数の女性を自室に連れ込んでいるらしいこと。

 その証拠を掴めば彼への未練を断って彼と別れることができるのではないかと音声レコーダーなど購入してみたが、彼にGPSで居場所を把握されて彼のマンションに近づくこともできないとのことなどが彼女から語られた。

 そして話を聞いているうちにその男というのが尊敬する先輩である悠魅から彼氏だと紹介された藤野氏であることに気付いた。


『やっぱり!あの男最初から気に喰わなかったんだよ!悠魅先輩も騙されてるって!』

 

 藤野氏との初対面のとき露骨に態度に出してしまって後で悠魅に叱られてしまったが自分の目に狂いはなかったと日那は確信した。


 ともかく見当違いの義憤にかられた日那は、美月の代わりに自分が藤野氏の部屋にレコーダーを仕掛けることを提案した。

 翌日、美月からレコーダーを受け取り、更に藤野氏の部屋が空く時間帯を聞いた日那はその日の夕方藤野氏の郵便受け内にレコーダーを仕掛けたのだった。


 ◇◆◇


「多加坂の奴、自分は家族にGPSで監視されてるうえ、このマンションもウチの学生が多いんで直接入るんは諦めたんやな。周辺調べてフジっちゃんを嫌悪しとる日那ちゃんを自分の駒にしたっちゅうことかい」

「違う大学の学生ならもしストーカーの話を聞いていたとしても自分の面は割れとらんと踏んだんじゃろうか」

「それにしても大胆というか怖い人ですね」


 レコーダーを仕掛けることを多加坂氏からお願いせずに、日那さんが自発的に実行を申し出るよう誘導しているのが怖い。


 ◇◆◇


 日那さんの話は続く。


 レコーダーを仕掛けてから数日後。突然美月と連絡が取れなくなったのだ。


 いや、取れることは取れるのだが、メッセージはすぐ消され、たまに通話が繋がっても当たり障りのない挨拶程度しかせず、レコーダーの件には一切触れない。


 このとき、多加坂氏は東京に強制移住させられて通信もお母さんや病院の監視下にあったので通話で迂闊なことを言ったり下手にメッセージを残したりできなくなっていたのだ。


 こうして図らずも美月とのコミュニケーションがとれなくなり、そのコントロール下から外れることとなった日那は少し冷静になる。


 美月は藤野さんが自分の部屋に入れてくれないけど他の女性は連れ込んでいるという。

 美月だけGPSの監視付きで?なんか不自然じゃない?

 『2週間くらいでレコーダーのバッテリーが切れるからその頃回収してほしい』

 と頼まれていたが、美月の身辺調査を優先することにした。


 さすがに悠魅に聞くわけにもいかず、S大の友人知人に当たって美月の正体に気付いた日那は愕然とする。


 尊敬する先輩と新しくできた友人を救うつもりが、やったことは客観的にはストーカーの共犯行為。

 それ以前に冷静になって考えてみればそもそも人の部屋にレコーダーなんか仕掛けていいはずがない。


『とにかくレコーダーのことを藤野さんに伝えて謝らなくちゃ!』


 とまずは悠魅に連絡を取ろうとして気づく。


『このことが藤野さんに知られたら悠魅先輩と藤野さんの関係はどうなるの?』


 藤野の立場から見た悠魅はこうなる。

『自分の部屋にレコーダーを仕掛けて盗聴しようとしたヤバい後輩を抱えた女』

 これ、アウトだ。

 そんな女と絶対付き合い続けたくないだろう。

 悠魅先輩だけにでも……いや、こんなこと絶対言えない。

 これは自分が密かに回収して処分するしかないと日那は決意した。


 もちろんその葛藤は悠魅にはバレバレで、悠魅の方では何があったのか問いただす機会を伺っていたのだが。


 しかし仕掛けるときは気分が高揚して変装らしい変装もせずに行ったが、いざ事実を知って回収しようとする今はバレるのが本気で怖い。

 警察沙汰になった挙げ句、悠魅の幸せをぶち壊すことにもなりかねない。

 考えた末に身分証を偽造して調査員を詐称することにした。

 紙袋は実際に調査員をしている祖父からこっそり拝借して。


 ところが落ちないようにと念入りに接着したことが災いしてどうしてもレコーダーを剥がせなかった。

 一旦諦めて家に帰り途方にくれていたところで悠魅からの連絡が入って詰問され、日那は遂に観念したのであった。


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