5.上川氏の正体
その後、塩辻氏は「何かボクで力になれそうなことがあったら連絡してねー」と言って次の仕事に向かっていった。
「これもう犯人多加坂で決まりやろ!あいつが仕掛けたあと、強制入院させられてレコーダー回収し損ねたんや!せやからバッテリー切れのまま放っぽっとかれたんや!」
「蛸島さん落ち着いてください。そうであったとしても上川氏の存在と行動の謎は丸ごと残ってます」
「そういやそうやった!何か謎増えとるやん!?」
本当にその通りだ。
ここにきて明らかになったレコーダーの作動期間のズレのせいで謎も容疑者も増えてしまっている。
「ん?フジっちゃん何しとるんや?」
先程からスマホをいじっている藤野氏に蛸島さんが声をかける。
「ん?ああ、盗聴仕掛けられてたことが分かったしな。悠魅に何かあったらと思ってメッセージを送ってた。できればこの件が解決するまで一緒に居る方がいいだろうし、居場所が分かったら今から迎えに行こうと思ってな」
「ああ、それがいいやろな」
といったところで藤野氏のスマホが着信音を鳴らす。
「悠魅か。今どこにいる?部屋に着いたとこ?じゃあそのまま部屋に居てくれ。いや、実は今日な……」
悠魅さんからの着信をとって藤野氏が今日起きたことを簡単に説明する。
「そういうことで今からそっちに、え?どういうことだ?悠魅?おいっ!?」
スマホを顔から離し、呆然とする藤野氏に蛸島さんが声を掛ける。
「なにがあったんや?」
「通話を切られた」
「何も言わんでいきなりかい」
「いや、ひとこと『威流、ごめんなさい』って」
「フジっちゃん、悠魅ちゃんの身長って確か」
「……177センチ、だな」
◇◆◇
さすがに自分の彼女を容疑者に含めなかった藤野氏を責められない。
その後、藤野氏がメッセージを送ったり電話を掛け直したりしたが、悠魅さんからの返答は無かった。
「通話中か……ラチがあかないな。悠魅の部屋に行って直接話を聞きにいこう」
「それならワシの車で行こう。藤野君は移動しながらでも連絡を取ることに専念した方がいいじゃろ」
「すまん、よろしく頼む」
こうして僕らは悠魅さんの住むマンションへと向かうことになった。
南山田先輩の運転する車中ではひたすら藤野氏が悠魅さんに連絡を取り続ける。
その藤野氏に蛸島さんが声を掛ける。
「なあ、フジっちゃん。悠魅ちゃん、『威流、ごめんなさい』言うて通話切ったんやろ?これもう彼女が仕掛けたんで決まりやないか?」
「そうとは限らないだろう。とにかく話を聞かないと何も分からん」
まあ、情報が足りなすぎるのは確かだけど。
「話してやっぱり悠魅ちゃんが犯人やったらどないするんや……その、付き合いを考え直すとか」
「付き合いを考え直す?いや、事情を聞いて俺の助けが必要なことがあれば力を尽くすまでだが」
「……部屋にレコーダー仕掛けて盗聴しようとしたのが自分の彼女かもしれんっちゅうことについてなんか思うところはないんかい」
「万一仕掛けたのが悠魅だったなら……あ、少なくとも悠魅に危害を加えようとする悪意の第三者は存在しないってことになるな」
「うむ、ある意味一安心じゃな」
「お前らお人好しにも限度があるやろ!?アカン、ユキ君もこいつらになんか言うたってくれや」
まあ、南山田先輩が底抜けのお人好しなのは知っていたけど、この藤野氏もたいがいだ。
けど、この人なら今僕が即席で組み立てた仮説を確認するための案も受け入れてくれるかもしれない。
「藤野さん、1つ提案があるんですが。こんな内容のメッセージを悠魅さんに送ってもらえませんか?」
「ん?どんな内容だ?」
で、藤野氏の意志を確認した上で次のメッセージを送ってもらった。
『今回レコーダーを仕掛けたのが誰であろうと警察に届け出たり訴訟沙汰にしたりするつもりは無い。そもそも何の被害も被っていない。ただ心配から真実を知りたいだけなので仕掛けた人に心当たりがあったら教えてくれないか?悠魅にとって大事な人を責めたりしないことは約束する』
数分後、藤野氏のスマホに着信があった。
「悠魅!大丈夫か!何があったんだ!?……え?そうなのか……ああ、ちょうどもうそっちに着くしな。うん、あまり気に病むなと言ってやっておいてくれ。じゃあまたそっちで」
悠魅さんとの会話を終えて藤野氏が皆に説明してくれた。
「悠魅が言うには『ウチのバカな後輩がほんっっっとーにごめんなさい。レコーダー仕掛けたのは日那です。さっき白状させました。こっちから謝りに行くのがスジなんけど本人を家に呼びつけたから。こっちに向かってるなら悪いんだけどそのまま来てもらえない?』ってことだ。瀬川君、日那ちゃんが仕掛けたってわかってたのか?」
「正直情報が少なくて彼女だという確信はありませんでした。まあ、普段から藤野さんの部屋に入れる悠魅さんが犯人ではあり得ないことは確かだと思っていましたが」
あんな場所にあんな面倒な方法で仕掛ける理由がない。
他にいくらでも方法があるはずだ。
「そして先程藤野さんは悠魅さんが『通話中だ』と言ってましたよね。この状況で彼氏の藤野さんからの連絡より優先して誰かと連絡をとる理由があったということです。更に直前の悠魅さんの『ごめんなさい』という台詞。これらの状況を総合して考えると『悠魅さんには非常に近しい人間が犯人だと言う心当たりがあって、その人に確認を取っている』ところなのかなと。恐らくここ数週間の態度の変化などから日那さんが怪しいと確信したのでしょう」
偉そうに解説してるが本当に確信は無かった。メッセージに対する悠魅さんの反応次第で次の手を考えようかと思っていたくらいだ。
「日那ちゃんやったんか……なんでまた……あ、昨日の女の正体と目的結局解決しとらんやん」
「昨日の女性も日那さんでしょう。目的はレコーダーの回収」
「回収?じゃがレコーダーは残っておったじゃろ?」
「ええ、パワーのある藤野さんがドライバーを使わなければ取れない程ガッシリ接着されて残ってましたね」
「「「あ……」」」
そう、おそらく昨日は日那さんは仕掛けるのではなく回収に来ていたのだ。
しかしレコーダーは彼女が思ったよりも強く接着されてしまっていた。
彼女が全力を尽くしても剥がせなかったのだ。
出会ったとき、10月という季節にもかかわらずハンカチで押さえなければならなかったほど額に汗をかいてた理由はそれだろう。
「ま、あとはともかく本人から話を聞きましょう」




