4.作動期間の謎
それから2時間後
あの後、盗聴器捜査の専門業者に連絡するも『立て込んでいてすぐにそちらに向かえない』との返答を受けた。
そのため急遽、南山田先輩いわく『この方面の専門家はだし』である塩辻氏という人に来てもらって藤野氏の部屋を徹底的に調査してもらい、先程
「念の為専門業者にみてもらうことをお勧めするけど、この部屋には他に盗聴、盗撮の機械は仕掛けられてないよー」
との宣言を受け、全員がホッとひと息ついたところだ。
「いやいきなり呼び出したりして申し訳なかったのじゃ。あ、もちろん依頼料も払うので後で請求してもらいたいのじゃ」
「あはは、ありがとう。金額はおまけしとくよー」
急な話にもかかわらず快く引き受けてくれた塩辻さんには感謝しかない。
「しかし瀬川君はどうやって郵便受の天板裏辺りに音声レコーダーが仕掛けられてるなんて気付いたんじゃ?」
「音声レコーダーかどうかは物を見るまでわかりませんでしたが。彼女がその辺に何か仕掛けたことに気付いたのは彼女の長身に驚いた瞬間を思い出したからです」
「?」
「エレベーターの扉が開いて彼女の姿を見た瞬間は僕は彼女がそれほどの長身とは気付きませんでした。ドアの前でしゃがんでいた彼女が立ち上がって初めて彼女がかなり長身であることに驚いたんです」
「ああ、そういえばそうじゃったの」
「いくら彼女が長身でも郵便受に何か入れるのに深くしゃがみ込む必要はありません。では何故彼女はそんな姿勢をとっていたのか?郵便受内の内側上部に仕掛けるのに受口から目視して作業するため視点を下に持ってくる必要があったからでは?と気付いたんです」
「なるほどの。確かに普通はあんな姿勢をとる必要はないわけじゃ」
「レコーダーだけならともかく外付けのバッテリーまで繋いどったからな。中に落ちんよう貼っ付けるのに慎重を期したっちゅうとこかい」
「まあそれが僕の推測の経緯です……ハァ」
僕の態度を見た南山田先輩が更に声を掛けてくる。
「ん、どうしたんじゃ瀬川君、なんか落ち込んどるようじゃが?」
「はあ、ちょっと軽率だったなあと。貼り付けてあったのが音声レコーダーだったから良かったものの危険物だった可能性もあったわけで」
自分の思いつきに舞い上がっていきなり素手で取り外そうとしてしまった。
「まあまあ、そこは俺等も同罪やで」
「警察に証拠として出したとしても、指紋とかももう分かんなくなっちゃってますよね。ハア……」
「あ、盗聴自体は犯罪じゃないから警察に届けたところでどこまで動いてくれるか分かんないよー。まーさすがにレコーダーを郵便受に仕掛けるのはまずいかもだけど。現時点ではあまり警察アテにしない方がいいんじゃないかなー」
「「「「えっ!?」」」」
僕らは知らなかったが塩辻氏いわく『盗聴』自体は法に触れないらしい。
まあ、盗聴したものを公開したり脅迫やストーキングの手段に利用すれば犯罪になるとのことだが。
「じゃあ当面このレコーダーは手元に置いといてなんかあったら警察に証拠として提出ってことでええんやないか?」
「だったらちょっとこのレコーダーで確認したいことがあるんだけどいじっていいかな?」
「ああ、かまわんよ」
塩辻氏が求めた許可を藤野氏が承諾する。
すると塩辻氏がレコーダーから外付けバッテリーを外して自分が持参したバッテリーに付け替えてスイッチをいれる。
すると今まで消えていた液晶画面が明るくなる。
塩辻氏はそのレコーダーや外したバッテリーをいじりながら言った。
「予想通りの性能だけど……何でこれを……バッテリー切れが原因だったか。動作不良は無いね……おかしいなあ」
「?なにがおかしいんや」
「おかしな点は2点あるよ。まず1点目。このレコーダーは収音機としての性能が低いタイプのものなんだ。このマンションは防音性能が高そうだよね。郵便受けの中に仕掛けられていたとしたらドアで隔てられた居室内の音声はまず拾えない。トイレの水を流す音さえも拾えるかどうか怪しい。ほぼこの玄関内か玄関前のマンション廊下限定でしか音は拾えないんじゃないかな。まあ、その分バッテリーの減りは遅くなるけど利点はそれくらいかな?これを選んだ理由が分からないんだよ」
「なるほどの。それで2点目というのは」
「さっきも言ったけどこの機種ならバッテリーの消耗を抑えられる。2週間くらいは持つはずだよ。でもさっきまでバッテリー切れで停止していた。レコーダーに付着した粘着剤の硬化具合からしてもこのレコーダーが仕掛けられたのは昨日ではなくもっと以前だと思うよ」
「「「「ええーっ!?」」」」
「ああ、記録が残っているね。レコーダーを作動させたのは9月10日の19時11分。バッテリーが切れて止まったのが9月23日の3時26分だね」
「仕掛けられたのが1ヶ月前で2週間前にはバッテリー切れとるやと?」
「何がどうなっとるんじゃか……?」