最弱魔王は嫌になる
玉座の間を出た直後。
「魔王様」
俺はいきなり後ろから声をかけられた。
あぶね、もう少しで声が出るところだった。
「お初にお目にかかります。私はファミリエーテ様から魔王様のお世話を任されているダクトと申します」
後ろを振り返ると青い髪を短めに切り揃えている美男子が柔らかい笑みを浮かべて、軽く頭を下げていた。
初めてみるキャラだな。
確かにゲームで非戦闘要員は全く姿を現していないので、知らないのは当然か。
「うむ。執事というわけか、よろしく頼むぞ」
「及ばずながら精一杯努めさせていただきます」
俺はそのままダクトに案内され、魔王の自室に入った。
この部屋は魔王城の中でも入れなかった部屋の一つだ。クリア後にしか入れないと思っていたから、少しテンション上がった。
部屋の内装自体は、派手の一言に尽きる。
真ん中にどでかいベッドが置いてあり、壁には魔法道具がいくつも飾られている。
もっと質素な部屋が良かったなんてことは言えない。
まぁベッドが気持ちよさそうなだけ良いか。
「はぁ」
たったの数分の会話だけであんなに疲れるとは。
元々普通のサラリーマンだった俺が、魔族をまとめあげる魔王かぁ………。
これで俺もレベルがカンストしてれば安心したんだけど、人生は上手くいかんな。
『勇者あーるぴーじー』において、主人公を含めた人間は『種族レベル』と『職業レベル』の二つが存在する。
『種族レベル』と関係があるのはステータス。
レベルが上がれば上がるほどステータスは上昇する。しかし、最大999レベルもあるため少しずつしか上昇しない。
そして『職業レベル』と関係があるのはスキルだ。
『戦士』や『魔術師』などの職業があり、最大999レベルある。カンストすると『転職』という儀式が可能になる。
『転職』すれば他の職業のスキルを覚えることができる。俺はファミリエーテを倒した時、『種族レベル』は勿論、全ての通常職業でレベルをカンストしていた。
俺が現実時間で千時間以上かけてたどり着いたその境地に、今から行くのはいくら魔王という優秀な種族でも無理だ。
『極爵』達に隠れてレベリングすることも無理。
やっぱりレベルが低いってことを隠すしかない。
バレたら首が飛ぶ。
ははっ。
笑えねぇ。
それに魔王になった原因もさっぱりわからない。
もしクリアしたのが原因だったらもしかしたら他にもこの世界にも地球人がいるのかもしれない。
魔族にいたら心強いんだけど、魔族は人間と比べて数が少ないから確率的には低いか。
あーあ、嫌になっちゃうぜ。
今こうしてる間も、ファミリエーテが俺の変化に気がついてたりしてな。
なんて……………そんなわけないよね?
★
ファミリエーテとその他の極爵は魔王復活のための魔法を唱えた。
人間は増えすぎた。
最近特にそう思うことが増えた。
魔族がが手を出さなければすぐ良い気になる。そして、地べたを這いずる蟻のように鬱陶しい。
この世を絶望に陥れたあの日の事を忘れ、毎日笑顔で過ごしている人間が再び絶望している様を思うとファミリエーテはつい笑みがこぼれてしまう。
そして魔王との再会。
こっちが本命といっても良い。
この日のためにファミリエーテは全力を尽くした。
優秀な部下を育て、魔族の国を発展させた。
その全ては魔王に捧げるものである。
そして魔王の瞳が開いた。
漆黒の髪と目を持ち、皆振り返るほど整った容姿。
復活した魔王を見た瞬間、最初に感じたのは恐怖だった。
極爵で一番の強さを誇るファミリエーテが全く力を測りきれないのだ。
しかし、その恐怖はすぐに愛へと変わる。
この300年間の眠りで更に力をつけたのか。
どうやって?という疑問は残るがそれを可能とするのが魔王。
ファミリエーテは、自分の考えを常に上を行く存在に再び仕えることができることを感謝した。
それは他の極爵も同じ。
力が測れる程度であれば、極爵が数人いれば互角に戦える。
しかし、測れないとなれば別だ。
ファミリエーテから聞いていたよりも圧倒的な存在。
極爵達は身を引き締めた。
そうして、極爵達とファミリエーテは勘違いをしたまま話を続けるのであった。
ファミリエーテ達は魔王が圧倒的に弱いため、逆に強さが分からなくなってます。




