最弱魔王は気が付く
目が覚めた。
眩しい光に少々驚き、徐々に目を慣らしていく。
次第に見えてきたのは西洋風の玉座の間のような広場だった。しかもどこかで見たことのある配色。俺はそこの玉座に座っていた。
そして、そこにひれ伏している数人の者たちがいた。
ある女は背中からサキュバスのような羽を生やしており、ある男からは龍のようなツノが生えている。姿は様々でとても人間だとは思えない。
しかも、ざっと見ただけで全員どこかで見たことがあった。
この状況なんだろう。
俺は確か『勇者あーるぴーじー』の魔王を倒して、アホみたいに喜んでたはずだ。そして、スマホを操作しようとした瞬間からの記憶がない。
明らかにおかしい。
しかもこの玉座の間全体を見渡しているとなんか嫌な気持ちになる。
嫌々何百回も見てきたような…………あれ?
ここ魔王と主人公が戦いを始める玉座の間じゃない?
いや、絶対そうだ。
ゲームではドット絵だったが、俺にはわかる。
ん?じゃあそこにいる者達はまさか…………
「魔王様、お目覚めになられましたか」
凛とした声が俺の耳に届く。
俺から見て一番右にいた女性からの声だ。
腰まで伸びた艶やかな銀髪に、全てを見透かすような赤い目。誰もが振り向くような絶世の美女がそこにはいた。
そこで俺は完全に察した。
第一師団の『極爵』、ファリミエーテ・ヴァーミスト。
かつてゲームの中で激闘を繰り広げた極爵がそこにいた。
普段の俺だったら絶世の美女に喋り掛けられて喜ぶところだが、最初に来た感情は怒りだ。
こっちは何回お前と戦ったと思ってるんだ。
ラスボスでもないのにHPが少なくなってから第二形態に変化するとか聞いてない。
それにスキルもえげつなくて………まぁ良い。
落ち着くんだ俺。
ここは夢ではないことは既に明らか。
めちゃくちゃ座りにくい玉座に座っている感覚や滴る汗の感覚など、その全てがここが現実であると告げている。
よって、『勇者あーるぴーじー』の世界であることはかなり確定したと言っても良い。全くもって信じられないけどな。
そしてこのような状況になった時は、落ち着くのが一番だと、転移系小説の主人公が言っていた気がする。
考えろ。
取り敢えず、玉座に座っているということは俺が魔王であることは間違いない。
どうする接するのが正解なのか。
とりあえず魔王っぽく返事してみるか?
うーむ………あ、確か先程のファリミエーテが発したセリフに少しだけ心当たりがある。
確かあれはゲームの序盤に魔族が長い眠りについていた魔王に最初にかける言葉だったような気がする。
本当に序盤も序盤のため、微かな記憶しかないが、大体なら覚えている。
とりあえず記憶通りに進めよう。
「つ、ついに私を復活させたか」
確か極師団で魔王復活の魔法を唱えたんだっけか。
それで魔王は長い眠りから復活する。
そして、この後のセリフは確か………
「魔王様、忌々しい人間を滅ぼす時は来ました。私共にご命令ください」
そう、これこれ。
ゲームなのでそこらへんの展開は無理矢理なのも仕方がないが、目覚めた途端に、「人間を滅ぼそうぜ!」と言われても困惑するだけだろうが。
ストーリー的には、魔王が復活→魔族が魔王復活を祝して主人公の村をなんとなく破壊→生き残った主人公と幼馴染が近くの王国の王様にそれを伝える→主人公は村の復讐のため魔物を倒し始める。
と言った流れだ。
ゲームのままのストーリーを進めるとすれば、俺はここですんなり了承すれば良い。
そうすれば、いつか主人公に殺される可能性もあるが、この最強集団を自由に使えるとなればその可能性はかなり低くなる。
だが、エンディングも気になるな。
俺はエンディングを見るためにやっていたと言っても過言ではない。俺が殺されることによってエンディングが、なにかしらの方法で見れるのなら死ぬのも悪くないと思ったりもする。
………いや、よく考えろ。
そもそも俺が願うのは主人公と幼馴染の幸せじゃないか?ストーリー的に、主人公と幼馴染はなかなかひどい目に合うことが多い。
それならば村を破壊させずに平穏に暮らしてもらっていた方がずっと良い。
そうだ。
主人公に戦う理由を作らなければ俺も死ななくて、どっちも幸せに過ごせるのではないか。
よし、これで行こう。
方針は決まった。
俺の全く予想がつかない展開になってしまうが、主人公が救われるならそれで良い。
なるようになってくれよ………。
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