その十三(1)
十三
試合は進行し、五対一のまま、ハーフタイムとなった。競羅が口を開いた。
「昨日は、ここまで、ちょうど一時間だったよ」
「ええ、僕も戻ってきたとき、びっくりしました。あんまり試合展開が速かったので」
「その分、今日は時間が、かかっているということか、今、九時四十五分過ぎか」
「ええ、開始から、すでに、四時間にかかろうととしています」
「あと、どれぐらい、かかると思う?」
「昨日の展開と一緒なら一時間ちょっとで終わりますが」
「それでも、十一時ちょい前ごろだね」
「ええ、あくまでも、僕の希望的観測す。現実的には、試合の流れから考えても、二時間は見た方がいいかもしれませんね」
「そうだね、初回以外は、お互いに走者が出ても点が入らない状態が続いたからね」
「ここまで王者は、ホームラン二本を入れてヒット八本 フォアボールが五個すか」
「ああ、そんな感じだったね」
「ええ、毎回、ランナーを二塁まで送るんすけど、あと一本が出ません」
「だから長くなっているのだよ。しかし、わざと出ない、とかではないのだろうね」
競羅は答えながらにらんだ。
「それはないと思います」
「だろうね、それでHOWは? こっちの方も、無駄なランナーをたくさん出していたね」
「ええ、ヒット六本に、四死球は、こちらも五個すか。毎回、ランナーが出ています」
「その間、まあ、いろんなプレーがあったね、あんた、説明をされたことを覚えているかい。まずは、三回の表と五回の裏のツーアウトからの一塁ランナーの動きからだけど」
競羅はそう天美に言葉をふった。
「ツーストライクスリーボールの時、ピッチャー投げたと同時に走ったことでしょ」
「そうだよ。結果的に三回のときは四球、さっきのはレフトフライで終わったけど、その理由も教えたからわかってるね」
「次ストライクだったらイニング終るし、ボールなら、あのときのようにフォアボールになるからでしょ。投げたと同時に走っても、ファールになってもアウトにならない」
「よく覚えてたね。ヒットなら、攻撃側に大きい結果になるからね。さて問題はあと二つの方だよ。二回裏と五回表、どっちもランナーが走った結果、ダブルプレーになったね」
「一つは三振だった。そして、走った選手も二塁でタッチされちゃった。もうひとつは、バッター打って、その球、取られたら、ボール送球されてアウトだったけど」
「ああ、昨日も少しだけ触れたけどね、あれが、そのプレイだよ。あんたなら、打者が空振りをしても、まずは、二塁でアウトはなさそうだけど、こっちのプレイは、とても重要なことだからね。いいかい、もう一度言うよ。ピッチャーが投げた瞬間、またはバッターが打った瞬間、走ることは自由だけどね。きちんと打球の行方を見ないと、当たった球が一度もバウンドせずに相手の野手に取られた時、一度、塁上に戻っていなければならないのだよ。戻らないと、その塁に送球された時点で、タッチは関係なくアウトだからね」
「そうすよ。天ちゃん、双方ともエンドランを仕掛けましたが失敗してしまいました。ですが、王者も一回だけ成功しましたね」
数弥がそう中に入ってきた。
「あったね、四回の裏か、三塁まで行ったけど、結局、点にならなかったのだから。しかし、よく考えると、初回だけだったね、昨日と同様、点が入ったのは」
「ええ、そうでしたね」
「今日も一緒のような感じはしないのかい」
「可能性はありますけど、はたして、どうすかねえ。昨日は、ピッチャー両軍とも、エースでしたし、安定した試合でしたから。何よりも、そうなると、わかってるでしょ」
「ああ、そうだね。確かに、今日は、何人もピッチャーの交代をしていたからね」
「ええ、王者、HOW側ともに四人を繰り出してます」
「そうかよ。いろいろあって、長い試合だね。おや、そろそろ始まるね」
六回の表、HOWの先頭バッターは二番鴨池、王者のピッチャーは四番手の江崎だ。
「この選手、出塁はしてるけど、今日は、まだヒットが出ていないね」
「ええ、そうすね。でも四打席目すから、そろそろ打つかもしれませんね」
数弥の言葉通り、鴨池は三遊間レフト前にボールを運んだ。その数弥は、
「僕の言った通りにヒットが出ました。ノーアウト一塁す。この試合、HOWの方は、ノーアウトからの出塁は初めてすね」
「ああ、そうだね。二回から五回までは毎回出塁をしていたけど、ノーアウトは初めてだね。けどね、それだけ、塁をにぎわせても、肝心な得点が入ってなかったから」
グラウンドでは、リードを取っていた一塁ランナーの鴨池が、江崎投手のモーションを見切ったのか、投球中にスタートをきった。キャッチャーはボールを受けたが二塁には投げなかった。その様子を見ながら、競羅は天美に向かって言った。
「あれが盗塁の極意だよ。ああやって、うまく、モーションを盗んでしまえば、キャッチャーが送球しても絶対に間に合わないからね。その辺は相手も分かっているし」
「ええ、四点差がついてますし、大きな転機にならない限り、守備側は安全策を取ります」
「何にしても、ようやく盗塁の成功例を、この子に見せることができたよ」
ここで、打順はHOWの三番小杉だ。そして、競馬も口を開いた。
「この新しい一塁手、確か、二打席ともヒットを打っていたね」
「ええ、ウイリアムス選手のように長打はありませんが、なかなか、シュアのバッティングをします。今日も、レフト前とライト前に打ち分けています」
「けどね、肝心な四番が返さなかったからね」
「ええ、そうすね。彼もいい選手すけど、小杉選手と違って繊細じゃありません」
その会話の途中、江崎が二塁ランナーを何度も振り返った。
「また、ピッチャー、気にし始めたよ」
「ええ、走られて二塁に進塁されましたからね。それに、初回も言いましたが、二塁では、いかにもサインを盗んだぞ、という態度を取りますから」
「実際はどうなのだい?」
「特にバッテリーも、この選手が二塁に行くと、特別わかりにくいサインを使いますから、盗むことはできないはずすけど、先発の外国人投手だと、その辺が難しいすね」
数弥の言葉が終わると同時に、小杉が鈍い音で、ぼてぼてのゴロを打った。三塁が取り、一塁に送球したが、ランナーの鴨池は三塁に進んでいた。
「ワンナウト三塁か、今日初めてだね、この展開」
「そうすか、三塁まではいきましたよ」
「いや、ノーアウトかワンナウトで三塁の場面だよ。この子にツーアウト以外の三塁からの点の取り方を教えてあげたかったからね」
「そういうことすか、確かに、ヒット以外もいろいろと取り方がありますからね」
バッターボックスにはHOWの四番、根本が立っていた。競羅は、
「この四番が打っていたら、HOWの方も、いくらかは点が入っていたのだけどね」




