表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/23

その十一(1)

十一


そして、HOWの長い攻撃時間が終わり、一回の裏が始まった。

「いよいよ、王者の攻撃が始まるね。十分ぐらいですむと七時までに、一回の攻防が終わることになるのだけどね」

競羅がそう声を出すと、絵里は面白くなかったのか次のように言った。

「それでは、王者に大量点が入らねえだろう」

「ほおー、あんた、そんな展開を期待しているのかい」

「そうよ 、今日のHOWの先発は緑川よ。軽く見て五点は取るよ」

「ええ、そうすね、緑川投手は、そんなに安定したピッチャーじゃないす。投げてみないとわからないという感じで。実際、立ち上がりが悪い、と大量点ということもあります」

数弥がそう言葉を添えてきた。

「なんか、話を聞いてみると、頼りない投手だね」

「ええ、ローテーションでも三番手すからエースではないす。でも、先発の一人すから、調子がいいときは、しっかりと押えますよ。その時は、まず崩れませんね」

「ふーん、そうかい。何はともあれ、試合の成り行きを見るとするか」

バッターボックスに王者の一番、大友が立った。さっそく、競羅が、

「昨日の終盤に代打で出てきた奴か。確か、何球かねばって四球で塁に出たね」

「ええ、そうすね。選球眼はいい方すから」

緑川の投げた初球は、外角低めの膝元であった。判定はボール。

 だが、天美は首をかしげた。

〈確か数弥さんの説明だと、あのコースは?〉

 二球目も同じコースに球がいった。ただ、半ボール分中よりだが。判定はボール。

 マウンドの緑川も首をかしげていた。なぜ、投げた場所がボールなのか。

 三球目は明らかにボール球であった。ノースリーだ。

「さすが、王者一の選球眼だけありますね」

 数弥のその声に、天美が不審な眼をして言った。

「でも、数弥さんの説明と違うと思うのだけど」

「どこがすか?」

「だから、最初の球と二球目のこと、特に二球目だけど、どう考えても、数弥さんの説明だとストライクのはずだけど」

「ええ、きわどいとこすからね。その辺は審判に任せるということで」

「えー、そうなの!」

「ええ、最終的には審判が決めるんす。だから、一応は決められているんすけど、きわどい場所は、試合によっては変わる場合がありますね」

四球目も、そのきわどい球より、少し甘めであったが、結局、

『ボールフォア』

の声があがり、ストレートのフォアボールで大友は一塁に向かった。

二番の有吉がバッターボックスに入った。数弥が声を出した。

「ここは、バントすよね」

そのバントを警戒した緑川の初球は、インコース高めの厳しいところにいった。

 バットを引いた有吉。天美の見た目では、これもストライクであったが、判定はボール。二球目も表の攻撃ではストライクであったがボール判定となった。

 HOWの応援団がざわつき始めた。彼らも判定のおかしさに気がつき始めたのだ。

 そして、天美も怒ったような声を上げた。

「数弥さん、わったし知らないと思って、でまかせ教えてるでしょ!」

「でまかせなんて、言ってませんよ」

「では、さっきからの判定、どう説明するの? わったしに教えたコースだと、投げた六球のうち五球ストライクじゃないの! それ、全部ボールって」

「ええ、ストライクのようなボールがあるんすけど、確かに、ボールになっていますね」

 そう答える数弥も、さすがに、ここにきては不信感を持っていた。実際、HOWの応援団の方は不審の渦という感じであった。

「だから、絶対おかしいよね」

「いや、審判がボールだと言ったら、ボールなんよ」

絵里がそう反論に入ってきた。

「でも、一回の表、見てたでしょ。あそこにいったボール、審判、きちんとストライクって、判定してたじゃないの。それに、さっきのボールだって表の時は・・」

「ごちゃごちゃ、本当にうるせえな。だから、ガキはいやなんよ」

「そういうことではなく」

「審判の判定に、これ以上文句を言うとつまみ出すぞ!」

「あんたに、そんな権限はないよ!」

競羅がビシッとした声で注意をした。

「でもね、姉貴、こいつ・・」

「この子は感想を述べているだけだよ。感想は自由だろ。それこそ、あんたこそ、ここにいるのがいやだったら、もう帰っていいよ。止めないから」

 競羅にそう言われ絵里は黙った。逆らっても、ろくなことにならないとわかったからだ。

 ここで、天美は何か考え事をしていたが、やがて、決心したのか、

「一つ聞くけど、審判って絶対的権限があるのよね」

 と尋ねた。その質問に数弥は、

「ええ、そう言えばそうなんすけど」

「審判が黒と言ったら黒、白と言ったら白となるわけね」

「昔はそうだったらしいすけど、今はビデオ判定がありますからね」

「でも、ストライク、ボールの判定は変わらないだろ」

 競羅が中に入ってきた。

「ええ、そこまで介入をすると、試合時間が延びますからね」

「となると、それを扱う主審だけが、試合の支配者となるわけね」

 天美の発言に絵里は目をむいた。だが、先ほどのことがあるので黙った状態である。

 その絵里に向かって天美は、

「ところで、絵里さん一つ聞くけど」

「何よ。その態度はあらたまって」

「今回、ここについてきたのは、ほかに、目的あったのでしょ」

「目的って、そ、そんなの、あるわけねえだろ」

 絵里はうろたえた。その様子を見ながら、天美は笑いながら言葉をつづけた。

「わかってるって、どうせ、所長さんから頼まれたのでしょ」

「なに、御雪だって! おい、どういうことなんだ!」

競羅は気色ばんだ。そして、絵里は、開き直ったかのように言った。

「そうよ、おめえはわかっていたのだな。おれが所長から、さぐりを頼まれたことを」

「スパイを頼まれたのか、詳しいことを聞きたいね」

「だから、所長に言われたんよ。人混みの嫌いな姉貴が、野球観戦をするには、絶対にわけがある。ましてや、二試合なんてありえない。その理由を探ってこいって」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ