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幻獣島旅行記  作者: 増村有紀
第2部 館の見た夢
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第3章 誰かが見ている

 ヴィーエの館に駆け込み、シドはまず中を探検した。

「ふかふかのベッド! あったかいお風呂! 暖炉! ご飯が作れる厨房!……」

 ぐるぐるとあちこちを駆け巡って、肩を落とす。

「何にもないよぅ……」


 がらんとした、調度品すらない部屋が、幾つも見つかるばかり。

 一部は壁が崩れていたり、床が落ちていたりしている。

 見つかったのは、封印されて、開けられなくなった、大きな扉だけ。


「しゃあねぇ、建物内で野宿だ」

「そんなぁぁ~。ふかふかのベッドとお布団さん~~」

 ラリサが手際よくハンモックを用意するのを見て、シドはべそをかき始めた。

「あったかいスープに、ふわふわのパン~」


「ここにねぇものはねぇんだ、諦めろ」

「また、ぱさぱさの保存食を食べるだけ?」

「水も補給出来そうにないしな、ケチケチ飲めよ」

「そんなぁ~」


 シドはがっくりした。

 旅ってもっと楽しいものだと思っていたのに。

 足のまめは痛むし、ご飯は乾燥してぱさぱさの保存食ばっかりだし、野宿もしんどいし。

 そんなこと写本や巻物には載っていなかった。旅行話はわくわくするものばかりで、退屈な途中経過なんて全部省かれていた。


「吹きさらしの屋外より、少しはましでしょう」

「ましレベルだよ~。僕はふかふかのお布団で眠りたいのに~」

 エステレルも、いつの間にか自分用のテントを張っていた。


 ぐずるシドに、ラリサは言った。

「町へ着くまで我慢しろ。旨いものを食わせてやるし、良い宿を見つけてやるからな」

「ほんと?」

「嘘ついてどうすんだよ」


 シドは「わぁい」とラリサの腰に抱きついた。

「次の町、まだかなぁ」


 寝具をめいめい用意したところで、日が暮れたのがわかった。

 一行は、携帯用保存食で簡単に腹を満たし終えており、あとは寝るだけだった。


「そう言えばさ、エステレル」

 ラリサはずっと疑問に思っていたことを尋ねた。

「おめー、手荷物殆どねぇじゃん。どっからテントなんて出したんだ?」


「ああ。私は魔法具の収納石を持っているんですよ」

 エステレルは素直に答えた。


 収納石とは、多面体で構成された魔石だ。面の数だけ、荷物を吸い込んで保管してくれる。保管された荷物は時間を止めるが、生物は吸い込めない。吸い込んだ瞬間、死んでしまう。

 これは儀式魔術によって創り出された魔法具のひとつで、正方形のもの辺りまでなら、何処にでも流通していた。町の魔法具店で売っているくらい、ありふれたものだ。


 だが、エステレルの収納石は、見たこともないほど超高価なものに見えた。

 完全な球体だったのだ。つまり、無限に荷物をしまえる特別仕様なのだ。


「お師匠様の形見ですから、誰にも貸しませんし、触らせませんよ。見せるのすら避けていたんですから」

 尤もなことを言うエステレル。

 さぞ、高名で実力のある魔術師の師匠だったのだろう。

 聞けば、身につけている装飾品も殆どが形見の魔法具だという。


「この館で無事に朝を迎えられるように、お2人にお貸ししておきますね」

 意味深長な言葉と共に、エステレルはシドとラリサに指輪を1つずつ渡した。

 渡された指輪はサイズが緩かったが、嵌めた途端にするっと縮んで、2人の指にフィットした。


 とっぷりと日が暮れると、灯したランタンの明かりだけが廃屋を照らし出した。

「おやすみなさい」

 シドは歩き疲れて、すやすやと寝入ってしまう。

「おやすみ」

 ラリサも沈黙した。


 エステレルは自身のテントの中で、じっと様子を窺っていた。

 ちょろちょろとティキが落ち着かない様子で、忙しなく主人の肩回りを駆け回っている。


(この館全体から、誰かの思念体の気配を感じますね)

(ギィ)

(明らかに見られていますね……何処からでしょうか?)

(ギィィ……)


 ティキの毛が逆立っている。聖獣ヴァウがここまで反応するのだから、間違いないだろう。

 3人は確かに誰かに監視されているのだ。


(何も起こらなければ良いのですが……)

 エステレルは、ヒントを求めて、この地に関する御伽話を読み返すことにした。

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