一章【無知なる者】
俺は、とことん不運な人生を歩んできたと思う。
齢18歳にして達観しすぎな様な気もしないでもないが、そこらへんは置いとくとしよう。
まあ、若いから。許されるもんだろ。
…って、そんな悠長にしてる場合じゃないんだな、これが。
本来なら不運な人生のあらましを説明したいところだが、とりあえず今の状況が洒落になってないんだよ。
てな訳で、せめて名前だけでも…。
――俺の名は、倉本弘樹。就職活動真っ只中の普通の高校生の筈だったのだが―――。
なんかよく分からん内に、現在殺されそうになっている。
「てめえどっからきやがった!?」
俺のすぐ前方ででかいナイフをちらつかせるボロキレの様な茶色のコートを着た巨漢が、血走った目で怒鳴りやがった。
そりゃこっちが聞きたいくらいだ!長州小力みてえな顔しやがって調子に乗るんじゃねえよ!
…と言ったあとキンタマを蹴り上げたかったが、刃物ちらつかされた手前、そんな勇気など俺はもっていない。
「…や、取りあえず落ち着きましょ?ねっ?」
つーのが精一杯の勇気だった。
小力(に似た)は俺の声が聞こえてないのか同じ言葉を何回も吐く。
そうこうするうちに小力の仲間とおぼしき似た様なコートを着た男達が現れ、俺はすっかり包囲された。
「もう一度言うぞ。何処から来やがった?まさか蛮国の密偵か?」
「…は?蛮国って…?」
「とぼけるな」
小力は質問に答えず、無抵抗をみせている俺にあろうことかナイフをつきつけやがった。
俺は悲鳴を上げ、硬直する。
「見れば黒髪に黒瞳。肌も黄色い。外見的に間違いじゃねえ」
いや、間違いだろ。俺は日本人だぞ。小力てめえも日本語喋ってんだろ。しかも蛮国ってなんだ?
「…だが、見たとこ戦闘要員って柄じゃねえな。何も知らず迷いこんだ馬鹿な旅行者か」
…どうでもいいけど、小力に馬鹿呼ばわりされると腹立つ。
小力はそれから少し間を置き、何やら仲間と相談し始めた。
捕虜だの死刑だの不吉な単語が飛び交い、俺は顔から血の気が引くのを感じた。
そして更なる沈黙の後、小力は実に気味悪い微笑を浮かべると、ナイフを引っ込め言った。
「取りあえず、直ぐに命はとらん。牢に閉じこめとくか」
…マジっすか。
俺が何か言う間もなく首筋に鈍痛が走り、途端に視界が明滅した。更に衝撃が加わり目の前がブラックアウトする。
薄れゆく意識の中、俺は首筋を打たれたら本当に気絶するんだ、などと全くどうでもいい事を考えていた。




