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第九話 流行融合体とランキング最終戦争

 第九話 流行融合体とランキング最終戦争


 俺の名前はナーロウ。


 上位世界監察局所属監察官。


 元女性。


 現在男性。


 なおタイムトラベルしてきた過去の俺が隣にいる。


 意味が分からない。


 そして今。


 目の前にはもっと意味が分からないものがいた。


 流行融合体。


 追放。


 悪役令嬢。


 ざまぁ。


 無自覚最強。


 勘違い。


 スローライフ。


 配信。


 掲示板。


 その他諸々。


 全部盛り。


 監察官人生で初めて見る怪物だった。


「なんだよあれ」


 女性版ナーロウが呟く。


「知らないわよ」


「監察局のデータベースは」


「真っ白」


「役立たねぇ」


「珍しく同意するわ」


 流行融合体は空を埋め尽くすほど巨大だった。


 身体中にタイトルが流れている。


 肩には追放された付与術師がいる。


 右腕には悪役令嬢がいる。


 左腕にはダンジョン配信者がいる。


 足元にはスローライフ農場が広がっている。


 頭の上には掲示板のコメント欄が回転している。


「欲張りセット過ぎるだろ」


 薫が感心した顔で言う。


「すげえな」


「感心するな」


 エマも絶句していた。


「もうジャンルとかいうレベルではありませんわ」


「だろうな」


 すると流行融合体がゆっくりと口を開く。


 その声は世界中へ響いた。


「我は全ての流行」


「うん」


「我はランキングの化身」


「うん」


「我は読者の願い」


「うん」


「我は作者の夢」


「うん」


「我は締切前の絶望」


「最後だけ生々しい!」


 攻略対象再編成委員会主任が膝をついた。


 顔色が真っ青だった。


「とうとう来てしまった」


「知ってるのか」


「都市伝説程度ですが」


「嫌な予感しかしない」


 主任は震える声で説明した。


「流行とは本来、一つ一つが独立しているのです」


「だろうな」


「しかしランキング競争が加速し続けた結果」


「うん」


「進化を繰り返した結果」


「うん」


「全部混ざりました」


「雑な説明だな!」


 その瞬間だった。


 流行融合体の周囲に無数の扉が現れる。


 追放ゲート。


 悪役令嬢ゲート。


 ざまぁゲート。


 配信ゲート。


 スローライフゲート。


 掲示板ゲート。


 そして。


 そこから大量の主人公達が出てきた。


「増えたぁぁぁ!」


 一万人くらいいた。


 誰も彼も主人公だった。


 追放された主人公。


 転生した主人公。


 配信する主人公。


 農業する主人公。


 王子。


 令嬢。


 勇者。


 冒険者。


 聖女。


 全部いる。


 そして。


 全員が叫ぶ。


「俺が主人公だ!」


「私が主人公ですわ!」


「僕だ!」


「俺だ!」


「私だ!」


「我だ!」


 最後の大根だけ違和感が凄かった。


「お前違うだろ!」


「マンドゴラだ」


「聞いてねぇんだよ!」


 世界が混乱していく。


 王達も叫ぶ。


 悪役令嬢も叫ぶ。


 配信者も配信を始める。


 掲示板住民は実況スレを立てる。


 スローライフ勢は畑を耕す。


「戦争中だぞ!」


 女性版ナーロウが頭を抱えた。


「駄目だわこの世界」


「今さら?」


 だが。


 その時だった。


 流行融合体が突然苦しみ始めた。


 巨大な身体が揺れる。


 空が震える。


 次元が歪む。


「どうした」


 主任も驚いている。


「そんなはずは」


 融合体の身体から声が漏れ始めた。


 無数の声だった。


 主人公達の声。


 読者達の声。


 作者達の声。


 全部混ざっている。


 そして。


 俺達は気付いた。


 融合体は苦しんでいる。


 なぜか。


 理由は単純だった。


 全部盛りだからだ。


「消化不良起こしてる!」


 女性版ナーロウが即座に見抜いた。


「当たり前でしょ!」


「入れ過ぎなんだよ!」


 流行融合体が悲鳴を上げる。


「なぜだ……」


「そりゃそうだ」


「全ての流行を取り込んだのに……」


「だからだよ」


 俺は少し考える。


 そして言った。


「なあ」


「なんだ」


「流行って一つでいいんじゃないのか」


 周囲が静まる。


 俺は続けた。


「追放も面白い」


「うん」


「悪役令嬢も面白い」


「そうね」


「配信も掲示板も面白い」


「そうですわ」


「でも全部を一作でやる必要はない」


 流行融合体が固まる。


 俺は言った。


「流行ってパーツじゃないだろ」


「……」


「結局は面白い物語が先なんだよ」


 女性版ナーロウが珍しく頷いた。


「そうね」


 ルイーザも頷く。


 薫も頷く。


 エマも頷く。


 大根だけは埋まっていた。


「何してんだお前」


「最終決戦だから記念植樹」


「大根だろ!」


 その瞬間。


 流行融合体の身体が光り始めた。


 追放が離れる。


 悪役令嬢が離れる。


 配信が離れる。


 掲示板が離れる。


 一つ一つの流行が元の姿へ戻っていく。


 融合体は小さくなる。


 どんどん小さくなる。


 最後には。


 一冊の本になった。


 真っ白な本だった。


 タイトルはない。


 作者名もない。


 あらすじもない。


 ただ。


 表紙だけがある。


 女性版ナーロウが呟く。


「新作ね」


 俺も頷いた。


「ああ」


 そして空に巨大なランキングが現れた。


 一位。


 空白。


 二位。


 空白。


 三位。


 空白。


 全部空白だった。


 世界中の住民が上を見上げる。


 追放自治区の住民も。


 悪役令嬢学園の生徒も。


 配信者達も。


 掲示板住民も。


 誰もが。


 新しい物語を待っていた。


 その時。


 監察局本部から通信が入った。


「ナーロウ」


「なんだ」


「緊急任務だ」


 嫌な予感しかしない。


 本当にしない試しがない。


 俺はため息をつく。


 通信は続く。


「次の流行が発生した」


「早ぇよ!」


「至急調査せよ」


「何だ今度は」


 通信の向こうが答えた。


 数秒後。


 俺と女性版ナーロウは同時に叫ぶことになる。


 なぜなら。


 告げられたジャンル名が。


 監察局の記録にも存在しない。


 完全新規だったからである。


 そして物語は最終話へ続く。

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