第七話 勘違い国家と野菜勇者と大根の正体がまた分からなくなった日
第七話 勘違い国家と野菜勇者と大根の正体がまた分からなくなった日
俺の名前はナーロウ。
上位世界監察局所属監察官。
元女性。
現在男性アバター使用中。
前回までの調査で追放自治区、断罪大陸、悪役令嬢学園、ダンジョン配信圏、掲示板世界、無自覚最強診断センターを巡ってきた。
そして気付いた。
流行は変わる。
ジャンルも変わる。
だが住民のおかしさだけは変わらない。
監察局へ報告した。
却下された。
「主観的表現です」
と返信された。
いや客観的だろ。
そんなことを考えながら俺は勘違い国家へ降り立った。
国名は勘違王国。
あまりにもそのままだった。
城門には巨大な看板が立っている。
ようこそ勘違王国へ。
ただし誤解です。
「何がだよ」
門番が答えた。
「王国じゃありません」
「王国だろ」
「帝国です」
「そこかよ!」
入国して十秒で嫌になった。
街へ入る。
住民達が歩いている。
平和そうだった。
だが会話がおかしい。
「昨日魔王を倒したよ」
「すごいな」
「いや偶然だよ」
「偶然で倒せるか」
「山も吹き飛ばした」
「偶然だよ」
「偶然で山吹き飛ばないだろ!」
俺は理解した。
なるほど。
勘違い系とは無自覚最強の親戚ではない。
周囲全体を巻き込んで成立する集団芸なのだ。
その時だった。
王都中央広場で人だかりができていた。
なにやら祭りらしい。
巨大なステージ。
歓声。
拍手。
屋台。
さらには何故か巨大なキャベツ。
「なんだあれ」
ルイーザが顔色を変えた。
「まずいですわ」
「どうした」
「下位世界との接続が始まってますわ」
俺は嫌な予感がした。
大抵そういう時はろくなことにならない。
案の定。
空が割れた。
次元が裂けた。
そして現れた。
どこかで見た顔。
赤い髪。
ブランド服。
鋭い目付き。
大量の野菜。
その後ろには。
喋る大根。
「お前は!」
「おお?」
向こうも気付いた。
「誰だお前」
「監察官だ」
「へぇ」
喋る大根が胸を張った。
「我はマンドゴラ」
「大根だろ」
「マンドゴラだ」
「やっぱり大根じゃねえか!」
ルイーザが驚いた。
「知り合いですの?」
「正確には下位世界観測記録だ」
俺は説明した。
下位世界群には様々な作品世界が存在する。
その中には以前観測した。
ベジランド王国がある。
野菜を恐れる国。
野菜勇者。
侯爵令嬢エマ。
そして大根。
大根である。
大事なことなので二回言った。
エマがため息をついた。
「また大根扱いされてますわね」
「大根だからな」
「違う」
「大根だ」
「違う」
「大根」
「違う」
「話進めろですわ!」
エマのツッコミが炸裂した。
俺はちょっと好きだった。
監察記録でも異様なまでにツッコミ性能が高かったのである。
すると広場がざわつき始めた。
勘違王国の住民達がベジランド組を見ている。
ひそひそ話。
ざわざわ。
ひそひそ。
「まずいな」
俺は察した。
勘違い系である。
嫌な予感しかしない。
案の定。
住民Aが言う。
「見ろ」
「なんだ」
「あの赤髪の男」
「うん」
「とてつもない圧だ」
「ただの八百屋の息子だぞ」
住民Bが震える。
「野菜を従えている」
「野菜だな」
「つまり自然そのものを支配している」
「飛躍がすごい!」
さらに悪化する。
「後ろの大根は」
「うん」
「古代神獣だ」
「違う!」
マンドゴラが得意げになる。
「聞いたか」
「お前喜ぶな!」
そしてエマを見た住民達。
「隣の令嬢は」
「うん」
「側近だ」
「違う」
「いや割と近い」
「どっちですの!」
気付けば噂が王都中へ広がっていた。
十分後。
野菜勇者は世界樹の王。
喋る大根は古代神。
エマは終焉の魔女。
ということになっていた。
「原型ないじゃねえか!」
ルイーザが青ざめる。
「勘違い系って怖いですわね」
「俺も今そう思ってる」
その時だった。
王城が開く。
現れたのは王様。
豪華なマント。
巨大な王冠。
そして異様に顔色が悪い。
王様は薫の前に跪いた。
「お待ちしておりました」
「誰を」
「世界樹の王を」
「俺ぇ!?」
薫が驚く。
エマがツッコむ。
マンドゴラが調子に乗る。
完璧な流れだった。
だが次の瞬間。
王様は泣き出した。
「どうか救ってください」
空気が変わった。
俺も真顔になる。
「何が起きてる」
王様が震える声で言う。
「最近」
「うん」
「流行の変動が激しいのです」
嫌な単語だった。
監察官として。
非常に嫌な単語だった。
王様は続ける。
「国民全員が自分を主人公だと思い始めました」
沈黙。
長い沈黙。
「終わったな」
「終わりましたわね」
「終わったですわ」
「我は主人公だ」
「お前黙れ!」
そして空が再び揺れた。
俺は見た。
世界の向こう側。
さらに高位の次元で。
無数のタイトル。
無数のタグ。
無数のランキング。
それらが渦を巻いている。
何かが近付いていた。
流行そのもの。
その中心にいる存在。
攻略対象再編成委員会主任ですら知らない何か。
ルイーザが呟く。
「まさか」
俺も気付いていた。
ここまでの流行は前座だ。
もっと大きな何かが動いている。
そして上空に巨大な文字が現れた。
スローライフ圏接近中。
「次はお前かよ!」
俺の叫びは次元の狭間へ吸い込まれていった。




