第六話 無自覚最強診断センターは今日も正常に機能していない
第六話 無自覚最強診断センターは今日も正常に機能していない
俺の名前はナーロウ。
上位世界監察局所属監察官。
元女性。
現在男性アバター運用中。
最近の業務内容は流行ジャンルの現地調査。
最近のストレス原因は調査対象が全員おかしいこと。
そして現在。
俺は無自覚最強診断センターの前に立っていた。
名前からして嫌な予感しかしない。
建物は白い。
やたら清潔だ。
看板にはこう書かれていた。
自分を普通だと思っている方お気軽にご相談ください。
「地雷原じゃねえか」
ルイーザが横で頷く。
「地雷原ですわね」
「よく営業停止にならないな」
「職員も無自覚最強ですので」
「終わってる」
受付へ向かう。
美人受付嬢がいた。
笑顔が眩しい。
背後では空間が歪んでいる。
「なんか次元が割れてますけど」
「よくあることです」
「よくねえよ」
「受付の仕事をしていたら宇宙が三つ滅びました」
「お前もか!」
受付嬢は不思議そうな顔をした。
「何か問題でも?」
「あるわ!」
すると横から少年が歩いてきた。
黒髪。
地味な服装。
気弱そう。
どこにでもいそう。
典型的主人公だった。
「今日は診断を受けに来ました」
受付嬢が頷く。
「症状は」
「最近よく言われるんです」
「なんと」
「強すぎるって」
「なるほど」
少年は困った顔をしていた。
「でも普通なんですよね」
「始まった」
ルイーザが頭を抱える。
職員が問診票を取り出した。
「では確認します」
「お願いします」
「ドラゴンは倒せますか」
「普通ですね」
「普通じゃねえ」
「魔王は」
「倒せます」
「普通です」
「普通じゃねえ」
「神は」
「三人くらいなら」
「基準どうなってんだ!」
受付嬢が頷く。
「重症ですね」
「お前が言うな」
少年は別室へ連れていかれた。
診察室らしい。
興味本位で覗いてみる。
そこには巨大な水晶。
謎の機械。
さらに白衣を着た医師。
そして天井に張り付いているドラゴン。
「医療設備に混ぜるな」
医師が真剣な顔で言った。
「では測定します」
「はい」
少年が水晶へ触れる。
瞬間。
世界が発光した。
大陸が揺れた。
空が割れた。
星が二つほど増えた。
「増えたぞ!」
「正常な反応です」
「正常じゃねえ!」
メーターが振り切れる。
針が飛ぶ。
機械が爆発する。
白衣が燃える。
ドラゴンが拍手する。
「全部おかしい!」
医師が結果を見た。
「診断結果です」
「はい」
「超最強です」
「そうなんですか」
「気付いてなかったの!?」
少年は本当に驚いていた。
嘘ではない。
心の底から驚いている。
俺は思わず監察メモを取り出した。
そして書き込む。
無自覚最強とは。
強いこと自体が特徴ではない。
本人の価値観と周囲の価値観がズレていることが本質。
その結果。
読者は周囲の反応で面白がり。
主人公は自然体のまま物語が進む。
だから流行る。
なるほど。
分かってきた。
その時だった。
診察室の壁が吹き飛んだ。
ドォォォォォン。
「またか!」
煙の中から人影が現れる。
スーツ姿。
眼鏡。
疲労困憊。
見慣れた男。
攻略対象再編成委員会主任だった。
「お前出現方法を考えろ」
「時間がないのです」
「毎回それ言うな」
主任は咳払いした。
異様に真面目な顔。
嫌な予感しかしない。
「無自覚最強も流行りました」
「そうだな」
「ですが」
「ですが?」
「次の流行が迫っています」
俺とルイーザは同時に嫌な顔をした。
大体分かる。
毎回この流れだからだ。
主任は重々しく資料を開く。
そこには一枚の図。
矢印。
相関図。
そして大量の人物写真。
「なんだこれ」
主任は震える声で答えた。
「勘違いです」
「は?」
「勘違い系です」
空が暗くなる。
雷鳴。
強風。
BGM。
演出過多である。
主任が叫ぶ。
「主人公は自分を雑魚だと思っている!」
「さっきと同じだろ!」
「違う!」
「何が」
「周囲も勘違いする!」
「悪化してる!」
次の瞬間。
空に巨大国家が出現した。
城。
砦。
軍隊。
貴族。
王。
全員が盛大に勘違いしているらしい。
ルイーザが青ざめた。
「まずいですわ」
「何が」
「勘違い国家ですわ」
「国家規模なの!?」
俺は思った。
最近の流行分析は面白い。
本当に面白い。
ただひとつだけ問題がある。
分析対象がだいたい国になっているのである。
監察局は早く危険手当を出すべきだと思った。




