第四話 ダンジョン配信者は今日もコメント欄と戦う
第四話 ダンジョン配信者は今日もコメント欄と戦う
俺の名前はナーロウ。
上位世界監察局所属監察官。
役職は第五観測局第三課主任観察官補佐代理代行である。
長い。
監察局は定期的に役職を増やす。
たぶん偉く見せたいのだと思う。
なお給料は増えない。
理不尽である。
そんな俺は現在、悪役令嬢学園の校庭に出現した巨大ダンジョンを見上げていた。
目の前には高さ数百メートルの塔。
空中には無数の映像モニター。
さらに視聴者数。
コメント欄。
高評価。
低評価。
投げ銭ランキング。
チャンネル登録者数。
ありとあらゆる情報が浮かんでいる。
「ダンジョンより配信画面の方がデカいな」
その瞬間。
謎の男性アナウンサーの声が響いた。
「本日の配信はこちら!」
「始まった」
空中モニターに映像が映る。
一人の少女だった。
銀髪。
美少女。
制服姿。
背後には巨大剣。
頭上には謎のエフェクト。
どう見ても主人公である。
「誰だ」
隣のルイーザが答える。
「超人気配信者のシルヴィアですわ」
「なぜ人気なんだ」
「強いからですわ」
「シンプルだな」
「あと顔が良いですわ」
「正直だな」
「さらにコメント拾いが上手いですわ」
「重要そうだな」
なるほど。
少し見えてきた。
昔の冒険譚では冒険者と読者の距離は遠かった。
だが配信は違う。
読者がその場にいる感覚を作れる。
コメント欄を通じて参加している気分になれる。
だから流行る。
監察報告書に書こう。
たぶん却下される。
そんなことを考えていると。
モニターの中のシルヴィアがダンジョンへ入った。
コメントが流れる。
おつー
きたー
待ってた
今日はボス攻略?
無理するなよ
「平和だな」
その次の瞬間。
ゴブリン登場。
シルヴィアが斬る。
ゴブリン消滅。
コメント欄。
つよ
さすシル
いつもの
草
「もう倒したのか」
三秒だった。
ダンジョン探索というより通勤である。
だが面白い。
なぜならコメント欄も一緒に進んでいるからだ。
攻略そのものだけではない。
視聴者との反応共有も娯楽になっている。
なるほど。
こういうことか。
俺が感心していると。
突然。
コメント欄が荒れた。
初見だけど弱くね?
やらせでは?
編集だろ
「また始まった!」
ルイーザが顔を覆う。
「アンチですわ!」
「アンチってどこにでもいるな!」
シルヴィアは一瞬だけ眉をひそめる。
だが笑顔を浮かべた。
次の階層へ進む。
そして現れた。
ドラゴン。
巨大。
凶悪。
明らかに強い。
周囲がざわつく。
コメント欄も騒ぐ。
逃げろ
やばいやつ
初見殺し
絶対無理
帰れ
今なら間に合う
「盛り上がってきたな」
するとシルヴィアは剣を構えた。
一振り。
ドラゴン死亡。
「死んだ!」
一秒だった。
視聴者数が倍になる。
コメント欄が爆発する。
草
草
草
またかよ
いつもの
可哀想なドラゴン
ドラゴン返して
「ドラゴンが被害者みたいになってるぞ」
「なっていますわね」
だがその時。
異変が起きた。
ダンジョン全体が揺れる。
警報。
地響き。
崩落。
視聴者数がさらに増える。
コメントも加速する。
なんだ
きた
イベント?
新章?
大型アプデ?
「ゲーム扱いされてないか」
そして。
ダンジョン最奥の壁が砕けた。
中から現れたのは。
巨大な人影。
スーツ姿。
眼鏡。
疲れた顔。
手には莫大な資料。
「またお前か」
攻略対象再編成委員会主任だった。
前回出てきた奴である。
男は静かに眼鏡を直す。
「皆さんご存じの通り」
「誰も知らねえよ」
「ダンジョン配信はもはや主流となりました」
「らしいな」
「しかし」
不吉な間。
男が重々しく言う。
「次の流行が来ています」
空気が変わった。
ルイーザの表情も曇る。
俺も嫌な予感しかしない。
この男が出てくる時はろくなことがない。
男は巨大な資料を開いた。
その中には。
無数の画面。
無数の書き込み。
無数の匿名アイコン。
「これは」
俺が呟く。
男は頷く。
「掲示板です」
その瞬間。
世界中のモニターが切り替わる。
配信画面が消える。
代わりに現れる膨大な文字。
膨大なスレッド。
膨大な書き込み。
ルイーザが青ざめる。
「来ましたわ……」
「何が」
「掲示板時代ですわ」
俺は天を仰いだ。
次回予告がなくても分かる。
絶対に面倒なジャンルである。
なぜなら監察局が分類する危険度ランキングにおいて。
掲示板回は。
転生。
追放。
悪役令嬢。
配信。
その全てを超えて現在単独一位だからである。




