第三話 悪役令嬢学園と破滅フラグ過密地帯
第三話 悪役令嬢学園と破滅フラグ過密地帯
俺の名前はナーロウ。
上位世界監察局所属監察官。
日々量産される下位世界の異世界作品群を監視し、ジャンルの発展傾向やテンプレート変遷を観察し、たまに現地へ降りて実態調査を行うのが仕事である。
ちなみに元は女だ。
だが前回説明したので今回は省略する。
監察報告書にも毎回書いているし。
もう六十四回目くらいだ。
そして現在。
俺は悪役令嬢学園の校門前にいた。
ものすごく嫌な予感がする。
理由は簡単である。
ここは監察局が定める危険ジャンルSランク指定地域だからだ。
魔王領域より危険。
古代神界より危険。
コメント欄炎上地区より危険。
理由。
全員が未来を知っている。
「終わってるだろ」
俺が呟いた瞬間。
校門が開いた。
ゴゴゴゴゴゴ。
まるでラスボス登場みたいな演出だった。
中から生徒達が現れる。
美少女。
美少女。
美少女。
また美少女。
そして全員縦ロール。
「クローンじゃねえか」
駄目だった。
開始三十秒でツッコミが出た。
少女達は口々に話している。
「来月婚約破棄ですわ」
「おめでとうございますわ」
「断罪イベントは秋でしたかしら」
「わたくし処刑予定ですの」
「羨ましいですわ」
「どこが!?」
理解不能だった。
普通は回避する側である。
だが彼女達の会話は妙に前向きだった。
そこへ一人の少女が走ってくる。
銀髪。
赤眼。
縦ロール。
身長低め。
明らかにメインキャラ。
「あなたが監察官ですわね」
「そうだ」
「わたくしはルイーザ・フォン・デストロイ」
「物騒な名前だな」
「悪役令嬢ですわ」
「知ってる」
「三か月後に破滅しますわ」
「知ってる」
「現在十五周目ですわ」
「待て」
衝撃発言だった。
「何周目?」
「十五周目ですわ」
「何を周回してる」
「人生ですわ」
「やっぱり終わってる!」
ルイーザは慣れた様子だった。
「この学園の生徒の七割は転生者ですわ」
「多いな」
「二割はループ経験者」
「多いな」
「残り一割は原作知識持ちですわ」
「純正品いないのかよ!」
校庭へ案内される。
そこには数百人の悪役令嬢がいた。
全員なにかやっている。
婚約破棄対策講座。
断罪回避講座。
破滅フラグ折り講座。
聖女対策研究会。
攻略対象観察部。
「部活の名前がおかしい」
しかも活動内容もおかしい。
婚約破棄対策講座では。
「では本日の授業です」
教師が黒板へ書く。
婚約破棄された場合の対処法。
生徒達がメモを取る。
真剣だ。
受験会場並みに真剣だ。
「婚約破棄された場合」
教師が続ける。
「独立して商会を作ります」
「追放もの混ざった!」
生徒が挙手する。
「チートスキルは使いますか?」
「使います」
「最近の流行を感じますわ」
「ジャンル融合し始めてる!」
別の教室も酷かった。
そこには。
ざまぁ学。
という科目名が書かれていた。
「大学かよ」
教師が教壇で説明している。
「ざまぁとは復讐ではありません」
俺は思わず立ち止まる。
教師は続けた。
「不当な扱いを受けた者が認められる過程に価値があるのです」
「真面目だな」
「ざまぁとは結果ではなく感情の回復なのです」
「めちゃくちゃ分析してるな」
生徒達も真剣に聞いている。
俺は少し感心した。
ギャグ空間ではあるが。
意外と本質を理解している。
その時だった。
警報が鳴る。
ブオォォォォォッ!
赤いランプ。
揺れる校舎。
倒れる縦ロール。
「なんだ!?」
生徒達が悲鳴を上げる。
ルイーザの顔色が変わった。
「まずいですわ!」
「何が!」
「原作主人公襲来ですわ!」
「怪獣かよ!」
校舎の向こうから巨大な影が現れる。
金髪。
美少女。
聖なるオーラ。
背後に精霊。
頭上に神。
足元にドラゴン。
「盛り過ぎだろ」
ルイーザが震えている。
「来ましたわ……」
「誰だ」
「乙女ゲーム主人公リリアーナですわ」
「そんな怖い存在なのか」
「彼女が現れると」
「うん」
「全員のフラグが動き始めますの」
「天災じゃねえか!」
空が割れる。
大地が揺れる。
攻略対象の王子達が空から降ってくる。
「移動手段どうなってる!」
第一王子。
第二王子。
宰相の息子。
騎士団長の息子。
魔法学園主席。
隣国皇太子。
「多い!」
「最近はこれでも少ない方ですわ!」
聖女リリアーナが微笑んだ瞬間。
学園中で悲鳴が上がる。
「あら?」
「来るぞ!」
「あの子がぶつかりましたわ!」
「婚約イベントですわ!」
「本が落ちましたわ!」
「フラグですわ!」
「騒がしい!」
そこら中でイベントが発生していた。
もはや交通事故である。
俺は頭を抱えた。
なぜこんなジャンルが流行ったのか。
だが少し観察して気付く。
悪役令嬢ものとは。
実は悪役の物語ではない。
与えられた運命に抗う話だ。
理不尽に決められた結末を変えようとする物語だ。
追放ものとも少し似ている。
だから共感を得た。
そう理解した瞬間だった。
空から巨大な影が降ってきた。
ゴォォォォォッ!
隕石のような速度。
地面へ着地。
煙が晴れる。
現れたのは。
眼鏡を掛けた中年男性だった。
スーツ姿。
疲れた顔。
手には大量の契約書。
「誰だ」
ルイーザが青ざめる。
「まさか……」
男は静かに名刺を差し出した。
俺は読む。
そこにはこう書かれていた。
攻略対象再編成委員会主任。
「嫌な名前だな」
男は笑った。
「最近は悪役令嬢だけでは戦えません」
「何言ってんだ」
「次の流行をお見せしましょう」
男が指を鳴らす。
すると学園の向こうに巨大なダンジョンが出現した。
さらにその上空に。
配信画面。
コメント欄。
投げ銭表示。
視聴者数。
全部浮かび上がる。
ルイーザが絶望した顔で呟いた。
「来ましたわね……」
「何が」
「ダンジョン配信時代ですわ……」
俺は思った。
次回も絶対まともじゃない。




