↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ=無能と追放された転生領主、辺境でだけ開花する【領地創造】チートで最果ての村を立て直す  作者: 夜凪レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/79

第43話 後日談 旅の一夜目

 フェーン村を出て、最初の夜が来た。


 俺たちは街道沿いの小高い丘に野営を張った。焚き火を囲むのは四人。ミリア、ガルド、ステラ、そして俺。


 振り返れば、地平の彼方に村の灯りがまだ小さく見える。黄金の沃野に変えた、あの村が。


(……ちゃんと、置いてきたんだな)


「辛気くさい顔してんね、領主さま」


 干し肉を齧りながら、ステラが言った。行商人の彼女は、旅には誰より慣れている。


「もう領主じゃない」


「じゃあ何て呼ぶの。元領主さま?」


「……アルトでいい」


「えー、それはそれで呼びにくいな」


 ガルドが豪快に笑って、焚き火に薪をくべた。火の粉が夜空へ舞い上がる。


「呼び名なんざ、どうでもいいだろ。俺はずっと領主さまで通すぜ。今さら変えられるか」


「頑固だな、お前」


「お互いさまだろ」


***


 ミリアが、温かいスープの椀を差し出した。


「アルトさま。冷めないうちに」


「ありがとう」


 一口飲む。村を出る前にステラが仕入れた香草が効いていて、体の芯が緩んでいく。


 ふと、ミリアが焚き火越しにこちらを見ているのに気づいた。


「どうした」


「いえ……」


 彼女は少し迷ってから、小さく言った。


「村を出るとき、村長さんに言ってましたよね。“この村が守られる世界を作ります”って」


「ああ」


「私、あの言葉、好きです」


 焚き火の光が、ミリアの頬を柔らかく染めている。


「だって、それって――まだ終わってない、ってことですから」


(……こいつは、本当に)


 言葉ひとつの裏側を、いつも掬い上げてくる。


「終わってないさ」


 俺は火の向こうの闇を見た。


「むしろ、まだ何も始まっちゃいない」


***


 ガルドとステラが先に眠りについたあと、俺は一人、焚き火の番をしていた。


 胸の奥で、ときどき、あの声が囁く。


(……眠れませんか)


 レムナント。俺の内側に宿った、“もう一人の声”。


(少し、考えてただけだ)


 レムナントは、少しの間を置いて言った。


(あの白面の使者のことを?)


 俺は答えなかった。


 あの戦いの日、王都軍も黒翼戦団も退かせた、白い面の存在。あれは俺の味方でも敵でもなかった。“迎えに来た”と言い、俺を連れて行こうとして――そして結局、何もせずに空へ溶けて消えた。


(迎えに来たはずのあいつが、なぜ、俺を置いて行った)


 問いは、答えのないまま胸に沈んでいる。今は、それでいい。


(焦るな、と言いたいんだろ)


(いいえ)


 レムナントの声は、めずらしく柔らかかった。


(あなたが、自分で問いを持てるようになった。それで十分です)


***


「……まだ起きてたのか」


 毛布から顔を出したのは、ミリアだった。眠そうに目をこすりながら、俺の隣まで来て座る。


「アルトさまこそ。見張りは交代制でしょう」


「もう少しだけ、起きてたい気分なんだ」


 しばらく、二人で黙って火を見ていた。


 パチ、と薪が爆ぜる。遠くで夜鳥が鳴く。村の灯りは、もう見えない。


「ねえ、アルトさま」


「ん」


「これから、どこへ行くんでしょうね」


 それは、村を出るときに彼女が口にした問いと、同じだった。


「……まだ分からない」


 俺は正直に答えた。分からないことを、分からないと言えるようになった。それも、この村でもらったものだ。


「でも、歩いてれば、きっと見えてくる。答えのある場所が」


 ミリアは少し笑って、こくりと頷いた。


「はい。一緒に、探します」


 焚き火が、二人の影を地面に長く伸ばす。


 俺たちの旅は、まだ始まったばかりだ。

 世界が何を企んでいるのかも、白面の使者が何者なのかも――何ひとつ、分かっていない。


 それでも、足元の道だけは、確かに続いている。


(行こう)


 俺は、夜明けの気配が滲み始めた東の空を、静かに見上げた。


 ――東の果てに、地図から消された土地がある。


 そう聞いたのは、それから十二日後、ラントの宿でのことだった。


お読みいただきありがとうございます。

本編エピローグの“その夜”を、後日談として描きました。


物語の結末はそのままに、旅立った四人の最初の一夜だけを、そっと覗いた一話です。

彼らの旅がこの先どこへ向かうのかは、この続きから書いていきます。


次回から第2部「セルヴァ盆地編」。四人が最初に足を止めるのは、二十年前に王国が地図から消した土地です。


ブックマーク・評価・感想、いつも本当に励みになっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。