8/40
プロローグ0、メビウス
見上げた空は、偽物だった。
人類史上最大の人工建造物である東京オリンポスは、いわば東京全土を覆い尽くす天蓋だ。連なる十の層の隙間から本物の空を仰ぎ見ることはできるものの、基本的にはそのほとんどが上の階層によって隠れて見えない。
ゆえに、東京オリンポスの各階層の空は上の階層の底に投影された人工の空だ。
その空を見て、男はあきれたように息を一つ吐いた。
かつて世界一の高さを誇ったという電波塔は、この世界樹の中ではまるで苗木のように頼りなく見える。
そんな光景を眼前にしてその男は自らの目的を果たせるのか不安になった。
この巨大な、完成されたシステムを相手にして、自分は彼女を救えるのか。目を落とした先に見えた自分の足がやけに小さく見えた。
――いや、そんなもの考えるまでもない。救える、救えないではなく、これは彼女の幸福のために必ず成さなければいけない使命だ。
と、彼は自らを鼓舞する。
地獄のような毎日をただ生き抜くのに必死だった中で、彼女との日々は彼にとってはこの上ない救いだったのだ。そんな日々を奪い去ったこの東京オリンポスを、ラプラスシステムを絶対に許してはならない。
そう決意を固め、男は再びその巨大な天蓋を見上げる。
東京オリンポス。
そこは、醜悪な虚飾で彩られた最悪の嘘。




