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東京オリンポス・カタストロフ  作者: 綿柾澄香
トーキョージェノサイド
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14、ザ・ブック 《雲乃》

『こんにちは。私は利用者支援用自立AI搭載本型ツール、ザ・ブックです。本日はどういった御用でしょうか?』


 ヒカルが持ってきた本を開くと、中から燕尾服(えんびふく)を着てハットをかぶった三頭身のちょび髭(ひげ)おじさんが飛び出してきた。


『おや、ここは図書館じゃないですねえ』


 と、ザ・ブックはきょろきょろと周囲を見回している。


「なるほどな、そいつさえあれば図書館の情報にアクセスできる、ってわけか」


 メビウスが感心したようにヒカルの手の上のおじさんに目を向ける。


「そ、前に図書館に行ったときにザ・ブックを利用したんだけど、それを思い出してね。彼なら図書館に入ってすぐの場所に配置されているし、本のサイズだからすぐに持ち出せると思ったんだよね」


「じゃあ、こいつにこれから色々と聞いていけばいいのか」


 そう言って、メビウスはヒカルから本を受け取る。けれども、本の上に浮かぶちょび髭のおじさんはそんなメビウスを見て小首を傾げた。


『申し訳ありませんが、本の貸し出し記録が確認できません。図書館の情報へのアクセスは拒否されます』


「え?」


『図書館外でのザ・ブック(わたし)の利用には正式な貸し出し手続きを行ってください』


 と、ザ・ブックは自らのちょび髭を撫でつける。


「おいおい、使えねえじゃねえか。もしかしてとんだ無駄足だったんじゃないのか?」


 なんて、メビウスは頭をかく。


「いえ、大丈夫なはず」ヒカルはザ・ブックに視線を向けた。「ねえ、いま東京オリンポスはメンテナンスモードに入っていて、その機能を四十パーセント低下させている。緊急事態なの。お願い、あなたの力を貸して」


『ふむ……』


 その言葉を聞いて、ザ・ブックは黙り込む。ほんの少しの沈黙。魔女の愛車のうなるエンジン音だけが響く中で数秒後、彼は顔を上げた。


『たしかに。確認が取れました。東京オリンポスは現在緊急事態下にあると判断しました。緊急プロトコルに則って制限が解除されます。オリンポスの機能低下によって、私のAIとしてのパーソナリティ(人格)が解放される恐れがありますが、ご了承ください。図書館外でのザ・ブック(わたし)の使用が許可されました。あなたが調べたいことはなんですか?』


「お、使えるようになったのか?」


「たぶんね、東京オリンポスじゃ公共の施設やデバイスは災害や有事なんかの緊急時には解放される、っていうのを小学生くらいの頃に習ってたのを思い出したんだ。だから、今のこのオリンポスの状況ならイケると思ったんだよね」


「なるほどな、助かったよ」


 私も小学生の頃に同じことを習っていたはずだけど、全然覚えていなかった。ヒカルのファインプレイに思わず飛び跳ねてしまいそうになる。


「なにを調べる?」


「そうだな、まあまずはダメもとで訊いてみるか……」


 と、メビウスは小さく息を吐き出した。少し、思考を整理する時間が欲しかったのか、それともいよいよアイリスへの足がかりとなる情報を手にできるかもしれないチャンスに緊張したのか。


 数秒の空白から、意を決したように彼は口を開いた。


「この東京オリンポスを制御しているラプラスシステム。その中枢を担う研究所の場所が知りたいんだが、教えてもらえるか?」


 その問いに、ザ・ブックは数回の瞬きをしてから答える。


『申し訳ありませんが、その情報は開示されていません。残念ながら私の知りえない情報は提供することができないのです』


 と、彼は三頭身のその小さな身体の肩を大げさにすくめてみせる。


「ま、そうだろうな。ラプラスはオリンポスの生命線だ。その情報を易々と公開しているはずも無いだろうさ」


 わかってた、わかってた。なんて、メビウスは軽口をたたく。


「じゃあ、菱比良(ひしびら)桜爽(おうそう)の居場所を教えてもらうことはできないか?」


 その言葉に、ザ・ブックは首を横に振る。


『申し訳ありませんが、個人を特定するような情報を教えることはできません』


「だよな、そりゃそうだ。なら……第七層よりも上層で最も警備が厳重な場所はどこになる?」


「七層よりも上?」


 その意図がよくわからなくて、思わずメビウスに訊ねてしまう。


「ああ。第七層はオリンポス運営にかかわる人間の家族が中心の居住区域だからな。そこも含めて研究所が多く集まる第八層、宇宙開発機構のある第十層と第七層よりも上、その最も警備が厳重な場所に奴がいる可能性は高いと踏んでいるんだが」


「なるほど」


 そう説明されると、確かに説得力はあるかもしれない。


『東京オリンポス内、第七層よりも上層で最も警備が厳重な場所は第十層の中央区画、アルファ研究所となりますね。ここには宇宙開発研究の核となる宇宙船の研究が行われており、非常に繊細な……』


 ザ・ブックがなにやら長くなりそうな話をしだしそうな雰囲気を醸し出してきたのを、メビウスは遮(さえぎ)る。


「それは今現在、リアルタイムな情報なのか?」


『ええ、そうですね。現在のオリンポスに集積されているデータにアクセスし、閲覧参照した結果、最も警備が厳重なのがそこです』


「なら決まりだな。とりあえず目標は十層、ってことで」


 そうメビウスが告げたと同時に、了解、と魔女の愛車は加速する。

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