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東京オリンポス・カタストロフ  作者: 綿柾澄香
トーキョージェノサイド
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13/40

4、週末はモノちゃんと 《雲乃》

 図書館を出て、私とヒカルは数秒の沈黙の後に互いに顔を見合わせた。


 史上最悪と呼ばれた魔女。


 それが、私たちが向かおうとしていた場所に住まう魔女だった。この世界に魔女は数人存在するとはされているものの、私たちが向かおうとした先にいるのがよりにもよって史上最悪と呼ばれた魔女だというのは不運というべきか。


 けれども。


「なんか、すっごいね!」


 なんて、ヒカルはなぜかすごく目を輝かせながら破顔(はがん)する。


「いや、確かにすごいけど……」


 ザ・ブックから聞かされた柏木アリサという魔女の経歴は、とんでもないものだった。というか、彼女の存在は歴史のアーカイブに記されるほどのもので、歴史上の人物と言っても過言ではない。


 そういえば、学校の近代史の授業で彼女の名前を見たような気がする。普段から授業は適当に聞き流すだけなので、確証はないのだけれども。


「……大丈夫かな」


 思わず漏れた本音に、ヒカルは大丈夫、大丈夫。なんて、根拠もなく親指を立てる。


 まあ、実際大丈夫なのだとは思う。研究対象として国に管理されているわけだし、かといって監禁されているわけでもない。彼女の存在は安全だからこそ、そういう自由を国も彼女に与えているのだろう。


 ザ・ブックの言葉も、脅し文句というか、物語を語る者の遊び心みたいなものなのだろう。怪談噺(ばなし)のオチに「あなたの背後にも……」と驚かせるエンターテイメントと同じようなもの。


 それに。


「まあ、もう視ちゃったしな……」


「ん、例のアレ?」


 ヒカルは私の顔を覗き込みながら首を傾げる。


 そう、もうすでに私たちは二人で見覚えのない場所を歩く光景を見た。その場所がどこなのかは、それを見た瞬間は理解できなかったけれども、今ならばわかる。それはきっと、下町の光景だ。あの古びた街並みが下町だというのならば、納得できる。私たちは二人で魔女の館へと向かう。そんな未来を見た。


 ならば、館へと行かない、なんていう選択肢はない。そもそも、私だって魔女に興味が無いわけじゃないし。


「そ。でも、下町なんだよなぁ……」


 東京オリンポスはラプラスシステムの未来予測システムによって、世界でも随一の治安の良さを誇る。けれども、それはあくまでラプラスシステムの影響が最も大きいオリンポス内の話で、オリンポスのさらに下層である下町は、その恩恵をフルには受けられていない。むしろ、頭上に覆いかぶさるようにして展開するオリンポスを邪魔だという住人も多く、さらにはオリンポスへの移住が叶わずに、下町に定着したような人々が集まる地域は半ばスラム化している場所もあるらしい。


 それでも海外と比べると格段に治安は良いらしいのだけれど。


「ま、変に裏道とかに入らなきゃ平気でしょ」


 と、ヒカルは両腕を組む。


 確かにその通りだ。オリンポスと比べれば治安が悪いとはいえ、特に危険な地域を除けば、情緒のある観光地として、人気のある区画もある。


 だから、そこまで怖がる必要もないだろう。


「そうだね、じゃあ次の週末にでも行ってみるか」


「ふふん、いいねぇ。週末はモノちゃんと魔女の館デートかぁ」


 彼女は満面の笑みを浮かべる。


「なにバカなことを言ってんの?」


 なんて言ってみるけれども、まあキュートな彼女からそんなふうに言われるのはまんざらでもない。

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