第七話 何も起きてないはずなのに
第七話 何も起きてないはずなのに
——目が覚めると。
アイル「おはようございます」
ネロ「……おはよう」
その声だけで、少し落ち着く。
アイル「お食事の用意は出来ていますので、食堂へどうぞ」
一礼して、部屋を出ていく。
⸻
ネロは体を起こし——周囲を見て、苦笑した。
ネロ「……うわ」
部屋はひどく散らかっている。
倒れた椅子。
散乱した本。
割れた花瓶の破片。
ネロ「……やりすぎたな」
頭をかく。
——割れた花瓶。
破片が、妙に踏まない位置に集まっている気がした。
ネロ「……?」
だが、深く考えるほどのことでもない。
ふと、窓の方を見る。
ネロ「……」
一瞬だけ、違和感。
瞬きをした、その瞬間だけ——
窓の外の景色が、ほんのわずかに“収まった”気がした。
まるで、自分が見やすい形に、整ったような。
——そう思った瞬間に、そう見えた気がした。
だが——
ネロ「……まあいいか」
すぐに視線を外す。
ネロ「後で片付けりゃいいだけだしな」
それ以上、考えない。
⸻
食堂。
アイル「本日は軽めの内容にしております」
ネロ「……ありがと」
席につく。
温かい料理を一口。
ネロ「……うまい」
少しだけ、肩の力が抜ける。
——さっきまで感じていた“何か”が、
ゆっくりと、自分の中に収まっていくような感覚。
ネロ「……なあ」
アイル「はい」
ネロ「昨日、部屋入ったか?」
アイル「はい。最低限ですが整えさせていただきました」
アイル「危険のないよう、割れ物は端に寄せております」
ネロ「……そうか。悪いな」
それだけで終わる。
——それ以上は聞かない。
⸻
外。
ネロは短剣を握る。
ネロ「……やるか」
振る。
ただの素振り。
ぎこちない動き。
ネロ「……こんなもんだよな」
もう一度振る。
ネロ「……でも」
ネロ「やるしかねぇ」
繰り返す。
何も起きない。
ただ、それでいい。
——ほんの一瞬だけ。
「こう動けばいい」と思った通りに、
刃がわずかに応えた気がした。
ネロ「……?」
だが、それもすぐに消える。
気のせいだと、片付ける。
⸻
数時間後。
ネロ「っ……」
手のひらに痛み。
マメができていた。
ネロ「……ちゃんとやった分は、返ってくるか」
ネロ「……はは」
ネロ「地道すぎるだろ……」
それでも——
ネロ「……やるしかねぇか」
⸻
帰り道。
ネロは空を見上げる。
ネロ「……」
何かが引っかかる。
今日一日、
ほんの少しだけ、
“思った通りにいきやすかった”気がする。
だが——
ネロ「……疲れてるな」
それだけで片付ける。
⸻
ネロは部屋に戻り、よほど疲れたのか落ちる様に眠りについた。
——手のひらの痛みだけが、
今日が現実だったと教えていた。
それ以外は、
どこか曖昧なまま。
——夢は、見なかった。
ただ、
何度も瞬きをしたような感覚だけが、残っていた。




