第六話 歪み始めた現実
第六話 歪み始めた現実
ネロは、何かから逃げるように——いや、叩き壊すように部屋を荒らしていた。
椅子を蹴り飛ばし、本を壁に叩きつける。
花瓶が割れる音が、やけに大きく響いた。
ネロ「全部……全部壊れてしまえ!!」
叫びは、空虚に散った。
荒れた呼吸のまま、ネロは部屋を飛び出す。
——このままではダメだ。
わかっている。
だが、
何をすればいいのかが、わからない。
いや——“わからないことが、わからない”。
思考が、空回りしている。
⸻
どれくらい歩いたのかも覚えていない。
気がつけば、いつもの店の前に立っていた。
ダン爺「いらっしゃい」
変わらない声。
その一言だけで、少しだけ現実に引き戻される。
ネロは何も言わず、席に腰を落とした。
ダン爺は
「成人おめでとう!」
「これはワシからじゃ」と言うとダン爺は、短剣とポーションを渡した。
「これから、辛い事もあるじゃろけど、しっかりやってけ!」
厳しいながらも、ダン爺らしい言葉だった。
ネロは、少しうつむきながら「ありがとう」
と、小さく呟いた。
ダン爺「なんじゃ?いつもげんきはどうした?」
ネロ「どうもこうも、俺は……」
——頬が濡れていた。
……あれ。
ダン爺「まぁ今日は飲んでしっかり食べてけ」
それ以上は何も聞かれなかった。
ネロは、話を聞いて欲しかったし、悩みも打ち明けたかった。でも答えは出ている。
——全部、俺のせいだ。
——そう思った瞬間、胸の奥が冷えた。
「……ハズレか」
その言葉だけが、やけに鮮明に残った。
ダン爺「最近な、変わったギルドが出来たらしい」
「スキルなんて関係ねぇ、全員で狩るってよ」
「ワシの息子ニックもそのギルドに加入出来て喜んどったわ」
「このご時世1人では稼ぎにならんし、ギルドなら分配にはなるが安全は保証される」
「だから、1人で抱え込まなくてもええってことじゃ」
——ダン爺の息子ニックは狙撃のスキル持ちだがソロでは、なかなか上手く行かなかったようだ。
——ギルドに入ればもしかしたら……
ネロ「ダン爺!ご馳走様。やれるだけ
やってみるよ!」ネロはお代を払おうとしたが——
ダン爺「かまわん、今日はお前の成人祝いじゃ!」
「その代わり今度来る時は盛大にだ!出世待っとるぞ」と言われるとネロは店を後にした。
——ダン爺のおかげで前を向いて一歩が踏み出せそうだ
——期待と不安混じり合う。もしかしたら自分にも——
部屋に戻り椅子に座って一息入れるネロ。
「こんな俺でも……見てくれる人はいるんだな」
ふと、部屋を見渡した。
「……こんなに荒れてたっけ」
窓に走るヒビが目に入る。
「まぁいいか……明日直してもらおう」
そのまま、ネロは眠りに落ちた。
⸻
——その時
「スッ」
ヒビが消える。
音もなく。
理由もなく。
——まるで、“最初からなかった”かのように。
ネロは、眠っている。
何も知らずに。
——自分が、現実を歪めていることも。




