表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/5

第四話 試練



父「後で部屋に来るように」


それだけ言い残し、父は去っていった。


――これから、どうすれば……


ネロは俯いたまま、自室へと戻る。


扉の前には、メイドのアイルが静かに立っていた。

 アイルは静かに仕え、決して出過ぎない――それが彼女の役目。

だがその瞳は、誰よりもネロの痛みを知っていた。

言葉にできない想いを胸に抱えながら、それでも彼女は傍に立ち続ける。


アイル「会食、お疲れ様でございました。お着替えのご用意ができております」



その声はいつもと同じはずなのに、どこか気遣うような響きがあった。


ネロ「……ありがとう」


短く答え、ネロは服を着替える。


アイルは何か言いたげに口を開きかけ――しかし何も言わず、頭を下げた。


その沈黙が、かえって胸に刺さる。


――誰も、何も言わない方が楽だ……


着替えを終えたネロは、父の部屋へと向かった。


廊下がやけに長く感じる。


一歩進むごとに、胸の奥が重くなる。


――父は、優しい人だった


ルシウス・ヴァルディウス。


厳しくも、誇り高く、それでも家族には温かい父だった。


少なくとも――今日までは。


ネロは扉の前で立ち止まる。


ノックをする手が、わずかに震えていた。


――もう、戻れない


コン、コン。


ネロ「……ネロです」


父「入れ」


その一言は、驚くほど冷たかった。

 ネロ「……失礼します」


扉を開けると、父――ルシウス・ヴァルディウスは窓の外を見ていた。


背中越しでもわかる。

その空気は、今までの父とは違っていた。


父「来たか」


ネロ「……はい」


短い沈黙が落ちる。


ネロは言葉を探すが、何も出てこない。


父「……今回の件について、何か言うことはあるか」


ネロ「……ありません」


父「そうか」


それだけだった。

怒鳴りも、叱責もない。


――それが、余計に苦しい。


父はゆっくりと振り返る。


その目には、かつてネロに向けていた温かさはなかった。


父「失望した、とは言わん」


ネロ「……」


父「期待していた分、現実を見せられただけだ」


ネロは拳を強く握る。


父「“中二病”……か」


その言葉が、胸を抉る。


父「そのスキルでは、この家の名は継げん」


ネロ「……はい」


父「貴族としても、当主としても――お前は不適格だ」


はっきりと告げられる現実。


逃げ場はない。


父「だが——」


ネロは思わず顔を上げた。


父「追い出しはしない」


ネロ「……え?」


一瞬、理解が追いつかない。


父「この家に居ることは許す。ただし、条件がある」


父の視線が鋭くなる。


父「冒険者として生きろ」


ネロ「……冒険者?」


父「そうだ」


父「貴族として価値がないなら、自分の力で価値を示せ」


父「剣でも、知恵でも、そのスキルでも構わん」


父「結果を出せ」


重い言葉が、静かに落ちる。


父「出来ぬなら、その時は——この家を出ろ」


ネロの喉が鳴る。


父「猶予は一ヶ月だ」


ネロ「……一ヶ月……」


父「短いと思うか?」


ネロは首を横に振る。


父「ならばいい」


再び、沈黙。


父はふっと視線を外し、窓の外へ向けた。


そして、小さく――


父「……弱いままでいるな」


その言葉は、命令なのか、願いなのか分からなかった。


ネロはしばらく立ち尽くし――


やがて、ゆっくりと頭を下げる。


ネロ「……わかりました」


ネロ「やってみせます」


父は何も答えなかった。


だが、その背中は――ほんのわずかにだけ、揺れた気がした。

 ネロは父の部屋を後にし、自室へと戻った。

 扉が静かに閉まる。


――終わった


胸の奥が、空っぽになる。


その時――


「遅いわね」


冷たい声が、廊下に落ちた。


ネロ「……母上」


そこに立っていたのは、母――セレナ・ヴァルディウス。


整った佇まい、隙のない視線。


その姿は、貴族として“完璧”だった。

 母「父から話は聞いたわ」


ネロ「……」


母「あなたに期待していた結果がこれ?」


母「……本当に、情けないわ」


その声に、温度はなかった。


母「正直に言って——見てるだけで辛いの」


ネロ「……」


母「しばらく、顔も見たくないわ」


ネロの胸が、きしむ。


母「自分が何を背負っているのか……自覚なさい」


言い終えると、母は踵を返した。


迷いのない足取り。

 ——落胆と共に、ネロは強く誓った——見返してやる  と。

 

 だがネロはまだ知らなかった。


自分が“何もできない”という現実を。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ