第十一話 空っぽのまま当たる
第11話 空っぽのまま、当たる
陽の光が差し込み、ネロは目を覚ました。
――全身の汗がひどい。
ネロ「……なんだろ、全身に力が入らない……」
ふと、顔を上げる。
ネロ「アイル?」
――そこに、アイルの姿はなかった。
着替えを済ませ、日課の訓練に向かう。
いつものように、素振りから始める。
だが――
どこか、ズレている。
集中できない。
ネロ「ダメだ……こうじゃない、もっとこう……」
先日の感覚を思い出すように、剣を振る。
だが、振れば振るほど、違和感が増していく。
重い。
昨日までのイメージと、まるで違う。
ネロ「あー……もう、くそっ!!」
言葉だけが先走り、身体がついてこない。
――ネロは早々に訓練を切り上げ、部屋に戻った。
ネロ「今日はやめだ……外に出て気分転換だ!」
ネロは金を管理しているミーナのもとへ向かう。
——ミーナは、ヴァルディウス家のお金を、管理している。
ネロ「外に行くから、金出して!」
ミーナ「かしこまりました」
ミーナは静かに金を差し出す。
ミーナ「どちらへ?」
ネロは答えず、そのまま外へ出た。
――町を歩く。
元気にはしゃぐ子供たち。
商いに励む商人。
立ち話をする主婦たち。
――いつもと変わらぬ光景。
だが。
ネロ「……なんだ?」
違和感。
ネロ「何か……感じるような……」
ネロ「見られてる……?」
周囲に視線をやる。
だが――誰も見ていない。
足早にたどり着いたのは、ギャンブル場だった。
ネロ「やっぱ気分転換はここだろ!」
ネロ「がっつり儲けるか!」
店に入ると、店員が笑顔で迎える。
店員「いらっしゃいませ!」
意気揚々と足を踏み入れる。
ネロ「やっぱこの雰囲気いいね!」
ネロ「さて、何しよっかな」
ネロは金を湯水のように使う。
負けても痛くない。
親の金だ。
ネロ「惜しいな……もうちょいで勝てたのに」
ネロ「よし、次だ次!」
店員「惜しかったですね」
店員「でもさすがネロ様!勝負事はこうでなくては!」
太鼓持ちのように持ち上げる。
ネロ「よし!これで勝負!」
ネロ「やった!当たった!」
店員たちの拍手。
店員「すごい!」
店員「流石です!」
店員「勝負事の伝道師!」
――ご満悦のネロ。
だが。
勝負を重ねるごとに、元金は確実に減っていた。
それに気づかないネロ。
――当然だ。
この店は、ネロを“完全にカモ”にしていた。
ネロ「そろそろ金もなくなってきたし、帰るか」
ネロ「これで最後な」
席を立とうとする。
店員「まぁまぁ、最後に大勝負いきましょうよ」
店員「これで勝てば、大勝ちですよ」
――あからさまに仕組まれた勝負。
ネロ「え……いや……でも」
店員「大丈夫ですよ」
店員「そちらの短剣も賭けに入れますので」
店員「それでは――ゲームスタート」
――当たれば一発逆転。
――外せば、ダン爺にもらった短剣を失う。
ネロ「…………」
心臓の鼓動が速くなる。
ネロ「……当たってくれ!!」
目を開ける。
――当たっていた。
ネロが驚く。
それ以上に、店員が驚いていた。
店員「……そんな、バカな……?」
ネロ「ん?何か言った?」
店員「い、いえ……おめでとうございます」
店員「こちら、勝ち分でございます」
ネロ「ありがとう。また来るね」
――店を出る。
ネロ「よかった……まさか勝てるなんてなぁ」
機嫌よく歩く。
その時――
???「きゃー!!助けて!」
悲鳴。
ネロはその方向を見る。
数人の男が、フードを被った少女を囲んでいた。
男「いいじゃねぇか」
男「何も取って食おうってわけじゃねぇ」
男「俺たちと遊ぼうってだけだろ?」
少女「離してください!お金なら差し上げますから!」
ネロは一歩踏み出す。
ネロ「……今日は上手くいきそうな気がする!」
ネロ「行くか!」
走り出す。
ネロ「やめな!嫌がってんだろ!」
ネロ「相手なら俺がなるぜ!」
――理由はない。
ただ。
“いける気がした”。
男「ちっ……いいところだったのによ」
男「おい、ドル。相手してやれ」
ドル「はいはい」
ドル「お坊ちゃん、ヒーローごっこはお家でしましょうね」
周囲から笑い声。
ネロ「笑ってられんのも今のうちだ!」
拳を振りかざす。
――だが。
現実は、あまりにもあっけなかった。
ネロ「……え?」
顔から血が吹き出る。
容赦のない攻撃。
ネロ「や……やめてくれ……」
ドル「おいおい、口だけかよ」
ドル「ちょっとは張り合えよ」
殴られる。
一方的に。
ネロ「……悪かった……俺の……負けだ……」
ネロ「……降参……」
ネロは、勝ち分の金を差し出した。
ドルは殴るのをやめる。
ドル「くだんねぇ」
ドル「殴る価値もねぇな」
金を奪う。
ドル「ヒーローごっこもいいけどよ」
ドル「やると決めたら最後までやりな」
男「じゃあな。あとは二人で仲良くしな」
笑いながら去っていく。
少女「あの……大丈夫ですか?」
ネロ「大丈夫な理由、ないだろ……」
ネロ「せっかくいい気分だったのに、最悪だ」
苛立ちながらも。
ネロ「……怪我、ないか?」
少女「あっ……大丈夫です」
少女「ありがとうございました」
少女「私、カリナっていいます」
少女「とにかく、手当てを――」
少女が手をかざす。
カリナ「光の精霊よ――我が声に力を貸したまえ――ヒール」
傷が、ゆっくりと癒えていく。
ネロ「……これ、魔法?」
カリナ「簡単なものですが……これで大丈夫かと」
ネロ「すごい……ありがとう」
ネロ「これが魔法か……」
子どものように目を輝かせる。
カリナ「改めて、ありがとうございました」
ネロ「いいよいいよ。結局、助けれてないし」
ネロ「金も取られて、このザマだしな」
ネロ「でも、傷治してくれてありがとな」
ネロ「じゃあ、気をつけてな」
カリナ「あの……お礼――」
ネロ「気にすんな」
ネロ「じゃあな」
背を向ける。
歩き出す。
ネロ(……俺と関わると、また傷つけるかもしれない)
ネロ(それに俺は……ハズレスキルだ)
ネロ(あの子だって……知ったら、きっと――)
ネロ「……バカにする」
ぽつりと呟く。
――空っぽのまま。
ネロは帰路に立った。




