第十二話 空白の先にあるもの
第12話 空白の先にあるもの
——それから数日後。
朝、目が覚めると。
どこか気の抜けた自分がいた。
——あれからネロは、ただ作業のように訓練に明け暮れていた。
潰れたマメは何度も剥がれ、血が滲んでも、剣を振る手は止めなかった。
痛みすら、少しずつ感じなくなっていく。
——だが。
ネロ「……くそっ」
ネロ「忌々しい……」
ネロ「なんで……あの時……」
あの日の光景が、頭から離れない。
助けに入って、何もできず、ただ殴られた。
——恥だった。
ネロは今まで、人助けなどしたことがない。
だからこそ。
あの無様さが、焼き付いて離れなかった。
ネロ「……逃げたままは、気に食わねぇ」
低く、吐き捨てる。
ネロ「この鍛錬に、無意味じゃないって証明してやるよ」
一歩。
また一歩。
強くなると決めた。
——訓練を終え。
いつもなら、そのままギャンブルに向かうところだったが。
ネロは、机に向かっていた。
ネロ「あの魔法……ヒールとか言ってたな……」
本を開く。
——基礎魔術理論。
だが。
ネロ「……意味わかんねぇ」
文字は読める。
だが、内容が頭に入ってこない。
ネロ「そういや……何か言ってたな」
記憶を頼りに、口にする。
ネロ「光の精霊よ――我が声に力を貸したまえ――ヒール」
——
——————何も、起きない。
ネロ「……っ」
分かっていた。
それでも。
どこかで期待していた。
ネロ「……ほんと、何もねぇな……俺」
静かに吐き出す。
ネロ「……とりあえず全部読むか——」
理解できなくてもいい。
とにかく進める。
藁にもすがる思いで、詠唱を繰り返す。
ネロ「火の精霊よ——我に力を貸したまえ——」
ネロ「水の精霊よ——我に力を貸したまえ——」
ネロ「風の精霊よ——我に力を貸したまえ——」
——そして。
ネロ「……闇の精霊……力を……」
沈黙。
何も起きない。
時間だけが、無駄に過ぎていく。
ネロ「……いや、待て」
ネロ「ちゃんとやってるよな……?」
ネロ「言葉も、順番も……間違ってない……」
——それなのに。
ネロ「なんでだ!?」
ネロ「どうして何も起きない!?」
ネロ「何が違うって言うんだよ!!」
感情が爆発する。
ネロ「くそっ!!ふざけんな!!」
本を掴み、壁に叩きつけた。
ネロ「役に立たないなら、燃えてしまえ!!」
吐き捨てるように言い、部屋を出る。
——その瞬間。
本のページが、わずかに焦げた。
煙が、ほんの一瞬だけ立ち上る。
だが。
すぐに、何事もなかったかのように消えた。
——ネロは気づかない。
確かに、“何かが起きていた”ことに。




