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追放された英雄――戦神の加護を得た底辺騎士は王国と決別する。「お前のおぞましい愛などいらない!」  作者: 猫野 にくきゅう
第三章

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第23話 万剣顕現、聖剣の雨

 上空の黒球――

 破壊神・イザベラによる猛攻。


 数千の攻撃が、聖女の結界を襲った。


「……くっ、あああああッ!!」


 フィリアの悲鳴に近い叫びが、亡国の荒野に響く。


 彼女が掲げた杖から展開された白銀の障壁は、すでに限界に達していた。

 障壁の表面には、ガラスが砕けるような無数の亀裂が走り、そこから破壊神の瘴気が漏れ出して、フィリアの皮膚を焼いている。


「フィリア、もういい! 後は俺が引き受ける!」


 レオンハルトは彼女を背後に庇い、自身も限界を超えて剣を振るい、戦神の神気を放出していた。だが、彼の放つ黄金の光でさえ、この一方的な暴力の前には、嵐の中の蝋燭の火のように頼りなかった。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 上空の破壊神・イザベラは、侵入者の足掻きを嘲笑うように、巨大な鼓動を繰り返している。


 その鼓動のたびに、触手の速度と威力は増していった。


(……このままでは、彼女を守りきれない。俺の剣だけでは、あの巨大な質量を削り取ることは不可能だ)


 レオンは、手にした予備の鉄剣を見つめた。

 すでに刀身は神気に耐えきれず、ボロボロに崩れ始めている。


 この状況で必要なのは、敵を一撃で葬る最強の剣ではない。あの巨大な「絶望の海」を、広範囲に、そして同時に削り取ることができる、圧倒的な「数」の力だ。


 その時、レオンの視界に、広場を埋め尽くす「剣の墓場」が映った。


 虐殺されたグラン・メリアの騎士、兵士、民兵たちが遗した、無数の錆びついた剣。それらは、主の無念と、イザベラへの怨嗟を吸い上げ、不気味に震えていた。


「……そうだ。彼らにまだ「意思」が残っているのなら」


 レオンは、ボロボロの鉄剣を地面に突き刺した。

 彼はそのまま意識を集中し、自身の魂の根底にある『戦神アレースの加護』を地面へと流し込む。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」


 レオンハルトを中心に、黄金の神気が波紋のように円形に広がっていった。


 その光はラトニアで放ったものよりも遥かに濃く、純粋で、神聖な輝きを放っていた。黄金の光は広場を埋め尽くす「剣の墓場」全体を包み込んでいく。


「……聞こえるか、グラン・メリアの英霊たちよ!」


 レオンの声は、神気に乗って、世界の理を軋ませながら響いた。


「お前たちの命を奪い、魂を弄んだあの『破壊の神』を、俺は決して許さない! 俺に、その無念を貸せ! お前たちの『生きた証』を、今一度、世界を救うための『魔を滅する刃』に変えさせてくれ!」


 レオンの呼びかけに、大地が激しく共鳴した。


 ガガガガガガガッ!


 地面に突き刺さっていた数万、数十万の錆びついた剣が、一斉に鳴動を始めた。

 それらは、レオンの放つ戦神の神気を、枯れ木が水を吸うように凄まじい勢いで吸収していく。


 一本、また一本。

 剣を覆っていた錆が、光の粉となって弾け飛んだ。


 粗末な鉄剣は魔法銀ミスリルのように輝き、折れた長剣は光の刀身を取り戻し、槍の穂先は神聖な魔力を帯びて鋭さを増していく。


 レオンの授かった戦神アレースの加護とは、単なる身体強化ではない。

 それは、あらゆる武具に神聖な「光の属性」を付与し、その真の価値を引き出す「万剣の王」としての権能だったのだ。


「……万剣顕現プロリフェレイション


 レオンが静かにその名を唱えた瞬間、数万の聖剣が重力を無視して浮かび上がり、レオンを中心とした巨大な黄金の渦を形成した。

 その数は、広場を埋め尽くすだけでなく、王都グラン・メリアの全域を覆い尽くすほどだった。


 黄金の光が王都を昼のように照らし出し、上空の黒球を包囲する。

 神をも穿つ「聖剣の雨」が、亡国の空に降り注ごうとしていた。


「……レオン様、これは……」


 フィリアが障壁を解き、目の前の奇跡に瞳を輝かせた。

 彼女は、レオンが背負う宿命の重さと、彼が受けている加護の真の恐ろしさを、肌で感じていた。


「行くぞ、みんな。……あの狂った破壊神を、破壊するために!」


 レオンが右手を上空の破壊神へと向け、勢いよく振りかざした。

 その瞬間、浮かび上がった数万の聖剣が、一斉に射出された。


 ゴォォォォォォォォォッ!!


 それは、文字通りの「聖剣の雨」であった。

 黄金の光を纏った数万の刃が、亡国の空を埋め尽くし、音を置き去りにして破壊神へと殺到する。


 ドガガガガガガガガガガガガッ!!


 凄まじい着弾音が、大陸全土に響き渡った。

 聖剣の一本一本が、破壊神の暗黒の肉体を容易く貫き、切り裂き、削り取っていく。


 触手攻撃は聖剣の濁流によって一瞬にして粉砕され、相殺された。

 削られた暗黒の液体は、聖なる光によって浄化され、赤黒い蒸気となって空中に霧散していく。


『が、あああああああああああああああああッ!!』


 脳内に直接、イザベラの、あるいは悪魔レヴィアタンの、苦悶に満ちた絶叫が響いた。


 黒球が激しく脈動し、削り取られた部分を再生させようとするが、聖剣の雨は留まることを知らない。

 レオンは、浮かび上がった剣を次々と補給し、破壊神へと降らせ続ける。


 数分後。

 数万の聖剣による波状攻撃が、一時的に止んだ。


 上空の黒球は、その表面の大部分を削り取られ、元の巨大な球体の形状を保てなくなっていた。ドロドロと溶け出した暗黒の肉体の奥深く。


「……あれは」


 レオンとフィリアは、削られた瘴気の霧の奥深くに、それを見た。


 禍々しく脈動する、赤黒い結晶体。

 それは、遥か昔から封印されていた「破壊神の核」であり、イザベラの歪んだ魂が囚われている、この災厄の本質であった。


 核の露出とともに、これまでとは比較にならないほど強大で、禍々しい圧力が二人を襲った。


「……緒戦は、僕たちの勝ちだ。でも……」


 レオンは、地面に突き刺していた予備の剣を引き抜いた。


「本当の地獄は、これからだ」


 まとっていた瘴気を打ち払われた破壊神の核は、イザベラと悪魔レヴィアタンを融合させた姿へ変貌を始めようとしていた。

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