表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生、豊臣秀頼  作者: 森部 かい
第1章 豊臣家を背負う者
7/9

07話 太閤の懸念

 ――――――


 天下人(てんかびと)豊臣秀吉(とよとみひでよし)との対面を果たした秀頼(ひでより)は、今後もこの世界を生き抜くために、聞けることは何でも聞いておこうと考えた。


 「お茶々(ちゃちゃ)よ、此度(こたび)は頼みがあって呼んだんじゃ」


 先に話を切り出したのは秀吉(ひでよし)であった。どうやら彼が淀殿(よどどの)秀頼(ひでより)を呼んだらしい。


 「……殿下(でんか)、なんなりとお(もう)し付けください」


 「うむ、(しか)らば(もう)しておく。わし()(あと)天下(てんか)が割れぬように出来うる限りのことは全てやっておいたつもりじゃ。()れど、万一(まんいち)事態(じたい)()きにしも(あら)ず」

 

 秀吉(ひでよし)淀殿(よどどの)を見つめ、先ほどとは打って変わって真剣(しんけん)様子(ようす)で話し始めた。


 「じゃによって、お茶々(ちゃちゃ)には秀頼(ひでより)()りかかりし万難(ばんなん)退(しりぞ)けるため、尽力(じんりょく)してもらいたいのじゃ」


 「無論(むろん)わらわは身命(しんめい)()して()が子を守る所存(しょぞん)にございます」


 「頼む……」


 秀吉(ひでよし)は頭を下げ、淀殿(よどどの)懇願(こんがん)した。動揺(どうよう)した淀殿(よどどの)は、『頭を上げてください』と言わんばかりに秀吉(ひでよし)(かた)を持ち上げ、手を(かた)(にぎ)った。

 

 「おね、其方(そち)秀頼(ひでより)とお茶々(ちゃちゃ)を支えてやってくれ……」


 「おね?」


 秀頼(ひでより)(つぶや)いた。『おね』とは『北政所(きたのまんどころ)』のことで、表記(ひょうき)には様々な諸説があるが、どれも『ねね』や『ねい』と読み、『北政所(きたのまんどころ)』という名称(めいしょう)は元々、摂政(せっしょう)関白(かんぱく)正室(せいしつ)に対して(もち)いられた尊称(そんしょう)であり、豊臣秀吉(とよとみひでよし)関白宣下(かんぱくせんげ)を受けて以来(いらい)、彼女は『北政所(きたのまんどころ)』という通称(つうしょう)で呼ばれるようになった。


 「ほっほっほ、秀頼(ひでより)殿、わらわのことですよ。……殿下(でんか)、わらわも豊臣(とよとみ)家の安泰(あんたい)(ねご)うて、殿下(でんか)(おぼ)()しに(かな)うよう尽力(じんりょく)いたします」


 「(みな)、よろしゅう頼む……」


 秀吉(ひでよし)の、()が子の成長を最後まで見届(みとど)けられない事に対する(くや)しさと失意(しつい)が、憮然(ぶぜん)としたその表情から(うかが)えた。


 「父上!元気を出してください!!絶対に豊臣(とよとみ)家を守ってみせます!!」


 なんの考えもないが、秀頼(ひでより)落胆(らくたん)している秀吉(ひでよし)を元気にさせようと言葉を発した。


 「カッカッ!!……頼もしい限りじゃ」


 秀吉(ひでよし)は、無邪気(むじゃき)にも昂然(こうぜん)(むね)()り自分を安心させようとする()が子を(ほこ)らしく思いながらも、その反面(はんめん)、そんな子どもを見守ってやれない自分の不甲斐(ふがい)なさに瞑目(めいもく)して口惜(くちお)しんだ。


 「さてと、このことだけではありますまい?」 


 「うむ、そうじゃった」


 しばらくの沈黙(ちんもく)の後、北政所(きたのまんどころ)がこの暗い雰囲気(ふんいき)払拭(ふっしょく)するかのように話を持ち出した。


 「以後(いご)のことじゃが、秀頼(ひでより)成長の(あかつき)までは、これまでと同じく五大老(ごたいろう)五奉行(ごぶぎょう)政務(せいむ)分掌(ぶんしょう)し、表向(おもてむ)きの指図(さしず)秀頼(ひでより)生母(せいぼ)であるお茶々(ちゃちゃ)が、奥向(おくむ)きの指図(さしず)はおねが(つと)むることとするが、異存(いぞん)はないかの?」

 

 「ござりません」

 

 「ござりません」


 秀吉(ひでよし)の死後、嫡男(ちゃくなん)秀頼(ひでより)生母(せいぼ)である淀殿(よどどの)実権(じっけん)(にぎ)ったとはいえ、秀吉(ひでよし)正室(せいしつ)であった北政所(きたのまんどころ)威光(いこう)もしばらくは(おとろ)えなかった。奥向(おくむ)き、つまり豊臣(とよとみ)内部(ないぶ)のことは北政所(きたのまんどころ)()仕切(しき)ったのである。


 「それから、明日(あす)より五大老(ごたいろう)五奉行(ごぶぎょう)、そして諸大名(しょだいみょう)らの誓紙(せいし)血判(けっぱん)を取り付け、それぞれにわしの遺言(ゆいごん)を伝える。そのことについてお(ぬし)達にも承知(しょうち)しておいてほしいのじゃ」


 「(しか)(うけたまわ)ります」


 秀吉(ひでよし)遺言(ゆいごん)の内容をつらつらと話し始めた。


 「(ひと)つ、大納言(だいなごん)殿を傅役(もりやく)となし、秀頼(ひでより)養育(よういく)()たらしむこと」


 秀吉(ひでよし)大納言(だいなごん)前田利家(まえだとしいえ)織田信長(おだのぶなが)(つか)えていた(ころ)からの戦友(せんゆう)であり、彼は(おお)いに信頼を()せていた。


 「父上!だいなごん殿とはどんな人なのですか?」


 「カッカッ!気になるか?わしと利家(としいえ)殿はもう40年ほどの付き合いじゃ。今でこそ、わしらも老いてしまったが、信長公(のぶながこう)(つか)えし時から利家(としいえ)殿は『(やり)又左(またざ)』と(おそ)れられておったのよ、今はわしに(つか)え、五大老(ごたいろう)として(みな)をまとめ上げてくれとるんじゃ」

 

 「……こ、怖いのですか?」


 「カッカッカッ!!『(やり)又左(またざ)』と言われておったのはもう昔のことよ。今はただの老いぼれ(じい)じゃて、安心せい」


 秀頼(ひでより)は自分の傅役(もりやく)、つまりお世話(せわ)をしてくれる人が怖いなど(たま)ったものではないと思い、秀吉(ひでよし)の話を聞いて少し安心したが、一つ提案(ていあん)してみることにした。


 「父上!且元(かつもと)じゃダメですか?」


 「む?助作(すけさく)じゃと?」


 秀頼(ひでより)且元(かつもと)のことを信頼していた。何故(なぜ)なら、この世界に転生してきて2番目に長い時間一緒に過ごしたからである。


 どのくらい長い時間か?……4時間である。


 「なんじゃ秀頼(ひでより)助作(すけさく)を気に入ったのか?」


 ちなみに『助作(すけさく)』とは片桐且元(かたぎりかつもと)幼名(ようみょう)である。


 「はい!仲良くなりました!!」


 「カッカッ!そうであったか!傅役(もりやく)は一人(かぎ)りとは決まっておらん。助作(すけさく)傅役(もりやく)とするかどうか、(かね)てよりわしも思案(しあん)しておったが、秀頼(ひでより)推挙(すいきょ)あらば最早(もはや)迷うことは無い!助作(すけさく)!!これへ(まい)れ!」


 「ははっ!」


 手前の部屋で待機していた且元(かつもと)が、御簾(みす)(ひら)いてこちらの部屋に入ってきた。


 「片桐且元(かたぎりかつもと)(もう)()ける!秀頼(ひでより)(おぼ)目出度(めでた)きことを(かんが)み、大納言(だいなごん)殿と(とも)秀頼(ひでより)養育(よういく)()たらしむべし!よって、お(ぬし)傅役(もりやく)(にん)ずる!」


 「な、なんと……!有難(ありがた)(しあわ)せ!この(にん)太閤殿下(たいこうでんか)大恩(だいおん)(むく)いるべく、恐懼(きょうく)して(うけたまわ)りまする!」


 「うむ、()れば助作(すけさく)も聞いとってくれ。今は、わしが五大老(ごたいろう)五奉行(ごぶぎょう)に伝える遺言(ゆいごん)の確認をしておったのじゃ。大雑把(おおざっぱ)じゃがな」


 「拝聴(はいちょう)(つかまつ)りまする」


 秀頼(ひでより)傅役(もりやく)となった片桐且元(かたぎりかつもと)を加えて、秀吉(ひでよし)遺言(ゆいごん)の続きをを聞くことになった。


 「(ひと)つ、もしも五大老(ごたいろう)五奉行(ごぶぎょう)(うち)に、(いず)れかこの遺命(いめい)(そむ)く者あらば、他の者、共に力を合わせこれを(さと)すべし。それに従わず、なお(こと)穏便(おんびん)()まざる時は、これを()()たすも(いた)(かた)なきこと、どうじゃ且元?」


 「ご英断(えいだん)と存じまする。これならば、誰かが反旗(はんき)(ひるがえ)したとて、他の九人の同心(どうしん)無くば、(こと)()すには(いた)らぬでしょう」


 秀吉(ひでよし)は、『五大老(ごたいろう)五奉行(ごぶぎょう)の中の誰か1人が裏切ったら、他の9人で説得(せっとく)して、それでも駄目(だめ)であれば協力して倒すように』ということを言っている。


 「そうじゃと良いが……」


 秀吉(ひでよし)は不安なようである。


 なにせ、()は戦国時代。一角(ひとかど)武将(ぶしょう)であれば天下(てんか)を目指したいと思うのは当然のこと。


 秀吉(ひでよし)の死を虎視眈々(こしたんたん)と待ち、混乱に(じょう)じて天下(てんか)(うば)い取ろうと(たくらむ)む者がいないなど、到底(とうてい)思えない。


 これが、太閤(たいこう)秀吉(ひでよし)懸念(けねん)であった。

次回、「太閤の光明」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ