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ハズレスキル《帰り道》しかないF級探索者、遭難したS級パーティを全員連れて帰ったら救難依頼が殺到しました  作者: 忘却の筋肉痛


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第21話 初めての出張救難

翌朝、救難所に着くと、相馬さんが俺を見るなり言った。


「決まったぞ」


「何がです?」


「出張だ」


昨日の話だった。


隣県の山間部にあるダンジョン。


一部区画が冠水し、探索者三人が取り残されている。


そのうち一人は位置確認済み。


残り二人は、まだ見つかっていない。


「正式な応援要請が来たんですか?」


「ああ」


相馬さんが端末を渡してくる。


画面には現地救難管理所からの応援要請。


派遣希望者の欄に俺の名前がある。


その下には、協力探索者。


神代美波。


「神代さんも?」


「先方が了承した」


ちょうどその時、自動ドアが開いた。


「おはようございます」


本人が入ってくる。


今日は最初から探索装備だった。


長い黒髪を後ろでまとめ、腰には剣。


どう見ても俺より出張へ行く気がある。


「早いですね」


俺が言う。


「久世さんより先に来ようと思ったんですが」


「負けましたね」


「七分差でした」


測っていたらしい。


小日向が奥から顔を出した。


「本当に行くんですね」


「そうみたい」


「初出張ですよ」


「昨日も言ってたな」


「出張手当、確認しました?」


それは気になっている。


相馬さんを見る。


「出る」


「よかった」


「そこだけ嬉しそうですね」


神代さんに言われた。


「大事ですよ」


小日向が頷く。


「分かります」


相馬さんが机を指で叩いた。


「旅行じゃねえぞ」


「分かってます」


「なら説明聞け」


四人で端末を囲む。


表示されたのは、見慣れないダンジョンの地図だった。


山の地下へ広がる階層型ダンジョン。


俺たちが普段入っている場所と比べると、横に広い。


青く表示されている通路も多かった。


「元から水が多いんですか?」


神代さんが聞く。


「ああ。地下水脈が多い。排水設備込みで運用されてる」


相馬さんが地図の一部を拡大する。


第三層。


東区画。


青い表示がさらに濃い。


「昨日の崩落で、ここの排水設備が一部止まった。地下水が流れ込んで冠水が進んでる」


「遭難者三人は?」


俺が聞く。


「同じパーティだ。全員C級。素材採取の帰りに崩落へ巻き込まれた」


三人の情報が表示される。


二十代の男性二人。


女性一人。


「一人は?」


「女性探索者。現在地は確認できてる」


地図に赤い点。


第三層東区画。


行き止まりに近い場所。


「高い場所へ避難してる。通信もまだ生きてる」


「残り二人は?」


「崩落の直後に分断されたらしい。その後、通信途絶」


また捜索からだ。


俺の《帰り道》では見つけられない。


第七層で相原さんを探した時と同じ。


ただ、今回は地面の足跡を追うのも難しそうだ。


水が流れている。


「現地班が捜索中なんですよね」


「ああ。お前らが着く頃にも続けてる」


相馬さんが俺を見る。


「勘違いすんなよ」


「何を?」


「向こうの現場じゃ、お前が指揮するわけじゃない」


「しませんよ」


「現地の救難班が主導だ。お前は応援。神代さんも同じ」


神代さんが頷く。


「分かっています」


俺も同じだ。


知らないダンジョンで、いきなり俺が前に出るほうがおかしい。


地形も知らない。


水の動きも知らない。


現地の人に教えてもらう側だ。


「久世」


「はい」


「《帰り道》が見えても、現地班の安全判断を無視するな」


「はい」


「水の中でどう見えるかも分かってねえんだろ」


「分かりません」


「なら余計にな」


当然だと思う。


《帰り道》は便利だけど、万能じゃない。


俺自身にも分からないことが多い。


「あと」


相馬さんが神代さんを見る。


「神代さん」


「はい」


「久世が水に流されたら拾ってください」


「分かりました」


「俺限定?」


「お前が一番流されそうだからな」


「失礼ですね」


「昨日の訓練見ただろ」


反論できなかった。


小日向が笑いを堪えている。


「小日向」


「はい?」


「お前も来る?」


「僕は留守番です」


即答だった。



現地までは車で二時間ほどかかった。


途中から建物が減り、山が近くなる。


窓の外を見ながら、神代さんが言った。


「本当に出張ですね」


「何だと思ってたんです?」


「もっと近いのかと」


「俺もです」


普段の救難は、当然だけど管轄内で完結する。


他所のダンジョンへ助けに行くなんて、俺は初めてだ。


「緊張してます?」


神代さんが聞く。


「してますよ」


「知らない場所だから?」


「それもありますけど、水が」


「泳げないんですか?」


「泳げます」


「なら大丈夫ですね」


「そういう問題ですか?」


ダンジョンの中で泳ぎたい人はいないと思う。


「神代さんは?」


「泳げます」


「速そうですね」


「普通です」


S級の人が言う普通は信用しないことにしている。


「久世さん」


「はい?」


「もし《帰り道》が水の中を示したら、どうします?」


昨日も似た話をした。


「現地の人に聞きます」


「即答ですね」


「俺より詳しいので」


「それでも進めると言われたら?」


「行ける装備を使って進みます」


「行けないと言われたら?」


「別の方法を考えます」


神代さんが少し笑った。


「思ったより普通ですね」


「救難なんだから普通でいいんですよ」


何でもスキルで解決できるなら、救難班はいらない。


そんなことを話しているうちに、目的地が見えてきた。


山の麓。


大きな施設。


入口には探索者用の駐車場や受付棟。


その奥に、ダンジョンへ続く巨大なゲートがある。


普段の場所とは雰囲気が違う。


「着きました」


運転していた救難スタッフが言う。


俺はシートベルトを外した。


初めてのダンジョン。


初めての出張。


でも、やることは同じだ。


帰れなくなった人を迎えに行く。



現地救難管理所へ入ると、すぐに責任者が出てきた。


「久世直人さんですね」


四十代くらいの女性だった。


救難服の胸に、三枝と書かれている。


「はい」


「三枝です。今回はこちらの要請を受けていただき、ありがとうございます」


「よろしくお願いします」


神代さんとも挨拶を交わす。


三枝さんはすぐに歩き出した。


「時間が惜しいので、移動しながら説明します」


早い。


こういう人は助かる。


「現在、確認できている一名の状態は安定しています。ただし、いる場所から自力で戻ることはできません」


「水ですか?」


「はい」


モニターに現地映像が映る。


暗い通路。


その中央を水が流れていた。


想像より多い。


川とまではいかない。


でも普通の通路だった場所を、膝くらいの深さの水が勢いよく流れている。


「これ、今の映像ですか?」


「十五分前です」


「水位は?」


「少しずつ上がっています」


嫌な情報だ。


「確認済みの探索者は?」


「この先にある保守用足場へ避難しています」


地図で見る。


通路の途中に少し高い場所がある。


そこへ一人だけ逃げ込めたらしい。


「残り二人は、その人と分断された?」


神代さんが聞く。


「はい。本人の話では、急に流れ込んできた水で三人が離された。彼女は手前側。残り二人は奥へ流された可能性が高い」


「流された……」


俺は地図を見る。


足跡は無理だろう。


「二人の捜索は?」


「二班出ています。ただ、水が入ったことで通れない場所が増えています」


三枝さんは俺を見る。


「まずは位置が分かっている一名を救助したい」


「はい」


「その方に合流すれば、《帰り道》は使えますか?」


「本人を確認できれば」


「水のある場所でも?」


「それは分かりません」


三枝さんの表情は変わらなかった。


「正直で助かります」


「すみません」


「謝ることではありません。使えると決めつけて現場へ入るほうが困ります」


相馬さんと似たことを言う。


救難の責任者は、そういう考え方になるのかもしれない。


「出た道を見て、こちらで通行可能か判断します」


「お願いします」


「神代さんには、先頭の安全確認をお願いしたいです」


「分かりました」


「現地班から二人同行させます」


俺たちは装備を受け取る。


普段と違うのは、水対策。


防水性の高いブーツ。


簡易ハーネス。


腰に取り付ける救難用ロープ。


「これ、必要です?」


俺がロープを見る。


三枝さんが言う。


「必要です」


即答された。


「分かりました」


素直に装着した。



第三層へ下りる。


最初のうちは普通のダンジョンだった。


岩壁。


整備された照明。


案内表示。


ただ、東区画へ近づくにつれて音が変わった。


水。


最初は遠くから。


少しずつ大きくなる。


角を曲がる。


「……すごいですね」


思わず言った。


通路の床一面を水が流れている。


深さは膝下。


ただし流れが速い。


現地救難員の一人が説明する。


「ここはまだ浅いです」


「まだ?」


「先は腰近くまであります」


帰りたくなってきた。


でも、帰れない人が先にいる。


「ロープ固定します」


壁に設置されている救難用アンカーへロープを通す。


神代さんが先。


俺。


現地救難員二人。


順番に水へ入る。


「冷たっ」


思わず声が出た。


神代さんが振り返る。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫です」


「顔、全然大丈夫じゃないですよ」


「冷たいだけです」


流れが脚に当たる。


思ったより強い。


一歩ずつ進む。


普段のダンジョンとは全然違う。


足元も見えにくい。


岩があるのか、穴があるのか。


現地救難員が教えてくれる場所だけ踏む。


「久世さん、右に寄ってください」


「はい」


「そこは床が少し低いです」


「はい」


知らない場所では、本当に何も分からない。


その分、現地の人の声がありがたい。


十分ほど進む。


前方に高くなった足場。


その上に人影が見えた。


「いた!」


現地救難員が声を上げる。


女性探索者がこちらを見る。


「救難です!」


「……よかった……」


声が震えていた。


三人で足場へ近づく。


神代さんが先に上がり、手を差し出す。


「怪我は?」


「擦り傷くらいです」


「立てますか?」


「はい」


俺も足場へ上がる。


女性は濡れた服のまま震えていた。


二十代半ばくらい。


でも意識ははっきりしている。


「久世です」


「……あの、帰り道の?」


また知られている。


「はい」


「本当に来たんだ……」


「迎えに来ました」


女性の表情が少し緩む。


「二人が」


すぐに言った。


「一緒にいた二人が、まだ奥にいます」


「聞いてます」


「助けてください」


「探します」


俺は答える。


「まず、あなたを安全なところへ戻します」


「でも二人が」


「一度帰りましょう」


女性が何か言おうとする。


その前に俺は続けた。


「あなたから二人のことも聞きたいです。それに、ここに残っていても捜索する人が一人増えるだけなので」


女性が黙る。


現地救難員も頷いた。


「大丈夫。捜索班はもう動いています」


神代さんも言う。


「私たちも戻ったらすぐ合流します」


少しして。


女性が頷いた。


「……分かりました」


よし。


俺は彼女を帰す人として意識する。


足元を見る。


光が現れた。


いつもの淡い線がちゃんと見える。


水があっても消えない。


少し安心した。


「出ました?」


神代さんが聞く。


「はい」


「どっちですか?」


俺は光を追う。


足場から下、水の流れる通路。


そして、俺たちが来た方向ではない。


「……久世さん?」


現地救難員も気づいた。


俺が見ている先は、さらに水の深い区画だった。


「どっちです?」


聞かれる。


俺は指した。


「こっちです」


救難員が地図を見る。


表情が変わった。


「そっちは排水路側です」


「通れます?」


「今は……」


言葉が止まる。


現地救難員が水位表示を確認した。


「腰まであります」


神代さんが俺を見る。


「帰り道なんですよね?」


「はい」


光は間違いなくそこへ伸びている。


女性探索者も不安そうに見ている。


三枝さんが言っていた。


出た道を見て、現地で通れるか判断する。


俺一人で決める話じゃない。


「この道」


俺は救難員を見る。


「通れますか?」


救難員は水の流れを確認する。


壁のアンカー。


水位。


地図。


少し時間をかけて。


「装備を追加すれば通れます」


「危険は?」


「あります」


それはそうだ。


「ただ、来た道より安定しています。さっき通った場所は水位上昇が早い」


なるほど。


だからこっちなのかもしれない。


《帰り道》は、安全な場所しか通らないわけじゃない。


前にも分かった。


危険があっても。


帰れるなら、そこを示す。


神代さんが剣ではなく、腰のロープを確認する。


「準備しましょう」


現地救難員も通信端末を取った。


「追加ロープと浮力ベルトを要請します」


俺は光を見る。


水の中でも消えていない。


初めての場所。


初めての状況。


それでも、帰り道はあった。


問題は、その道をどうやって全員で通るかだった。

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