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ハズレスキル《帰り道》しかないF級探索者、遭難したS級パーティを全員連れて帰ったら救難依頼が殺到しました  作者: 忘却の筋肉痛


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第20話 帰るって約束

ダンジョンの出口を抜けた瞬間、相原さんが大きく息を吸った。


「……外だ」


担架の上から空を見上げる。


夕方に近い時間だった。


少し傾いた日差しが眩しい。


俺も何度も見ている景色だけど、救難の帰りだけは少し違って見える。


「相原!」


地上で待機していた医療班が動くより先に、黒田さんが担架へ寄った。


「いるって」


「具合は?」


「さっきから変わってねえよ」


「痛みは?」


「痛い」


「大丈夫じゃねえじゃん」


「お前、さっきからそればっかりだな」


医療班のスタッフが二人の間へ入る。


「黒田さん、少し離れてください。相原さんを搬送します」


「俺も行きます」


「あなたも診察です」


「俺は肩だけで――」


「診察です」


「はい」


今日はよく止められる人だ。


相原さんが担架の上で笑っている。


「ちゃんと診てもらえよ」


「誰の心配してると思ってんだ」


「自分の心配もしろ」


「お前が言うな」


最後までこの調子だった。


二人とも医療班に連れていかれる。


その背中を見送って、俺はようやく肩の力を抜いた。


「お疲れさまでした」


隣から神代さんの声。


「神代さんも」


「今日は久世さん、ほとんど戦闘してませんでしたね」


「今日は、じゃなくて今日もです」


「そうでした」


今日あれだけ訓練したのに、もう忘れられている。


俺は装備のベルトを緩めた。


「でも、訓練は役に立ちましたよ」


「どこで?」


「走りそうになった時に止まりました」


神代さんが少し考える。


「それは戦闘訓練の成果ですか?」


「たぶん違いますね」


二人で笑う。


現地班の救難スタッフが近づいてきた。


「久世さん、神代さん。お疲れさまでした」


「お疲れさまです」


「相原さんは左脚の骨折が疑われますが、血流も感覚も問題なし。地上まで状態も安定していました」


「よかった」


「黒田さんも右肩の打撲と捻挫の可能性。大きな怪我ではなさそうです」


なら二人とも大丈夫そうだ。


スタッフは続ける。


「捜索経路の記録、あとで確認をお願いします」


「はい」


やっぱり最後はそこに戻ってくる。


神代さんが小さく笑った。


「久世さん、顔に出てます」


「何が?」


「報告書嫌だなって」


「嫌とは言ってません」


「思いました?」


「少し」


「正直ですね」


救難だから仕方ない。


救助して終わりではなく、どう探したか、どこが崩れていたか、何が危険だったかを残す。


次に同じ場所へ入る人のためでもある。


分かってはいる。


分かっているけど、書類が好きになるわけではない。


「戻りましょうか」


神代さんが言う。


「そうですね」


救難所へ戻ろうと歩き出した時だった。


「久世!」


後ろから声がした。


振り返る。


医療用の椅子に座らされた黒田さんが、スタッフの制止を振り切るようにこちらを見ていた。


「ちょっとだけ!」


医療スタッフが嫌そうな顔をする。


俺はそちらへ向かった。


神代さんもついてくる。


「どうしました?」


「さっき言っただろ」


「何を?」


「礼は地上に帰ってからって」


言った。


黒田さんは椅子に座ったまま、頭を下げた。


「ありがとう」


今度は止めなかった。


「はい」


「それだけ?」


「何か欲しいんですか?」


「いや、普通こう……『気にしないでください』とか」


「仕事なので」


黒田さんが苦笑する。


「本当に聞いてた通りだな」


「誰から聞いたんです?」


「ネット」


それならあまり信用しないほうがいい。


少し離れたところから、相原さんの声がした。


「久世さん!」


担架ごと搬送車へ乗せられるところだった。


「はい?」


「俺からも!」


相原さんが片手を上げる。


「ありがとうございました!」


「お大事に」


「焼肉行けるようになったら報告します!」


「それは別にいいです」


「ええ?」


黒田さんが笑った。


「冷たいな」


「救難所に焼肉の報告されても困りますよ」


「じゃあ俺が写真送る」


「いりません」


相原さんが声を上げて笑う。


そのまま搬送車の扉が閉じた。


黒田さんも別のスタッフに連れていかれる。


今度こそ戻ろうとした時、神代さんが口を開いた。


「楽しそうでしたね」


「誰が?」


「二人です」


俺も搬送車を見る。


確かに。


ダンジョンの中では、あんな顔じゃなかった。


「帰ったからでしょうね」


「そうですね」


神代さんは少し黙ったあと、俺を見る。


「黒田さん、自分だけ帰らなくてよかったと思ってるでしょうね」


「たぶん」


「久世さんは?」


「何がです?」


「あの時、無理に帰しておけばよかったと思いますか?」


俺は考える。


安全だけを考えるなら、怪我をしていた黒田さんを先に地上へ戻す選択肢もあった。


その間に別の班が相原さんを探す。


間違いではない。


むしろ普通なら、そのほうがいい場合もある。


でも今回は。


黒田さんの情報がなければ、相原さんの残した印を見つけても意味が分からなかったかもしれない。


相原さんの行動も読めなかった。


「結果だけなら、あれでよかったと思います」


「結果だけ?」


「毎回同じ判断が正しいとは限らないので」


神代さんが頷く。


救難は、正解が一つじゃない。


怪我人。


地形。


魔物。


時間。


本人の意思。


全部違う。


《帰り道》が見えても、そこへたどり着くまでの判断まで光が教えてくれるわけじゃない。


「久世さん」


「はい」


「今日は《帰り道》より、久世さん自身の仕事のほうが多かったですね」


「またそれですか」


「だって本当でしょう?」


「印を見つけたのも、足跡を追ったのも三人です」


「はい」


「だから俺だけじゃないです」


神代さんは少し笑った。


「そこまで含めて救難なんですね」


「そういうことです」


たぶん。



救難所へ戻った頃には、外はすっかり暗くなっていた。


「おかえりなさい!」


小日向の声が飛んでくる。


入口を入った途端だった。


「ただいま」


「二人とも無事ですか?」


「相原さんは脚の骨折疑い。黒田さんは肩。でも命に別状なし」


「よかった……」


小日向が明らかに安心した顔になる。


その奥から相馬さんが出てきた。


「報告」


早い。


「相馬さん、せめて水くらい」


「飲みながら話せ」


優しいのか厳しいのか分からない。


俺は自販機から水を一本取った。


神代さんも隣に座る。


相馬さんへ簡単に経緯を説明した。


黒田さんから相原さんの行動パターンを聞いたこと。


三つの石と壁の傷を追ったこと。


途中で血痕と装備品を発見したこと。


相原さんが瓦礫に脚を挟まれていたこと。


そして合流後、《帰り道》が出たこと。


相馬さんが確認する。


「捜索中は?」


「帰る方向にしか出ませんでした」


「相原を見つけたあとに変わった?」


「はい」


「つまり、相変わらず捜索には使えない」


「そうですね」


相馬さんが頷く。


「そのままでいい」


俺は少し意外だった。


「いいんですか?」


「何がだ」


「もっと便利ならいいとか」


「便利すぎる能力を前提に救難体制作るほうが危ねえ」


相馬さんらしい。


「《帰り道》がなきゃ人を探せない救難員ばっかりになったら終わりだろ」


「確かに」


小日向も端末へ記録しながら頷いている。


「じゃあ今回、結構重要な事例ですね」


「何が?」


俺が聞く。


「《帰り道》が使えない状況でも、普通の捜索で発見できたってことです」


「普通の救難なんだから普通だろ」


「久世さんの場合、最近普通じゃないので」


失礼だ。


「それに」


小日向が俺を見る。


「見つけたらちゃんと帰れる」


「道が出ればね」


「出ました」


「今回は」


「細かいなあ」


救難だから細かくていい。


相馬さんが報告端末を受け取る。


「記録は明日までにまとめろ」


「今日じゃなくていいんですか」


「もう遅い」


時計を見る。


確かに。


少し嬉しい。


「じゃあ帰っていいです?」


「まだ話がある」


やっぱり駄目だった。


相馬さんが机の上から別の端末を取る。


「さっき、外部から連絡が来た」


「外部?」


「うちの管轄じゃないダンジョンだ」


俺と神代さんが顔を見合わせる。


小日向も端末から顔を上げた。


「救難要請ですか?」


「まだ正式な出動要請じゃない」


相馬さんが画面をこちらへ向ける。


隣県。


山間部にあるダンジョン施設。


名前は知っている。


入ったことはない。


「向こうの救難管理所からだ」


「何でうちに?」


俺が聞く。


相馬さんが俺を見る。


嫌な予感。


「久世を借りられないかって」


「俺?」


「正確には《帰り道》を使える救難員の応援要請だ」


小日向が身を乗り出す。


「遭難者がいるんですか?」


「現時点では三名。現地班が捜索中」


「なら、まだ見つかってない?」


「一名は位置確認済み。残り二名が不明だ」


俺は端末を見る。


事故内容。


局地的な崩落。


通信障害。


遭難。


今までなら珍しくない。


ただ一つ。


見慣れない項目がある。


「水?」


神代さんが先に気づいた。


相馬さんが頷く。


「向こうは水路の多いダンジョンだ。崩落で地下水が流れ込んで、一部区画が冠水してる」


水。


今までとは違う。


俺が使ってきた《帰り道》は、歩ける場所を進むことがほとんどだった。


「久世」


相馬さんが聞く。


「行けるか」


すぐには答えなかった。


知らないダンジョン。


水。


未発見者二人。


俺の能力では、見つけるまでは何もできない。


条件だけ見ると、簡単じゃない。


でも。


向こうで帰れなくなっている人がいる。


なら、答えは同じだ。


「正式な要請が来たら行きます」


相馬さんが頷いた。


「分かった」


神代さんが隣から口を開く。


「私も同行できますか?」


「まだ何も決まってない」


「決まったらです」


相馬さんは少し考える。


「先方と調整する」


「お願いします」


小日向が俺を見る。


「久世さん」


「何?」


「初出張ですね」


「そこ?」


「出張手当つくんじゃないですか?」


俺は相馬さんを見る。


「つきます?」


「そこ食いつくのか」


「重要なので」


相馬さんが呆れた顔をする。


神代さんが笑う。


小日向も笑う。


今日一日、人を探して、連れて帰って。


また次の救難の話をしている。


結局、やることは変わらない。


遭難した人を見つける。


帰れる道を探す。


そして全員で地上へ戻る。


場所が変わっても、それだけだ。


相馬さんが端末を閉じた。


「正式に決まったら明日の朝話す」


「はい」


「今日は帰れ」


珍しい。


「本当に?」


「帰れと言ってるうちに帰れ」


「帰ります」


俺はすぐに立ち上がった。


神代さんも荷物を持つ。


救難所の出口へ向かう。


外へ出る直前、小日向の声が後ろから飛んできた。


「久世さん!」


「何?」


「明日、出張決まったら遅刻しないでくださいね!」


「普段からしてないだろ!」


笑い声が返ってくる。


自動ドアを抜ける。


夜の空気は少し冷たかった。


神代さんが隣を歩く。


「久世さん」


「はい?」


「水の中でも《帰り道》って見えるんでしょうか」


俺は少し考えた。


「分かりません」


「ですよね」


「でも」


神代さんを見る。


「それは遭難者を見つけてから考えます」


神代さんは一度きょとんとして、それから笑った。


「はい」


まず迎えに行く。


話はそれからだ。

ここまで、お読みいただきありがとうございます!


この先も主人公たちの物語を追いかけたいと思っていただけましたら、ブックマークで応援していただけると嬉しいです。

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次回更新は2026/8/20 7:00です!

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