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ハズレスキル《帰り道》しかないF級探索者、遭難したS級パーティを全員連れて帰ったら救難依頼が殺到しました  作者: 忘却の筋肉痛


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第19話 二人分の帰り道

「帰りましょう」


今度は二人とも、一緒に。


そう言って歩き出したものの、すぐに問題が一つ増えた。


「俺が担架持つ」


黒田さんだった。


「駄目です」


現地班の救難員が即答する。


「何でだよ」


「右肩を怪我してるからです」


「左手で持てる」


「持てません」


「やってみないと分からないだろ」


「分かります」


さっきまで相原さんを探しに行くと言っていた人だ。


相原さんを見つけたら少しは落ち着くかと思ったけど、あまり変わっていない。


担架の上から相原さんが口を挟む。


「黒田」


「何だよ」


「邪魔だから普通に歩け」


「誰が邪魔だ」


「お前」


「助けようとしてんだぞ」


「右肩使えない奴に運ばれるほうが怖いわ」


黒田さんが黙った。


救難員が小さく頷く。


「相原さんの言う通りです」


「あなたまで?」


俺は足元の光を確認する。


《帰り道》は主要通路をまっすぐ伸びている。


少なくとも、今は大きく迂回する必要はなさそうだ。


「黒田さん」


「何だ」


「歩けるなら、自分で歩いてください」


「でも」


「それが一番助かります」


黒田さんが担架を見る。


相原さんが手をひらひら振った。


「俺はこっちに任せるから」


「……分かったよ」


ようやく諦めた。


隊列を整える。


先頭は俺。


その少し後ろに神代さん。


中央に相原さんの担架。


黒田さんはその横。


前後を現地班の救難スタッフが固める。


「久世さん」


神代さんが隣へ来る。


「はい」


「私、前じゃなくていいんですか?」


「今のところ魔物の反応はないって聞いてますし」


「出たら?」


「その時はお願いします」


「了解です」


最近はこの役割分担にも慣れてきた。


俺が道を見る。


神代さんが危険を見る。


救難班が人を見る。


どれか一つだけでは帰れない。


「進みます」


俺たちは地上へ向かった。



しばらくは何も起こらなかった。


珍しい。


いや、本来ならこれが普通であってほしい。


救難だからといって毎回魔物に襲われたり、通路が崩れたりしていたら身体が持たない。


「右です」


分岐を曲がる。


担架も問題なく通れる幅がある。


少し先で緩い上り坂。


相原さんが担架の上から天井を見ていた。


「久世さん」


「はい?」


「それ、本当に見えてるんですか」


「《帰り道》?」


「はい」


「見えてますよ」


「どんな感じで?」


最近よく聞かれる。


「光です」


「線?」


「そんな感じ」


「色は?」


「薄い白というか……少し黄色っぽいというか」


説明が難しい。


「他の人には全然見えない?」


「見えないみたいですね」


相原さんが足元を見る。


当然、そこには普通の床しか見えていないはずだ。


「不思議ですね」


「俺もそう思います」


「自分のスキルなのに?」


「使えるから使ってるだけなので」


黒田さんが横から言う。


「もっと調べようとは思わなかったのか?」


「昔は少しやりましたよ」


「結果は?」


「地上に帰れる」


「それだけ?」


「それだけで十分だったので」


黒田さんが呆れたような顔をする。


神代さんが横から言った。


「私も最初は驚きました」


「神代さんは自分の能力、かなり調べたんですよね」


「もちろんです」


「ほら」


俺が黒田さんを見る。


「普通は神代さんみたいにするらしいです」


「他人事みたいに言うなよ」


相原さんが笑った。


「でも、それで何人助けたんです?」


「数えてません」


「数えたほうがいいですよ」


「救難記録には残ってます」


「そうじゃなくて」


相原さんは少し考える。


「自分が何人連れて帰ったか」


俺は返事に困った。


人数。


昨日は十二人。


その前は親子二人。


神代さんたち五人。


それより前にも何人もいる。


「覚えてないですね」


「もったいない」


「何が?」


「普通、そういうの誇るところじゃないですか」


黒田さんも頷く。


「俺なら言う」


「黒田は何でも言うだろ」


「お前は黙ってろ」


また始まった。


俺は前を向く。


人数を数えるのは現場だけでいいと思っている。


全員いるか。


誰か残っていないか。


その確認のため。


地上に出た後まで覚えておく必要はない。


その人が次から無事に帰ってくれれば、それでいい。



第七層の中央区画へ近づいた辺りで、警告音が鳴った。


全員が足を止める。


壁に設置された非常灯が黄色く点滅している。


『北区画で小規模な地盤変動を検知。周辺探索者は移動に注意してください』


放送が流れた。


黒田さんが後ろを見る。


「また崩落か?」


救難員が端末を確認する。


「今のところ、この通路への影響は出てません」


神代さんが俺を見る。


「道は?」


光を確認する。


「変わってません」


「なら、このままですね」


「はい」


その時、黒田さんが担架の横へ寄った。


「相原」


「何だよ」


「急いだほうがいいんじゃないか」


「俺に言われても」


黒田さんが救難員を見る。


「担架、もっと速く運べないか?」


「安全な速度で進みます」


「また崩れたら――」


「黒田さん」


俺が呼ぶ。


「何だ」


「焦らなくて大丈夫です」


「でも警報出てるだろ」


「出てます」


「なら急ぐべきじゃないのか」


気持ちは分かる。


ようやく見つけた相原さんを、今度こそ失いたくないんだろう。


でも。


「相原さん、脚を怪我してます」


「担架に乗ってるだろ」


「だからです」


急げば担架が揺れる。


狭い場所で転倒する可能性も増える。


救難側が焦れば、助けるはずの人間を危険にする。


「《帰り道》はまだ出てます」


俺は前を指す。


黒田さんには見えない。


それでも言う。


「今の速度で帰れる道です」


「そんなことまで分かるのか?」


「そこまでは分かりません」


「じゃあ」


「でも、相原さんが担架に乗ってからも道は変わってない」


それが今分かっていることだ。


「だから、勝手に条件を変えないほうがいいと思います」


黒田さんが黙る。


神代さんも頷いた。


「急いで事故を増やしたら意味がありません」


相原さんが担架から黒田さんを見る。


「聞いたか?」


「……聞いた」


「なら黙って歩け」


「怪我人が偉そうだな」


「今は救助対象だからな」


「それ偉いのか?」


二人がいつもの調子に戻る。


そのくらいでちょうどいい。


「進みます」


俺たちは同じ速度で歩き始めた。


警告音は数分後に止まった。


光も一度も変わらなかった。



第六層へ上がる階段が見えた時、黒田さんが大きく息を吐いた。


「一層上がっただけで、こんな安心するの初めてだ」


「普段は攻略する側ですもんね」


俺が言う。


「ああ。上へ戻るのは負けた時みたいな感覚だった」


相原さんが担架の上から笑う。


「格好つけんなよ。撤退したこと何回もあるだろ」


「戦略的撤退だ」


「同じだろ」


階段の前で一度休憩を取る。


相原さんの状態を確認。


痛みはあるが悪化していない。


黒田さんの右肩も問題なし。


俺は水を飲みながら壁へ寄りかかった。


神代さんが隣へ来る。


「疲れました?」


「少し」


「さっきの警報、怖かったですか?」


「怖かったですよ」


「普通でしたけど」


「普通に見せてるだけです」


以前も同じ会話をした気がする。


神代さんが少し笑う。


「久世さんらしいですね」


「褒めてます?」


「褒めてます」


神代さんも水を一口飲む。


「でも、今日は少し違いますね」


「何が?」


「最初は《帰り道》が使えなかったでしょう」


相原さんを探している間の話だ。


「そうですね」


「それでも久世さん、普通に探してました」


「救難員なので」


「はい」


神代さんは前を見る。


黒田さんが相原さんと言い合っている。


「久世さんの強みって、《帰り道》だけじゃないのかもしれませんね」


俺はすぐ首を振った。


「それは言いすぎです」


「どうして?」


「探すのはみんなでやったでしょう」


「だからです」


意味が分からない。


神代さんが続ける。


「一人で全部できることが強さじゃないんだなって」


「急に難しい話しますね」


「今日、久世さんがF級のままでいいって言ってたから、少し考えてました」


なるほど。


「結論は?」


「まだです」


「じゃあ考え終わってから教えてください」


「はい」


素直に引いた。


俺たちは休憩を終える。


「行きましょう」



第六層。


第五層。


上へ進むほど通路は整備され、人も増えていった。


すれ違う探索者が担架を見る。


救難だと分かると道を空けてくれる。


第四層に入ったところで、相原さんが俺を呼んだ。


「久世さん」


「はい」


「あとどれくらいです?」


「地上まで?」


「はい」


俺は光を見る。


ここから先は、よく知っている通路だ。


「三十分もかからないと思います」


「そっか」


相原さんが目を閉じる。


黒田さんがすぐ顔を覗く。


「おい、大丈夫か?」


「寝ようとしただけだよ」


「寝るな」


「何でだよ」


「心配だろ」


「さっきまで普通に話してただろ」


「急に静かになったら怖いんだよ」


相原さんが目を開けた。


少しだけ笑う。


「じゃあ話すか」


「何を」


「焼肉」


「まだ言うのか」


「店決めとこうぜ」


「退院してからにしろ」


「高いところ」


「分かったって」


「酒も」


「怪我治ってからだ」


「お前が言うな。肩やってるだろ」


声を聞いている限り、大丈夫そうだ。


俺は前を歩く。


光が続く。


地上へ。


今度はもう迷わない。



第一層へ上がった。


出口までもう少し。


外からの空気が流れ込んでくる。


相原さんが鼻を動かした。


「外の匂いする」


黒田さんも顔を上げる。


「本当だな」


神代さんが俺を見る。


「もうすぐですね」


「はい」


光は出口へ一直線。


救難所へ連絡する。


「救助対象二名、第一層まで帰還。相原さん左脚負傷、担架搬送。黒田さん右肩軽傷。状態安定しています」


返事。


『了解。地上で医療班が待機しています』


あと少し。


黒田さんが急に俺の横へ来た。


「久世」


「はい」


「さっき、俺も光に入ってるって言ってたよな」


「言いましたっけ?」


「神代さんと話してただろ」


聞こえていたらしい。


「黒田さんも帰す相手として認識してます」


「相原を見つける前は?」


「黒田さんだけでした」


「見つけてから二人になった?」


「たぶん」


「その『たぶん』多いな」


「仕様書がないので」


黒田さんが笑う。


「じゃあさ」


少しだけ真面目な顔になる。


「俺が相原を置いて帰ってたら、どうなってた?」


俺は足元を見る。


今ある光は一本。


全員で地上へ向かっている。


「分かりません」


「そうか」


「でも」


黒田さんを見る。


「今は、二人とも一緒に帰れる道が出てます」


黒田さんの表情が少し変わった。


「二人とも?」


「はい」


「……それで十分だな」


「はい」


後ろから相原さんの声が飛ぶ。


「何二人で格好つけてんだよ」


「聞いてたのかよ」


「担架すぐそこだぞ」


「寝てろ」


「寝るなって言ったのお前だろ!」


救難スタッフまで笑った。


出口が見える。


明るい。


俺たちはその光へ向かって歩く。


《帰り道》の線も、そこへ続いている。


探す時は見えなかった。


見つけてから、ようやく出た。


一人では帰ろうとしなかった黒田さん。


一人で出口を探していた相原さん。


今は二人とも同じ方向へ進んでいる。


それなら十分だ。


「もうすぐ地上です」


俺が言う。


相原さんが笑った。


「やっとか」


黒田さんはその隣を歩いたまま答える。


「ああ」


今度は。


二人とも、ちゃんと帰る。

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