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ハズレスキル《帰り道》しかないF級探索者、遭難したS級パーティを全員連れて帰ったら救難依頼が殺到しました  作者: ころもぐら


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202/207

第202話 門の奥で待つもの

北の外縁にある門の調査が始まって三日目、俺たちは朝からギルドの中庭に集められた。昨日までの五人に加え、古い術式を専門にする技師が一人、街から呼ばれている。灰色の外套を着た技師は、年季の入った革鞄を抱え、机に置かれた二枚の図面を黙って見比べていた。


「この門は、遺跡の入口だと思われていますね」と技師が言った。


「違うんですか」とフェナが聞くと、技師は首を傾げた。


「違うと断定する材料はありません。ただ、外へ向かって開く門なら、内側にこれほど複雑な可動床を置く必要があるのか、という疑問はあります。何かを入れないためか、何かを出さないためか。そもそも人が通るための設備ではない可能性もある」


相馬さんはその話を聞き、今日の目的を改めて説明した。門の外から術式の痕跡を調べ、五つの窪みが何に反応するかを確かめる。内側への進入は予定しない。昨日、俺たちが見た青い廊下と重い足音についても、現物を見ずに決めつけない。


「入らないで分かることを先に調べる。危険が増せば中断する。今日はそのために技師を呼んだ」と相馬さんが言った。


鹿島さんは盾を背負い直し、昨日の傷が修理されていることを確かめた。俺は腰の道具袋を開き、予備の灯りと水を数えた。フェナは手帳の頁を一枚だけ開き、五つの丸が並ぶ絵を見せた。三つは薄く塗られ、残り二つは白い。


「これ、昨日の順番です。最初の二つは床が動き始めたとき、三つ目は青い廊下が開いたとき。四つ目と五つ目は、まだ見ていません」


技師は絵を覗き込み、感心したように頷いた。


「よく見ていますね。ただ、光った順番と装置の働きが一致するかは、まだ分かりません。そこを確かめるために、今日は光の強さと床の動きを別々に記録しましょう」


フェナは「はい」と答え、頁の端に小さく「原因は未確認」と書き足した。彼女がそうするのを見て、俺は自分の能力についても同じように考える必要があると思った。帰る道筋が分かることと、目の前の装置の仕組みが分かることは別だ。


門へ向かう荷馬車の中で、技師は古い石板の写しを取り出した。地方史の一節と似た文字が刻まれているが、完全には読めない。五つの灯についての記述は見つかったものの、番人が何者かは不明だという。


「番人という言葉は、敵を意味するとは限りません。扉を開く者、閉じる者、見張る者。古い文献では同じ語がいくつもの意味で使われます」


「昨日、奥から足音がしました」と鹿島さんが言った。「あれが機械なら、戦う相手ではないかもしれませんね」


「機械でも、人を傷つけることはあります」と技師は答えた。「何を守っているのか分からないなら、こちらを侵入者として扱う可能性も考えておくべきでしょう」


俺はその会話を聞きながら、門の前に現れた甲殻の生き物を思い出していた。あいつは俺たちに飛びかかったが、青い廊下が開いたときには床へ腹を付けて震えていた。もし番人が別にいるなら、魔物もそれを恐れていたのかもしれない。


山道へ入ると、空気は昨日より冷たかった。門のある斜面の上には薄い雲がかかり、遠くの尾根から風が吹き下ろしている。警戒員二人は待避地点で俺たちを迎え、夜の記録を見せてくれた。門の内側からは何度か金属音が聞こえたが、敷居の外に生き物は現れていないという。


「ただ、今朝から門の上の浮彫りが少し明るく見えます」と警戒員の一人が言った。「昨日までの写真はありませんが、見張っていた者は二人とも同じことを言っています」


技師は遠くから浮彫りを見上げ、鞄から小さな鏡と石板を取り出した。鏡を傾けると、門の表面に刻まれた線の一部だけが淡く反射する。自然の光を返しているのか、内部から光っているのかを確かめるための道具だという。


「少なくとも、表面全体が発光しているわけではありません。線の中に、光を通す素材が埋め込まれているようです」


「では、五つの窪みも光を通すんですか」とフェナが尋ねた。


「そうかもしれません。けれど、窪みの奥を覗くのはまだやめましょう。昨日、頭上の穴が光ったときに床が動いたなら、光そのものが合図なのかもしれない」


相馬さんは技師の意見を聞き、測量士へ外側の杭から距離を測るよう指示した。俺たちは縄の外で待機し、技師と測量士が門の柱を観察する。鹿島さんは二人の背後を守り、フェナと俺は離れた位置から門全体を見ていた。


しばらくすると、門の内側で昨日と同じ水滴のような音がした。三回、間を置いて一回。技師は顔を上げ、耳を澄ませる。


「これは水滴ではありませんね。金属が石に触れる音です。規則的ではないのは、装置の一部が引っ掛かっているからかもしれない」


その言葉が終わる前に、門の柱の一つ目の窪みが白く光った。続いて二つ目、三つ目。昨日は時間をかけて増えた光が、今日は短い間隔で連続する。測量士が思わず一歩下がり、技師は鏡をしまった。


「全員、待避地点へ」と相馬さんが言った。


俺たちはすぐに移動した。鹿島さんが最後尾を守り、技師は道具を置き去りにせず鞄へ戻す。フェナは手帳を閉じ、俺と並んで走った。門の奥では石の擦れる音が大きくなり、敷居の向こうに青い光が差し始めている。


待避地点へ着いたとき、四つ目の窪みが光った。昨日の写本にあった「五つの灯が揃うとき」という言葉が頭をよぎる。俺は思わず門を見たが、そこから先に何が起きるかは分からない。


「もう一つ光ったら、番人が出るんでしょうか」とフェナが聞いた。


「そう書かれているだけだ」と相馬さんが答えた。「何が起きても、ここから先へは近づくな」


技師は門の上の浮彫りを見つめていた。羽根ともひれともつかない線が、青い光を受けて細かく揺れているように見える。だが、風で動く布ではない。石に刻まれた模様が、内側から順番に照らされているのだ。


「五つ目が光る前に、何かを止められますか」と測量士が尋ねた。


「今は無理です。仕組みを知らないまま触れば、止めるつもりで動かしてしまうかもしれません」


技師はそう言い、手にした石板を鞄へ戻した。俺はその判断に頷いた。目の前で危険が増しているときほど、何かをしたくなる。けれど、分からない装置を動かすことが勇気とは限らない。


五つ目の窪みが光ったのは、その直後だった。門の上の浮彫りが一瞬だけ白く輝き、山肌に低い振動が走る。俺たちの足元の小石が跳ね、崩落した斜面から砂が落ちた。門の内側で、重い足音が一度、はっきり響く。


次に現れたのは、巨大な石の腕だった。


門の高さぎりぎりまで持ち上がった腕は、人間のものに似ているが関節が多すぎる。表面には細い金属の帯が巻かれ、指先に当たる部分は鉤のように曲がっていた。腕は敷居へ手をつき、ゆっくりと体を引き上げる。


「全員、さらに下がれ!」


相馬さんの声が響いた。俺たちは山道の曲がり角へ退き、岩陰から門を見た。青い光の中から現れたものは、人の形をした石の巨人だった。胸には五つの丸い穴が並び、そのうち一つだけが暗い。頭部は鳥の嘴のように細く、背には魚のひれに似た板が何枚も重なっている。


門の浮彫りが鳥にも魚にも見えた理由が、ようやく分かった気がした。あれは生き物の絵ではなく、この石の巨人を描いたものだったのかもしれない。


巨人は門の外へ一歩踏み出し、足元の岩を踏み砕いた。地面が揺れ、砂埃が上がる。鹿島さんは剣を抜いたが、すぐに斬りかかろうとはしなかった。巨人は俺たちを見ているようには見えず、首をゆっくり左右へ動かしている。


「番人か」と鹿島さんが呟いた。


「そうかもしれません」と技師が答えた。「でも、何を守る番人なのかは分かりません」


巨人はもう一歩進み、門の前に置かれていた古い石片を拾い上げた。石片には、昨日消えた目印と似た形があった。巨人はそれを胸の穴へ近づけたが、何も起きない。しばらく石片を見つめるような仕草をしたあと、地面へ置いた。


「拾って、戻した?」とフェナが小声で言った。


「そう見えた」と俺は答えた。「でも、何を確かめたのかは分からない」


巨人は門の周囲をゆっくり歩き、斜面の崩れた部分へ向かった。そこで腕を伸ばし、地面に突き出た大きな岩を押した。岩は動かなかったが、巨人が力を込めると、周囲の小石が一斉に滑り始めた。


「斜面が崩れる」と測量士が叫んだ。


相馬さんは警戒員に笛を二度吹かせ、山道の下にいる見物人を遠ざけるよう命じた。俺たちは巨人の動きを止める方法を知らない。まず、崩落に巻き込まれる人を減らすしかなかった。


鹿島さんは俺たちを岩陰へ残し、少し高い場所へ移動した。そこからなら巨人と斜面の両方が見える。彼は剣を抜いたまま、巨人が岩を押すたびに足元の石がどう動くかを確かめていた。


「あいつ、岩を壊そうとしているんじゃない。押し戻しているように見える」


技師が目を細めた。巨人の腕は斜面の内側へ向かって力をかけている。岩が動くたびに門の柱の光が弱くなり、胸の穴の一つが暗くなる。巨人は壊れたものを修理しようとしているのかもしれない。


「門を閉じようとしているんですか」とフェナが聞いた。


「可能性はあります」と技師は答えた。「ただ、崩れた斜面を押し戻す力で、山道まで壊れるかもしれません。善意の装置でも、周囲の人間にとって安全とは限らない」


そのとき、門の内側から甲殻の生き物が飛び出してきた。昨日より小さく見えるのは、巨人の足元にいるからだろう。生き物は触角を伏せ、斜面の隙間へ逃げ込もうとした。巨人はその動きを追うように首を回し、片腕を伸ばした。


「まずい」と鹿島さんが言った。


巨人の腕が地面へ振り下ろされる。甲殻の生き物は間一髪で横へ跳ねたが、巨人の指が岩に食い込み、破片がこちらへ飛んできた。鹿島さんは盾を上げ、飛んできた石を受け流す。俺はフェナの肩を押して岩陰へ伏せさせ、測量士と技師も身を低くした。


大きな破片が頭上を越え、後ろの地面に突き刺さった。俺は息を整え、全員の無事を確かめた。誰も怪我をしていない。だが、巨人がもう一度腕を振れば、今の岩陰では守り切れないかもしれない。


「ここを離れましょう」と俺が言った。


「待避地点を変える」と相馬さんが答えた。「鹿島、戻れ。俺たちは下の尾根へ移動する」


鹿島さんが合流し、俺たちは山道を下った。巨人は俺たちを追わず、門の前で斜面の岩を押し続けている。甲殻の生き物はその隙に岩の間へ潜り、姿を消した。


尾根の陰まで下がると、技師は鞄から鏡を取り出し、遠くの門を観察した。五つの窪みのうち、すでに二つが暗くなっている。巨人の胸の穴も同じ数だけ暗い。石の腕が岩を押すたびに、光が一つずつ消えていく。


「やはり、門を元の状態へ戻しているようです」と技師が言った。「五つの灯は起動の段階を示し、巨人は最後に動く装置なのかもしれません」


「なら、あいつを倒さない方がいいんですか」と鹿島さんが尋ねた。


「少なくとも、今すぐ攻撃する理由はありません。こちらを追っていませんし、門の外へ出たのも、崩れた斜面を確かめるためかもしれない」


俺は巨人を見た。あの大きな体で岩を押す姿は、敵というより古い建物の修理を続ける職人に似ていた。だが、鹿島さんの盾を砕きかけた石片は本物だ。相手に敵意がないとしても、近づけば危険なことに変わりはない。


巨人は最後の岩を押し戻すと、しばらく動きを止めた。胸の穴の光は一つだけ残っている。門の内側から風が吹き、青い光が薄くなった。巨人はゆっくり振り返り、敷居へ向かって歩き始める。


「戻るんですね」とフェナが言った。


「そう見える」と俺は答えた。


しかし、巨人は敷居の手前で立ち止まった。地面に置いた石片を拾い上げ、門の柱の脇へ差し込む。そこには昨日まで見えなかった細い隙間があり、石片はぴたりと収まった。巨人の胸の最後の光が消え、門の奥で重い音が鳴る。


その瞬間、敷居の上に新しい文字が浮かび上がった。遠くからでは読めないほど小さい。技師は鏡を傾け、光を集めて文字の形を写し取った。俺たちは近づかず、尾根の陰からその作業を見守った。


巨人は門の内側へ戻り始めた。最初に腕が消え、次に背の板が青い光の向こうへ沈む。最後に嘴のような頭部が見えなくなると、床の擦れる音が一度だけ響き、門の奥は暗くなった。


しばらく誰も動かなかった。山の風が戻り、遠くで鳥の声が聞こえる。昨日までいなかった鳥が、今日は尾根の上を横切っていった。俺はそれを見て、ようやく肩の力を抜いた。


「全員、怪我はないか」と相馬さんが尋ねた。


俺たちは一人ずつ返事をした。技師も測量士も無事で、警戒員二人からも異常なしの合図が届く。門の周囲はまだ危険だが、少なくとも巨人は外へ出てこない。相馬さんはその場で調査の中断を決めた。


「今日見たことだけを持ち帰る。あの巨人が修理をしていたのか、何かを封じていたのか、結論は急がない。村への説明も、見た事実を中心にする」


技師は写し取った文字を見つめ、首を傾げていた。古い文献と似ているが、一部の字形が違うという。俺が尋ねると、彼はまだ読めないと答えた。


「ただ、同じ記号が二度出てきます。門の上の浮彫りにもありました。帰ってから写本と照らし合わせましょう」


フェナは手帳を開き、五つの丸をすべて薄く塗った。その下に、巨人が岩を押すたびに光が消えたことを書き、最後に「追ってこなかった」と付け加える。俺は彼女の文字を見ながら、甲殻の生き物が逃げ込んだ岩の隙間を思い出した。


「ナオトさん、あの魔物、無事でしょうか」


「分からない。でも、巨人が戻るまで姿を見せなかった。少なくとも、あの場では逃げ切ったように見えた」


「よかった、と言っていいのか迷います。昨日は私たちに飛びかかってきたのに」


「よかったと思ってもいいんじゃないか。次に会ったら、また気をつければいい」


フェナは少し笑い、手帳を閉じた。彼女が魔物を怖がることと、生き物として気にかけることは矛盾しない。俺も、あの甲殻の魔物を敵だと決めつける前に、もう少し観察する余地があると思った。


街へ戻ると、瀬川さんは待っていたかのように会議室へ案内した。技師が写し取った文字を広げ、地方史の写本と並べる。二つの文字は似ているが、完全には一致しない。技師は欠けた部分を補わず、読める箇所だけを指で示した。


「ここは『閉じる』、こちらは『戻す』に近い意味だと思います。ですが、その間にある文字が分かりません。何を閉じ、何を戻すのかが重要です」


相馬さんはその説明を聞き、次の調査は急がないと決めた。門の周囲には警戒員を置き、技師と測量士が遠くから観察を続ける。俺たちはしばらく街で待機し、必要になれば改めて招集されることになった。


会議が終わると、俺は美波のいる訓練場へ向かった。彼女は左手で木の棒を持ち、訓練生の足運びを見ていた。右手首の固定具はまだ外れていないが、昨日より顔色はよく見える。


「どうだった」と美波が聞いた。


「門の奥から、石の巨人が出てきた。戦う前に引いたよ」


「巨人だと?」


美波は驚いたように眉を上げたが、すぐに俺の顔を見た。


「怪我は?」


「誰もしていない。鹿島さんの盾も、今日は無事だった」


「なら、それでいい。話はあとで聞く。今は訓練生が待っているからな」


彼女はそう言って、訓練生の方へ戻った。俺はその背中を見送り、少し前までなら彼女が巨人の話を聞いて真っ先に剣を取りに行ったかもしれないと思った。今の美波は、目の前の人に教える仕事を選んでいる。その選択を、俺は頼もしく感じた。


夕方、フェナと一緒に市場を歩いていると、遠くの山に夕日が差していた。門のある斜面は見えないが、あの巨人が今も石の奥で動いているのかと思うと、少し不思議な気持ちになる。


「ナオトさん、今日の巨人、悪いものじゃなかったんでしょうか」


「分からない。悪いものじゃないから安全だとも限らないし、危険だから悪いものだとも限らない」


「難しいですね」


「俺もそう思う。でも、分からないまま帰ってきたことは、失敗じゃないと思う」


フェナは頷き、手帳を胸に抱えた。俺たちはそのまま市場を抜け、家へ向かった。街の灯りが一つずつともり、夕食の匂いが路地へ流れてくる。俺の《帰り道》は、いつもどおり帰る方向を示していた。


その夜、瀬川さんから短い連絡が届いた。技師が古い写本をもう一冊見つけ、敷居に現れた文字の一部を読めたという。そこには、こう記されていた。


『第一の門、復旧。内側の封鎖は継続。』


俺はその言葉を何度も読み返した。第一の門。ならば、二つ目があるのだろうか。門の向こうで巨人が守っているものは、俺たちが見た廊下よりさらに奥にあるのかもしれない。


けれど、いま俺がいるのは街の家だ。外では夜風が吹き、窓の向こうに見える道は静かだった。俺は紙を畳み、明日になったら相馬さんに詳しく聞こうと決めた。知りたいことは増えたが、今夜あの門へ戻る理由にはならない。


翌朝の予定を考えていると、戸口を軽く叩く音がした。フェナが忘れ物を取りに来たのかと思ったが、外に立っていたのは相馬さんだった。手には薄い封筒を持ち、いつもの仕事着の上に外套を羽織っている。


「遅くに悪い。さっきの文字の件だ。明日まで待てる話だが、先にお前の意見を聞いておきたかった」


「俺の意見ですか」


「第二の門があるなら、次に何を確かめるべきかという話だ。お前に道を探してもらうつもりはない。むしろ、能力があってもできないことを、最初に整理したい」


俺は相馬さんを中へ通し、湯を沸かした。封筒には門の断面を推測した図が入っていたが、線のほとんどに「未確認」と書かれている。技師は第一の門が外側の設備なら、その奥に別の区画がある可能性を考えているらしい。


「俺には、第二の門がどこにあるか分かりません」と俺は言った。「そこへ向かう道も、誰かがいるかどうかも。もし入るなら、帰る道筋が見えたとしても、その道が動いていないか、皆が通れるかを別に確かめる必要があります」


「それを聞きたかった」と相馬さんは答えた。「お前の力が便利だからこそ、周りが頼りすぎる。今回も、入口が動くと分かっただけで、久世がいれば何とかなると言う者がいる」


俺は苦笑した。俺自身も、何とかできると思いたいときがある。けれど、今日の石の巨人を見れば、帰る道が分かるだけで何もかも解決するとは言えなかった。


「それでも、俺にできることがあるなら行きます。ただ、行く理由と、戻る条件を先に決めてください。フェナも鹿島さんも、相馬さんも、自分で帰る人ですから」


相馬さんは静かに頷いた。湯気の立つ杯を両手で持ち、少しだけ表情を緩める。


「分かった。次に門へ行くときは、探索の目的だけでなく、引き返す条件を全員で決める。お前の能力を理由に、誰かの判断を奪わない」


相馬さんが帰ったあと、俺は封筒の写しを机へ置いた。第一の門の先に何があるのかは、まだ誰も知らない。明日になれば新しい情報が届くかもしれないし、何も分からないまま一週間が過ぎるかもしれない。


それでも、俺たちはすでに一つのことを確かめている。石の巨人を前にしても、知らない場所へ踏み込まなくても、全員で帰ってこられた。次に門を開く日が来るなら、その事実を忘れずにいたかった。

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