第151話 帰れなくなる前に
管理棟へ戻った時には、外の警報が止まっていた。
ただし、それは地下の危険がなくなったという意味ではない。南側の共同搬入棟では、今も水位の監視が続いている。施設の職員八人と、搬入に来ていた二人は全員地上へ戻れたが、地下区画への立ち入りは禁止されたままだった。
俺たちが戻ると、瀬川さんが机の上を片づけていた。正確には、散らばっていた図面を、施設ごとに並べ直しているところだった。
「お疲れさまです、久世さん。二人とも救護担当の確認を受けています。車椅子の方も、今は落ち着いているそうです」
「よかったです。元の車椅子は、まだ地下に残っていますけど……」
「施設側が位置を記録しています。安全が確認できたら回収の方法を相談するそうです。今は誰も取りに戻さないと、本人にも伝えてあります」
俺は安心した。地下から出られたことと、元の生活へ戻れることは同じではない。あの女性にとって、体に合わせて調整した車椅子は、毎日の移動に必要なものだ。安全を守りながら、その先のことも考えなければならないのだろう。
相馬さんは上着を脱ぐ間もなく、瀬川さんへ尋ねた。
「台帳は届いたか?」
「はい。設備担当の方が、書庫から原本を持ってきてくれました」
瀬川さんが差し出したのは、厚い紙の束だった。角が擦り切れ、何度も開かれた跡がある。表紙には、古い管理施設の名前と改修工事の年度が書かれていた。
俺はその数字を見て、少し驚いた。十五年も前の資料だ。
「そんなに前のものなんですね」
「当時、複数の施設をまとめて改修したらしい。古い排水路を廃止して、新しい設備へ切り替える工事だったそうだ」
相馬さんは資料を開いた。瀬川さんが現在の管理図面を横に置き、設備担当の職人さんが古い記号を読み解いていく。
最初の数ページには、工事で撤去した設備の一覧が載っていた。古い弁、点検用の扉、使われなくなった配管。どれも俺には馴染みのない言葉ばかりだ。
ところが、途中のページで職人さんの指が止まった。
「……これだな」
俺も身を乗り出した。そこには、赤い線で囲まれた細い通路が描かれていた。現在の図面では消えているのに、俺たちが救難のために使った古い通路と位置が重なる。
「ここに何と書いてあるんですか?」
職人さんは欄外の小さな文字を指した。
「『旧系統一部存置』。つまり、古い設備の一部を残したという意味だ。こっちは『閉塞確認未了』。通路が完全に塞がれたかどうか、確認が終わっていない」
「確認が終わっていないまま、十五年経ったんですか?」
「記録上は、そう読めるな。ただ、この紙だけでは、あとから確認したかどうかまでは分からない。別の資料が残っている可能性もある」
相馬さんは頷いた。
「決めつけるのは後だ。まず、今日の水位変化を説明できるか確認したい」
職人さんは古い図面を現在の管理図面の上へ重ねた。古い線は三つの施設の間を曲がりながら延びている。途中には、小さな四角い記号がいくつか描かれていた。
「これは昔の調整井だろうな。水位の差が大きくなった時、別の排水路へ水を逃がすための設備だったはずだ。今も機能しているかは分からないが、通路そのものが残っているなら、水の通り道になっていてもおかしくない」
俺は、三つの施設で起きたことを思い返した。最初の古い排水路では水位が下がり、次に現在の管理設備で警報が出た。そのあと、南側の搬入棟でも水が増えた。
「じゃあ、あちこちで別々に水が増えたんじゃなくて……」
「同じ水が移動した可能性はある。ただし、流れの向きも量も、まだ測定結果と照らし合わせなければ分からない」
職人さんはそう言って、机の上に置かれた水位記録を見た。
瀬川さんが三つの施設のデータを同じ時刻に揃えて表示する。古い排水路の水位が下がり始めたあと、少し遅れて現在の管理設備が上がり、さらに遅れて南側の搬入棟が上がっていた。数字だけを見ると、確かにつながっているように思える。
「最初の水門を切り替えたことも、関係しているんでしょうか」
俺が尋ねると、相馬さんは少し考えてから答えた。
「可能性はある。あの時は地下に人が取り残されていて、確認できた設備の範囲で流れを抑える必要があった。判断の根拠は残してある。ただ、知らなかった通路に影響が出たなら、そこも検証しなければならない」
「……俺たちが助けに入ったことで、別の場所が危険になったかもしれないんですね」
「そういう言い方で決めるのは早い。今日の水位変化には、もともとの流入量も、設備の老朽化も関係しているだろう。分かっていないことを一つずつ確かめるんだ」
相馬さんの声は静かだった。責任を避けようとしているわけではない。ただ、分からないことを誰かのせいにしても、次の事故を防げないと分かっているのだろう。
俺は頷き、資料の端に書かれた別の言葉を見た。
「ここに『関係施設へ周知』ってあります」
瀬川さんが覗き込む。
「本当ですね。引継ぎ事項の欄です」
その下には、当時の担当部署から別の部署へ資料を渡した日付が記されていた。ただ、受け取った側の確認欄は空白だった。
職人さんは眉を寄せた。
「これだけで、伝わっていなかったとは言えない。でも、今の図面から旧系統が消えているのは事実だ。どの段階で情報が抜けたのか、調べる必要があるな」
相馬さんは資料を閉じず、そのページを開いたまま置いた。
「まずは全施設に写しを送ろう。今日の対応が終わってから正式な調査を始める。今必要なのは、現場にいる人間が同じ情報を見られることだ」
瀬川さんは頷き、台帳の該当部分を撮影して共有した。古い図面を見たことのない管理担当者にも分かるよう、現在の施設名と通路の位置を照らし合わせた説明を添える。
その間にも、南側の施設から水位の報告が入っていた。上昇の速度は少し緩やかになっているが、まだ下がってはいない。地下の電気設備が水に浸かるおそれがあるため、設備担当は電源の扱いも慎重に確認しているという。
「ポンプを動かし続ければ、いずれ下がるんでしょうか」
俺が尋ねると、職人さんは首を振った。
「排水先の容量が足りなければ、別の場所へ水を押し出すだけになる。まずは、どこへ流しても問題ないかを確かめないとな」
「安全に水を受けられる場所が必要なんですね」
「そういうことだ。水を止めるより、逃がし方を考えた方がいい場合もある」
相馬さんは設備担当へ、使われていない地上の貯留設備を確認するよう頼んだ。そこは普段、急な増水に備えて空けてある場所で、管理区域内にある。現在の水量を受けられるかどうかは専門の担当者が計算し、周囲の安全も確認する必要があった。
俺は机に並んだ図面を眺めた。地下に閉じ込められた人を助ける時は、そこへ行く道と帰る道を探していた。今は、誰もいない地下へ流れ込む水を、どう安全に動かすか考えている。
救難と関係のない仕事に見えるかもしれない。でも、次に誰かが取り残されないようにするためなら、これも救難の続きなのだろう。
その時、瀬川さんの端末が鳴った。
「相馬さん、南側の管理室からです。地下設備の自動運転が、まもなく夜間の設定に切り替わるそうです」
「設定が変わると、何が起きる?」
「通常は排水ポンプの運転順序が変わるだけですが、今は古い通路から水が流れ込んでいる可能性があります。設備担当が、設定変更による影響を確認したいと言っています」
相馬さんは時計を見た。
「切り替わるまで、どれくらいある?」
「三十分ほどです」
「分かった。施設側の責任者と設備担当をつないでくれ。安全を確認できないまま自動で切り替わるのは避けたい。ただし、止めることで別の危険が出るなら、その判断も必要だ」
瀬川さんが通話をつなぐ。管理室、設備担当、救難班。三つの施設から声が集まり、机の上の図面を挟んで話し合いが始まった。
俺はそのやり取りを聞きながら、少し前の自分を思い出していた。地下の扉が開かないと聞いた時、早く開ければいいと思った。水が増えていると聞いた時は、止めればいいと思った。でも、扉の向こうには人がいて、水の向こうには別の施設があった。
目の前の問題だけを片づけようとすると、その先の誰かを危険にさらすかもしれない。相馬さんたちは、それを何度も確かめている。
「久世さん」
フェナが俺の隣へ来た。彼女は搬入棟の入口案内を終え、管理棟へ戻ってきたところだった。
「ナオトさん、さっきの女性の方から伝言を預かりました」
「伝言?」
「『私の車椅子は急いで取りに行かなくていいから、ほかの人が同じ目に遭わないようにしてください』って」
俺は顔を上げた。
「……そう言ってたんだ」
「はい。それと、貸出用の車椅子は少し座りにくいけれど、調整してもらえたので大丈夫だそうです。付き添いの方も一緒にいます」
フェナはほっとしたように笑った。俺も安心したが、同時に少し申し訳ない気持ちになった。彼女にとって大事な車椅子を、まだ地下へ置いたままにしているからだ。
「ちゃんと返せるといいね」
「はい。でも、今は誰も危ない場所へ入らないでほしいんだと思います」
俺は頷いた。あの女性は、扉の前でも自分のことを自分で説明していた。何を大切にしているか、何をしてほしくないか、きちんと言葉にしていた。その人が今、次に同じことが起きないようにしてほしいと言っている。
俺たちは、その言葉に応えなければならない。
会議の途中で、設備担当から一つの案が示された。管理区域内の地上貯留設備を使い、南側の地下へ集まる水の一部を、安全が確認された経路へ移す方法だ。急に全量を動かすのではなく、流れと水位を監視しながら段階的に調整するという。
相馬さんは救難班の責任者へ確認した。
「その作業のために、地下へ人が入る必要はあるか?」
「いいえ。設備担当の説明では、地上から操作できる範囲で行うそうです。地下の状態確認は、設置済みの計測器とカメラを使います」
「なら、まずはそちらを優先しよう。人を入れる判断は別にする。作業員の安全確認も忘れるな」
設備担当が操作手順を読み合わせ、管理室の責任者が承認する。俺はその場にいても専門的な判断はできないが、誰が何を確認し、どこで止めるのかを、全員が共有していることは分かった。
やがて、最初の調整が行われた。
俺たちは端末に表示された水位の数字を見守った。すぐには変化が出ない。数分後、南側の搬入棟の数値がわずかに下がり、別の計測器にも変化が現れた。
「貯留設備側の水位が上がっています。想定した経路に流れているようです」
設備担当から報告が入る。
「ほかの施設は?」
相馬さんが尋ねた。
「現在の管理設備は横ばいです。最初の古い排水路でも、急な変化はありません」
「分かった。まだ安心するな。決めた範囲で監視を続けてくれ」
俺は息を吐いた。これで一気に解決したわけではない。それでも、地下へ誰かを入れずに状況を改善できる可能性が見えてきた。
その後も設備担当は水位を確認し、必要な範囲で調整を続けた。夜間の自動運転については、管理責任者の承認を受けて一時的に切り替えを保留し、監視員を配置することになった。地下の立入禁止は維持され、翌日以降も専門の点検が続けられる。
相馬さんがようやく椅子に腰を下ろしたのは、三つの施設で急な水位上昇が見られなくなってからだった。
「……ひとまず、今夜の急変は抑えられそうだな」
瀬川さんが端末を閉じずに答える。
「はい。ただし、原因の特定も、設備の復旧もこれからです。関係施設には、明日の利用予定を見直してもらっています」
「それでいい。安全だと確認できない場所を、急いで開ける必要はない」
相馬さんは疲れた顔で笑った。俺も椅子に座り直す。地下に残っている人がいないと分かってから、こんなに長い時間が経ったのかと思う。
少しして、南側の交流施設の管理担当者から通話が入った。
『相馬さん、明日の利用予定について相談があります。交流室には予約が入っているのですが、地下の搬入口が使えないと、備品の搬入ができません』
「利用者を入れる場所は、地下と切り離されていますか?」
『一階の会場自体は別区画です。ただ、設備の状態が完全には分かっていません』
「なら、施設側で安全が確認できるまで利用を見合わせてください。救難班から再開の許可を出すことはできません。管理責任者と設備の専門家が判断することです」
『……分かりました。利用者にはこちらから説明します』
通話が終わると、相馬さんは俺へ目を向けた。
「久世、今の話をどう思う?」
「使いたい人がいるのは分かります。でも、地下のことが分からないまま開けたら、また誰かが困るかもしれません」
「そうだな。救助した人数だけ見れば、今日の仕事はもう終わっている。でも、施設をどう扱うかを決める人間には、まだ仕事が残っている」
俺は机の上の古い台帳を見た。そこには、十五年前の人たちが残した記録がある。きっと当時も、設備を使う人たちがいて、工事を終わらせなければならない事情があったのだろう。その中で確認しきれなかったことが、今になって問題になっている。
「相馬さん、この台帳のこと、ほかの地域にも伝えるんですか?」
「ああ。まずは同じ形式の古い設備がないか、広域の担当へ照会するつもりだ。今回の件をこの三施設だけの問題にしたら、同じ見落としを繰り返すかもしれない」
「じゃあ、俺たちの仕事も変わっていくんでしょうか」
相馬さんは少し考えた。
「変わる部分もあるだろうな。ただ、救難の中心は変わらない。誰かを無事に帰すことだ。そのために、事故が起きる前にできることが増えるなら、悪い話じゃない」
俺は頷いた。これまで、俺の《帰り道》は誰かと一緒に歩く時に使ってきた。迷った人、怪我をした人、暗い地下で助けを待つ人。見えている道筋を伝えながら、一歩ずつ出口へ向かってきた。
けれど、俺がいない場所でも、人は帰らなければならない。今日、現在の排水設備に取り残された職員を助けたのは、俺ではなく現地の救難班だった。南側の搬入棟でも、扉を開けたのは設備担当で、車椅子の女性を運んだのは搬送班だ。
俺にしか見えない道があることと、俺がいなければ誰も帰れないことは、同じではない。
「久世さん、少しいいですか」
瀬川さんが声をかけてきた。端末には、今日の救難活動の記録が並んでいる。
「報告書のまとめ方について相談したいんです。通常は救助対象者の人数や搬送状況を中心に記録しますが、今回はそれだけだと足りない気がして」
「……そうですね」
「名簿にいなかった二人を見つけた経緯や、別の施設の管理者と連絡を取るまでの時間も残したいんです。あとから同じ場所を担当する人が見て、何を確認すればいいか分かるように」
俺は少し考えてから答えた。
「地下へ入る人の名簿だけじゃなくて、どの施設がその地下を使っているのかも書いておいた方がいいと思います。俺、最初は職員八人が戻ったって聞いて、安心しかけましたから」
「私もです」
瀬川さんは苦笑した。
「車が一台残っていると分かるまで、搬入業者の確認が抜けていました。だから、その見落としも記録します」
「見落としたことまで、ですか?」
「はい。うまくいったことだけ書いたら、次の人は同じ失敗を避けられませんから」
俺はその言葉を聞いて、少し嬉しくなった。今日の救難は、俺たちが頑張ったという話だけで終わらない。何が分からなかったのか、どうやって確かめたのか。それを残せば、次の現場で誰かが役立てられる。
相馬さんも会話に加わった。
「記録には、久世の能力を使った場面と、使わなかった場面を分けて書いてくれ。道筋が見えたから助かったこともあれば、設備担当が扉を開けたから助かったこともある。混ぜると、次に同じことができなくなる」
「分かりました」
瀬川さんが端末へ入力を始める。俺はその横で、今日の出来事を思い返した。誰がどこにいて、何を確認したのか。どの時点で二人の存在が分かったのか。思い出せる範囲で順番に伝えていく。
しばらくして、フェナが紙コップを三つ持ってきた。
「皆さん、少し休んでください。ずっと話しっぱなしです」
瀬川さんが顔を上げる。
「ありがとうございます、フェナさん。助かります」
「ナオトさんも。水だけじゃなくて、何か食べた方がいいですよ」
「……そうだね。朝からずっと動いてた気がする」
「気がする、じゃありません。ずっと動いてました」
フェナに少し強い口調で言われ、俺は笑ってしまった。彼女もようやく表情を緩める。
外では救難車両の一部が撤収の準備を始めていた。必要な監視員と設備担当は残るが、地下での人命救助に備えて待機していた班は交代できることになったらしい。現場に残る人と帰る人を確認し、引継ぎが行われている。
その様子を眺めていると、瀬川さんの端末が再び鳴った。
「広域救難の調整担当からです。今回の資料について、早急に共有したいそうです」
相馬さんが顔を上げた。
「もう話が伝わったのか?」
「はい。古い設備の図面と、現在の管理図面が一致していない点を重く見ているようです。明日、関係する地域の担当者を集めて、緊急の連絡会を開きたいと」
「分かった。こちらからも設備担当を出そう。今日の現場を知っている人間が必要だ」
瀬川さんは画面を読み進め、少し意外そうな顔をした。
「それと、久世さんにも参加してほしいそうです」
「俺に、ですか?」
「はい。能力の説明を求めているわけではなくて、救難班がどうやって古い通路の情報を使い、何を判断できなかったのかを、現場の立場から話してほしいそうです」
俺は相馬さんを見た。
「俺、設備の専門家じゃありませんよ」
「分かってる。だからこそ、分からなかったことを話せばいい。お前が最初から何でも知っていたら、今回のような問題は起きていないだろう」
「……確かに」
相馬さんは古い台帳を軽く叩いた。
「十五年前の人たちも、全部を知らなかったのかもしれない。そのあとに引き継いだ人間も、同じだ。大事なのは、分からないことがあると分かった時に、どう扱うかだと思う」
俺は頷いた。誰かを助けに行く時、俺は何度も『分からない』と言ってきた。人の位置も、怪我の状態も、通路の安全も、自分の能力だけでは分からない。だから仲間に聞き、確認し、できることを分け合ってきた。
そのやり方を、もっと多くの現場で使えるようにする。そんな話なら、俺にもできるかもしれない。
「参加します。今日、分かったことも、分からなかったことも、ちゃんと話します」
瀬川さんが頷き、相馬さんも小さく笑った。
「頼む。ただし、今夜はもう休め。明日の会議で居眠りされたら困るからな」
「それは困りますね」
俺が答えると、フェナがすかさず言った。
「だったら、帰ったらすぐ休んでください。ナオトさん、こういう時ほど『あと少しだけ』って言うんですから」
「……気をつけます」
三人の笑い声が重なり、管理棟の空気が少しだけ軽くなった。
机の上には、まだ図面が何枚も広がっている。閉鎖されていない古い通路、管理者の違う施設、空白のまま残った引継ぎ欄。調べなければならないことは山ほどあった。
でも、今日はもう、地下に取り残されている人はいない。少なくとも、確認できた施設と利用者については、全員の所在が分かっている。危険な場所へ戻ろうとする人も、入口の担当者が止めている。
俺は古い台帳の最後のページを閉じた。
帰り道が分かるだけのF級探索者だった俺に、設備の仕組みを変える力はない。それでも、現場で見たことを伝え、次の救難に役立つ記録を残すことならできる。
そして、明日の連絡会では、俺たちが今日無事を確認した十人の話だけでは終わらないはずだ。
まだ誰も閉じ込められていない場所で、どうやって人を帰すのか。
その答えを、今度はもっと大勢で考えることになる。




