第六話 「入学式」
桜が舞う校門前。
クラス表を職員から受け取る。
日本人の名前が並ぶのも、日本語が周りから聞こえてくるのも、
何もかもが懐かしかった。
クラス表を確認して、校舎へ入る。
幼いころに来た時と変わらない校舎。
懐かしい。
教室前に到着。
扉を開ける手が震える。
中国の学校へ初めて行った日のことを思い出した。
あの日も、知らない場所へ一人で向かうのが怖かった。
でも、あの時の私は一歩踏み出した。
だから今日も大丈夫。
深呼吸してゆっくり扉を開ける。
中に入ると、新しい生活の始まりにソワソワする空気を感じた。
すでに友達になっている子たちもいれば静かに本を読んでいる子もいる。
知っている子は誰もいない。
でも、
不思議と緊張はほどけていた。
それに、
自分に引き寄せられてくる子は一人もいなかった。
自分の席について、カバンを机の横にかける。
久々に周りから日本語がたくさん聞こえる環境に
不安になってきた。
カバンの中に入っているお守りと写真をこっそり見て。
気持ちを落ち着ける。
「大丈夫」
「うまくやれる」
そう自分に暗示をかけた。
そうこうしているうちに担任の先生がやってきた。
みんなで軽く自己紹介をすることになった。
自分の番になったときに、
中学三年間は中国にいたこと。
日本は久々なこと。
そんなことを話した。
自己紹介が終わると、何人かの生徒がこちらを見ていた。
「中国にいたんだって」
「三年間ってすごいね」
小さな声が聞こえる。
まただ。
私は少しだけ身構えた。
でも、次に聞こえた言葉は予想していたものとは違った。
自己紹介後の少しの時間。
隣の席の女の子が肩をちょいちょいとつついてきた。
「桜庭さんだよね?」
突然声をかけられて、私は少し驚いた。
「え……うん」
「私は藤原美桜。隣の席だから、よろしくね」
そう言って笑った。
その笑顔には、不思議な安心感があった。
「桜庭さん、中国にいたのすごいね」
「どんな学校だったの?」
藤原さんは目を輝かせながら聞いてきた。
私を特別扱いしてなかった。
そこにあったのは、私への興味だった。
私の力に引き寄せられたものではない。
そのことに気づいて、少しだけ肩の力が抜けた。
その後、入学式のために体育館へ行く。
お兄ちゃんはそろそろ学校についているのだろうか。
そわそわする。
いよいよ定刻になり、開式。
開式の言葉
校長のあいさつ
来賓紹介
新入生の名前点呼
在校生の校歌斉唱
閉式
式は粛々と進み、終わった。
今日は入学式後に今後の学校生活についてや時間割表についての話が終わったら下校でいいとのこと。
お兄ちゃんにはそのように連絡を入れた。
校門で待ってると返事があった。
「友達出来るかな…」
クラスの雰囲気を見て、不安になる。
でも、まだ初日だし、大丈夫。
そうまた暗示をかける。
校門の前には、お兄ちゃんがいた。
いつものように笑っている。
でも今日は、少しだけ違って見えた。
懐かしそうに校舎を見上げ、先生と楽しそうに話している。
お兄ちゃんにも、この場所で過ごした時間があるんだ。
そう思うと、不思議と嬉しくなった。




