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あなたがお兄ちゃんでよかった  作者: すい


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5/8

第五話 「いってらっしゃい」

四月の朝。

春の柔らかな日差しが部屋に差し込む。

私は真新しい制服に袖を通す。

ブレザーの袖をそっと整え、鏡の前に立つ。

小学生の頃、この制服に憧れていた。

中国では毎日ジャージだった。

だから今、この制服を着ている自分が少しだけ信じられない。

「……やっと着られた。」


鏡で身なりをチェックして、

「よし!」

と一人納得する。


「おはよ~」

そう言いながらリビングへ行くと陽向がコーヒーを飲んでいた。


「お、水月おはよう」


「制服、似合ってるね」

お兄ちゃんが優しく笑った。


「ありがとう!」

「友達出来るかな~」

そう言いながら席に着き、

陽向が用意した朝食をいただく。


「あ、味噌汁だ。」

「久しぶりだろ?」

「うん。中国でも和食のお店には行ったけど、お兄ちゃんの作る味とは違う。」

一口飲む。

ほっとする味だった。

久しぶりに和食を食べた気がした。

そう思いながら、もう一口味噌汁を飲む。


中国では味噌汁が飲みたくて、色々な和食屋へ足を運んだっけ。

でも。

お兄ちゃんが作る味噌汁が好きすぎて、

「これじゃない」

になったのを思い出した。


久々の日本での学校生活。

中国の学生生活とは大きく違うだろう。


胸は躍るけれど、

私の力のせいで、本当の私を見てもらえないのではないか。

日本の学生生活に馴染めないのではないか、

そんな不安もある。


でも、中国へ行く前も同じように悩んだ。

だから、今回も大丈夫だろう。

そう思うようにして、カバンの中身を再度チェックした。

筆箱。

ノート。

教科書。

家の鍵。

中国で友達にもらった、小さなお守りと写真。

「よし。」

もう一度ファスナーを閉めた。


家を出る時間。

陽向には

「忘れ物はないか?」

「ハンカチとちり紙は持ったか?」

「財布は?」

「家の鍵は?」

といろいろ聞かれた。

私が中国へ行く前と何も変わらない。


「もう!大丈夫だよ!」

「お兄ちゃんはいつまで私のこと子ども扱いするの!」

そう頬を膨らませてみたが、

兄はプッと吹き出して笑った。


「当たり前だろ」

「お前はずっと妹なんだから」

そう陽向は言った。


恥ずかしくなって私はカバンを持ち、玄関へ向かった。

靴を履いて玄関の扉に手を掛ける。

深呼吸をひとつ。

あの日、中国へ旅立つ時とは違う。

今度は日本で新しい生活が始まる。

「じゃあ、行ってくる!」


「お、もう行くのか。」

振り返ると、お兄ちゃんが笑っていた。

「いってらっしゃい。」

その一言だけで、不思議と胸の中の緊張が少し軽くなる。

「うん、いってきます。」

私はそう返事をして、新しい一歩を踏み出した。


あの日、中国へ向かう飛行機を見上げた時の空は、期待と不安が混ざった空だった。

でも今日の空は違う。

帰ってきた場所で、私はもう一度歩き始める。

今日から始まるのは、新しい毎日。

少しだけ胸を張って、私は高校への道を歩き始めた。


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