第三話 「再会」
「お兄ちゃん!」
ひと時も忘れたことのない声が耳に入る。
「水月」
思わず肩の力が抜けた。
ずっと胸の奥にあった緊張が、静かにほどけていく。
「おかえり」
そう言って、陽向は微笑む。
「ただいま」
少しだけ沈黙が流れる。
「……背、伸びたな。」
「お兄ちゃんこそ。」
「俺はもう伸びないよ。」
思わず二人で笑った。
三年前なら、重そうなスーツケースに引っ張られていただろう。
でも今は違う。
水月は当たり前のように片手で持ち上げて歩いてくる。
「……強くなったな。」
留学前のように、人が次々と集まってくる気配はない。
水月自身が変わったからなのか。
それとも、力をうまく受け流せるようになったのか。
陽向には分からない。
けれど、それでも少しだけ安心した。
「荷物、持つよ。」
「大丈夫。これくらい自分で持てるよ。」
水月は笑いながらスーツケースを軽々と持ち上げる。
「……本当に強くなったな。」
嬉しいような。
少しだけ寂しいような。
そんな気持ちを胸に、陽向は水月の隣を歩き始めた。
駐車場で車にスーツケースを積み込んで、発車させる。
車が走り出すと、水月は待っていましたと言わんばかりに話し始めた。
「あのね、春節の時にみんなで街へ行ったんだ。」
「すごい人だったけど、楽しかった。」
「あとね、連れて行ってもらった小籠包のお店が本当においしくて!」
話をしている時の水月は本当に楽しそうだった。
水月にとって、この三年間はきっと、かけがえのない時間だった。
三年前までは、助手席でこんな風にいろいろな話をしてくれていた。
昨日までは静かだった。
でも、今こうして帰ってきた水月がまた楽し気に話をしてくれている。
年月が経っても、変わらなかった光景に。
陽向は心底安心したのだった。
留学中も、ずっと気になっていた。
泣いてはいないだろうか。
学校ではうまくやれているだろうか。
友達はできただろうか。
楽しそうな写真が送られてきても、「心配させまい」と笑っているだけなのではないかと、何度も考えた。
フロントガラスの向こうには、三年前と変わらない日本の街並みが流れていく。
助手席では、水月が楽しそうに笑っている。
その笑顔を見て、陽向は静かに思った。
「帰ってきてくれて、本当によかった。」




