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あなたがお兄ちゃんでよかった  作者: すい


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2/8

第二話 「妹が帰ってくる日」

二月下旬。

今日は中国から帰ってくる妹を空港まで迎えに行く日。


玄関に置いた時計を見る。

「まだ少し早いか。」

そう呟いても、落ち着かない。


水月の部屋の扉を開ける。

留学してから三年。

部屋だけは、いつ帰ってきてもいいように整え続けていた。

カーテンを開けると、柔らかな光が差し込む。

机の上にうっすら積もった埃を払い、本棚へ目を向ける。

昔から大切にしていたぬいぐるみが、あの頃と変わらない場所に置かれていた。

「……変わってないな。」


でも、

「もう、この部屋じゃ少し狭いかもしれないな。」

とも思う。


落ち着くためにスマホを開く。

そこには水月から送られてきた写真。

中国の街並み。

学校。

春節の賑わい。

点心の写真。

「随分、大人っぽくなったな。」

そう思った次の写真には、小籠包を頬張って満面の笑みを浮かべる水月が写っていた。

思わず笑みがこぼれる。

「……やっぱり水月だ。」

と安心する。


空港へ向かう前。

コンビニへ寄る。

水月が昔好きだったお菓子を見つける。

買おうとしたが

「もう高校生だし、こんなの食べないか。」

と思う。

でも、気づけば買い物かごに入れていた。

「……まったく。」

自分でも苦笑する。



空港へ向かう道は、いつもより長く感じた。

桜庭水月。

俺のたった一人の妹。


妹に会うのは、三年ぶりだ。

いくらもう高校生といったって、

いつまでも守っていたくなる、

俺にとっては、今でも小さな妹のままだ。


水月が不思議な力を持っているから守りたいわけじゃない。

そんな理由で妹を大切に思っているわけじゃない。


両親は忙しく、家にいる時間は少なかった。

気づけば、水月の隣にいるのはいつも俺だった。

小学生の頃、水月は算数が苦手で、泣きながら宿題をしていた。

「できない……」

「ほら、ここはこう考えるんだ。」

そう言うと、水月はぱっと笑顔になった。

転んでは泣いて、抱き上げれば安心したように笑う。

気づけば、妹は俺にとって誰よりも大切な存在になっていた。


水月の力に惹かれて近づいてくる人たちから、守りたい。


いつも泣いてばかりだった妹が、

異国の地でどれだけ成長したのか。

楽しみではある。


ただ、同時に自分が知らない妹になっていないか。

それが怖い。


三年前、水月を見送った日。

「行ってきます。」

あいつは笑ってそう言った。

本当は引き止めたかった。

でも、あいつが自分で決めた道だった。

だから笑って送り出した。


空港の駐車場に車を停める。

深呼吸する。

ネクタイを直す。

鏡を見る。

「緊張する必要なんかないだろ。」

と笑う。

でも手は少し震えている。


時計を見る。

まだ約束の時間まで一時間以上ある。

……早く来すぎたな。

そう思いながら、もう一度スマートフォンを見る。

連絡はまだない。

仕事では予定の管理も、人との約束も完璧にこなしている。

なのに今日は、時間が進むのが妙に遅く感じた。

妹が帰ってくる。

ただそれだけなのに。


三年ぶりに会える。

嬉しさ半分。

怖さ半分。

それでも――

一秒でも早く、

妹の「ただいま」が聞きたかった。

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