↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
河内正則・栄光への道  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
94/107

初回を渡すな

第20話「初回を渡すな」


全国大会二戦目。


大阪タイタンズ対広島県代表・福山シーガルズ。


福山はここまでの公式戦、すべて初回から三回までに先制点を挙げてきた。


相手投手がマウンドに慣れる前に仕掛ける。


先頭打者が出れば走る。


二番が送るだけとは限らない。


ヒットエンドラン。


バスター。


盗塁。


初球攻撃。


文字どおりの先手必勝。


しかし大阪タイタンズの答えは単純だった。


相手が先手必勝なら――


先手を取らせなければいい。


大阪の先発は池永智雄。


捕手は有村恒一郎。


実況は神谷直樹。


解説は元捕手の杉本隆志が務める。


神谷

「全国大会二戦目。大阪府代表・大阪タイタンズ対広島県代表・福山シーガルズ。まもなくプレイボールです」


杉本

「福山は序盤の攻撃が非常に強いチームです。対する大阪が、その勢いをどう止めるか。初回はかなり重要になります」


智雄がマウンドへ上がる。


有村がホームベース後方にしゃがった。


一番・山根蒼太が右打席へ入る。


有村がミットで口元を隠した。


「初球から来るぞ」


智雄もグラブで口元を隠す。


「分かっとる」


大阪ベンチ。


正則が声を飛ばす。


「智雄! 意識しすぎんなよ!」


慎一も続く。


「向こうが速攻なら、向こうの時間壊したれ!」


智雄が小さく右手を上げた。


「プレイ!」


球審の声が響いた。


一回表 福山シーガルズの攻撃


一番 山根蒼太


福山の切り込み隊長。


俊足。


そして初球から積極的に振る打者。


有村は分かっていた。


だからこそ。


最初からストライクを取りにいくだけの球は要求しない。


初球。


有村が構えたのは――


内角高め。


智雄が振りかぶる。


投げた。


山根がいきなり振った。


やはり初球から来た。


しかし。


「くっ!」


詰まった。


打球は一塁方向へのゴロ。


三宅奈緒が前へ出る。


捕球。


そのまま一塁ベースを踏む。


「アウト!」


わずか一球。


一死。


神谷

「山根、予告どおり初球から行きました! しかしファーストゴロ!」


杉本

「池永投手、いいところへ投げました。初球から振ってくることを恐れて外へ逃げたのではなく、逆に内角高めへ入れています」


智雄が有村から返球を受ける。


有村がマスク越しに笑った。


「ほんまに来たな」


智雄も笑う。


「ほんまに来た」


だが次。


二番・三島悠真。


ここからが福山の厄介なところだった。


二番 三島悠真


バント。


バスター。


右打ち。


ヒットエンドラン。


何でもできる二番打者。


走者はいない。


それでも三島は初球から仕掛けてくる可能性がある。


有村がサインを出した。


智雄がうなずく。


初球。


今度は内角低め。


三島はバントの構えを見せる。


だが智雄が投げた瞬間。


バットを引いた。


バスター。


振る。


しかし内角低め。


思ったよりボールが身体に近い。


ファウル。


0ボール1ストライク。


福山ベンチ。


村井ではなく、福山シーガルズの監督がじっと智雄を見る。


二球目。


有村は内角を続けた。


だが今度は高め。


三島が振る。


詰まる。


ファウル。


0ボール2ストライク。


三島は一度打席を外した。


同じ内角。


しかし高さが違う。


有村が考える。


――内角高め。


――内角低め。


――ほんなら次も内角と思わせる。


三球目。


ミットが外へ動いた。


智雄が投げる。


外角低め。


三島の身体がわずかに前へ出た。


なんとかバットを合わせる。


カツン。


弱いゴロ。


二塁方向。


亜由美が前へ出る。


捕球。


一塁へ。


「アウト!」


二死。


三島が一塁へ走り抜けてから、マウンドの智雄を見る。


内。


内。


外。


しかも。


高い。


低い。


低い。


的を絞らせない。


神谷

「三島もセカンドゴロ! 池永智雄、福山の速攻を二人続けて内野ゴロに仕留めました!」


杉本

「コースの使い方がいいですね。まだ極端な緩急を使っていません。まず高低と内外だけで打者の狙いを外しています」


三番 大田蓮


二死走者なし。


三番・大田蓮。


広角に打てる打者。


福山としては、ここで三者凡退だけは避けたい。


大田が構える。


有村は一度立ち上がり、智雄へ返球した。


そして再び座る。


智雄を見る。


――こいつ、落ち着いとる。


初戦の慎一とは違う。


正則とも違う。


智雄には智雄の投球がある。


初球。


外角高め。


大田は見送る。


ストライク。


二球目。


内角低め。


大田が振る。


ファウル。


0ボール2ストライク。


大阪ベンチの正則が言う。


「もう追い込んだ」


慎一が答える。


「智雄、今日ええな」


三球目。


ここで有村は少し間を取った。


大田は考える。


外角高め。


内角低め。


次はどこだ。


そして。


60キロはあるのか。


100キロか。


130キロか。


頭の中に選択肢が増える。


有村がサインを出した。


智雄が投げる。


外角低め。


大田が振った。


タイミングがわずかに早い。


バットの先。


ボテボテのゴロが三遊間へ。


三塁・朝倉美羽が前へ出る。


ショート・川上眞子も寄る。


美羽が捕った。


素早く一塁へ。


「アウト!」


スリーアウト。


内野ゴロ三つ


一番・山根蒼太。


ファーストゴロ。


二番・三島悠真。


セカンドゴロ。


三番・大田蓮。


サードゴロ。


福山シーガルズ。


三者凡退。


神谷

「スリーアウト! 池永智雄、初回を三人で抑えました! しかも三つすべて内野ゴロ!」


杉本

「これは大阪にとって非常に大きい立ち上がりです。福山は序盤に主導権を握るチームですが、その最初の攻撃を完全に止めました」


智雄がマウンドを降りる。


有村が隣へ並んだ。


「どうや?」


智雄が答える。


「思ったより振ってくるな」


「せやろ」


「でも」


智雄が少し笑った。


「振ってくれるなら、打たせる場所選べる」


有村も笑う。


「それでええ」


130。


100。


60。


大阪には極端な緩急がある。


だが、それだけが武器ではない。


内角高め。


内角低め。


外角高め。


外角低め。


同じ球速でも、打者の目線を上下左右へ動かす。


そして。


まだ60キロは一球も投げていない。


福山打線は、その存在を知っている。


だから来ていない球まで意識する。


有村はそこまで利用していた。


福山ベンチ


福山の選手たちが戻る。


山根が言った。


「速球そのものは打てん球ちゃう」


三島もうなずく。


「でも絞れん」


大田が続ける。


「内角来たと思ったら外。高め来たと思ったら低め」


そして何より。


「60キロが頭にある」


福山の監督が答えた。


「そこや」


まだ一球も見ていない。


なのに。


約60キロの存在が、すでに打者の頭へ入り込んでいる。


「大阪の三人が全員投げられるって情報が、逆にこっちを迷わせとる」


それでも福山は下を向かない。


「まだ一回や」


次は四番・瀬戸航平から。


長打力のある中軸。


そして福山が得意とするのは初回だけではない。


三回までに先制してきたチームだ。


「二回も行くぞ」


「はい!」


一回裏 大阪タイタンズ


今度は大阪の攻撃。


福山シーガルズが守備位置につく。


やはり動きがいい。


キャッチボール一つ。


内野ノックの返球一つ。


それだけでも分かる。


堅守。


簡単なゴロでは崩れそうにない。


大阪ベンチ。


川原監督が打者たちを見る。


「初回守ったからいうて、こっちが焦って点取りに行く必要はないぞ」


亜由美がうなずく。


三宅奈緒もバットを握る。


福山が序盤に強いなら。


大阪が先に点を取ればいい。


一番・梶原和樹が打席へ向かう。


福山の先発投手もまた、静かにマウンドへ上がった。


正則がベンチからグラウンドを見る。


「先手取らせへんかった」


慎一が答える。


「あとは」


智雄がベンチへ戻りながら言った。


「こっちが取る番やろ」


0対0。


全国大会二戦目。


最初の主導権を巡る勝負は――


まだ始まったばかりだった。


次回予告


第21話「堅守の向こう側」


福山シーガルズ最大の武器。


エラーの少ない堅い守備。


一回裏。


大阪タイタンズの攻撃は一番・梶原和樹から。


梶原。


朝倉美羽。


加藤亜由美。


三宅奈緒。


大阪の上位打線が、福山の守備へ挑む。


強いゴロ。


鋭いライナー。


抜けたと思った打球にも、福山の野手が追いつく。


正則。


「ほんまに守備うまいな」


亜由美。


「だったら、守備がうまいだけじゃアウトにできんことすればええやん」


一方、二回表。


福山は四番・瀬戸航平から。


そしてついに――


智雄が約60キロのボールを解禁する。


速攻の福山。


堅守の福山。


それに対して大阪は、どこから突破口を開くのか。


次回、第21話。


「堅守の向こう側」


守られるなら。


守備だけでは止められない攻撃をする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。