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河内正則・栄光への道  作者: リンダ


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最後まで金沢の野球

第17話「最後まで金沢の野球」


七回表。


大阪タイタンズ、9対0。


金沢ゴールデンシャークスに残された攻撃は、この一回だけだった。


三番・谷口大和。


四番・宮下蓮斗。


五番・西野航平。


クリーンアップから始まる。


九点差。


それでも、金沢ベンチから下を向く選手は一人もいなかった。


村井浩之監督が選手たちを見渡す。


「九点差や」


誰も目をそらさない。


「でもな。俺らは石川県代表として、ここに来たんや」


ベンチの空気が変わる。


「県大会で負けていったチームもおる。応援してくれた家族もおる。仲間もおる」


村井監督はグラウンドを見る。


「最後の一球まで、金沢の野球をやろう」


「はい!」


東京ドームに、金沢の声が響いた。


三番 谷口大和


谷口が右打席へ入る。


星野慎一がマウンドに立つ。


あと三つ。


藤原航がサインを出した。


初球。


約130キロ。


外角低め。


ストライク。


谷口は見送る。


二球目。


約60キロ。


内角。


谷口の身体が前へ出かける。


だが必死に残した。


ファウル。


0ボール2ストライク。


すぐに追い込まれた。


大阪ベンチ。


正則が身を乗り出す。


「あと一球や」


しかし谷口は簡単には終わらない。


三球目。


100キロ前後。


外角。


カット。


四球目。


130キロ前後。


内角高め。


またファウル。


五球目。


約60キロ。


外角低め。


谷口は泳がされながらも、なんとかバットの先を合わせた。


ファウル。


慎一が小さく息を吐く。


「粘るな」


航から返球を受ける。


六球目。


130キロ前後。


外角。


谷口が振る。


またファウル。


水野沙織

「谷口、粘ります! 追い込まれてから簡単には終わりません!」


三浦佳奈

「これが金沢の意地ですね。球速差に苦しみながらも、なんとかバットに当てています」


七球目。


100キロ前後。


低め。


谷口が見送る。


ボール。


1ボール2ストライク。


八球目。


約60キロ。


内角いっぱい。


谷口が崩されながら振る。


ファウル。


九球目。


慎一が投げる。


130キロ前後。


外角。


谷口が踏み込んだ。


カキン!


一、二塁間。


亜由美が飛びつく。


届かない。


ライト前へ抜けた。


ヒット。


無死一塁。


金沢ベンチが総立ちになる。


「よっしゃ!」


「大和!」


「まだ終わってへんぞ!」


谷口は一塁上で拳を握った。


慎一がボールを受け取る。


「そう簡単には終わらせてくれへんか」


航がマウンドを見る。


慎一は笑っていた。


嫌な笑いではない。


全国大会で戦う相手への敬意だった。


四番 宮下蓮斗


無死一塁。


四番・宮下蓮斗。


二回には慎一からセンター前ヒットを放っている。


この試合、慎一の球を最も捉えている打者の一人だった。


航が慎重に構える。


初球。


130キロ前後。


外角。


ボール。


二球目。


約60キロ。


内角低め。


宮下は手を出さない。


ストライク。


1ボール1ストライク。


三球目。


100キロ前後。


外角低め。


ファウル。


1ボール2ストライク。


追い込んだ。


金沢ベンチから声が飛ぶ。


「蓮斗! 最後まで振れ!」


宮下がバットを構え直す。


四球目。


慎一が投げた。


130キロ前後。


内角寄り。


宮下が踏み込む。


カァァァン!


慎一が振り返った。


水野

「打った! レフトへ大きい!」


左翼・村瀬涼太が下がる。


さらに下がる。


フェンス際。


見上げる。


打球は――


その頭上を越えた。


レフトスタンド。


ツーランホームラン!


金沢ベンチが爆発する。


谷口がホームイン。


宮下もダイヤモンドを一周する。


9対2。


水野

「入りました! 宮下蓮斗、意地のツーランホームラン! 金沢ゴールデンシャークス、最終回に二点を返しました!」


三浦

「素晴らしい一打です。九点差でも決して打席を捨てなかった。その姿勢が、このホームランにつながりました」


宮下がホームを踏む。


仲間たちが迎える。


村井監督も強く拍手した。


「それでええ!」


「最後まで行くぞ!」


「はい!」


「なら、こっちも全力や」


慎一はマウンドでロージンバッグを拾った。


9対2。


まだ無死。


ここから五番。


西野航平。


慎一はホームベースを見る。


「そう簡単には終わらせてくれへんか」


悔しさはある。


だが。


全国大会だ。


相手も石川県を勝ち抜いてきた代表。


九点差だからと諦めるはずがない。


慎一の表情が変わった。


「なら――」


ボールを握る。


「こっちも全力で行くのみや」


航がその表情を見て、ミットを叩いた。


五番 西野航平


西野が打席へ。


慎一。


初球。


130キロ前後。


外角低め。


ストライク。


二球目。


約60キロ。


内角いっぱい。


西野が崩される。


空振り。


0ボール2ストライク。


三球目。


100キロ前後。


外角へ逃げるような軌道。


西野が振る。


空振り。


三振。


一死。


六番 中田琉生


続く中田。


初球。


約60キロ。


外角低め。


ストライク。


二球目。


130キロ前後。


内角。


ファウル。


追い込む。


三球目。


130キロを警戒した中田へ、100キロ前後。


外角いっぱい。


中田のバットが泳ぐ。


空振り。


三振。


二死。


あと一つ。


大阪ベンチ。


正則が立ち上がる。


「慎一! あと一人!」


亜由美も二塁から声をかける。


「最後まで集中!」


慎一が右手を上げる。


七番 森川颯太


金沢最後の打者になるかもしれない。


森川が打席へ入った。


金沢ベンチ。


全員が立っている。


村井監督も立ったまま。


「颯太!」


森川が一度だけベンチを見る。


「はい!」


慎一がセット。


初球。


約100キロ。


内角低め。


ストライク。


二球目。


約60キロ。


外角。


森川が待つ。


だが待ちきれない。


ファウル。


0ボール2ストライク。


追い込まれた。


金沢ベンチから声が飛ぶ。


「まだや!」


「一本!」


「最後まで振れ!」


森川がバットを握り直す。


慎一も一度、深く息を吐いた。


航がサインを出す。


慎一がうなずく。


三球目。


130キロ前後。


外角低め。


森川が振る。


空振り。


球審の右手が上がる。


「ストライク! バッターアウト!」


三振。


スリーアウト。


ゲームセット。


9対2


水野

「試合終了! 大阪タイタンズ、9対2! 石川県代表・金沢ゴールデンシャークスを破り、全国大会初戦を突破しました!」


三浦

「最後まで見応えのある試合でした。大阪の強さはもちろんですが、金沢も九点差から谷口選手が粘って出塁し、宮下選手が2ラン。最後まで石川県代表として戦い抜きました」


スコアボード。


大阪タイタンズ 9


金沢ゴールデンシャークス 2


慎一はマウンドを降りる前に、金沢ベンチを見た。


最後まで簡単ではなかった。


五番・西野。


六番・中田。


七番・森川。


最後の三人はすべて三振。


だが、その前に谷口と宮下が見せた意地があった。


両チームがホームベースを挟んで整列する。


「ありがとうございました!」


深く礼をする。


宮下が顔を上げる。


慎一と一瞬、目が合った。


慎一が小さく頭を下げる。


宮下も返した。


全国大会。


勝者は次へ進む。


敗者の大会は終わる。


だからこそ、最後の一球まで全力で戦う。


それが金沢ゴールデンシャークスの野球だった。


スタンドの悠翔


博多リトルスターズ。


柳川悠翔は、試合終了まで席を立たなかった。


9対0。


そこから金沢は二点を返した。


そして慎一は、その直後から三者連続三振。


悠翔が言う。


「やっぱ強いな」


森下悠一が聞く。


「慎一?」


悠翔は首を横に振った。


「タイタンズ全部」


投手だけではない。


守備。


走塁。


小技。


長打。


状況判断。


そして相手に反撃されても崩れない。


篠田監督が立ち上がる。


「分析はここまでや」


全員が監督を見る。


「大阪のことばっかり考えとったら、俺らが初戦で消えるぞ」


次は自分たち。


岐阜県代表。


長良川リトルボーイズ。


チーム防御率1.85。


簡単な相手ではない。


悠翔も立ち上がる。


その時だった。


グラウンドからベンチへ戻ろうとしていた正則が、ふとスタンドを見上げた。


視線の先。


博多のユニホーム。


その中央にいた悠翔。


目が合う。


ほんの数秒。


会話はない。


名前も、まだ互いに詳しくは知らない。


だが正則は思った。


――あいつ。


悠翔も同じことを思う。


――あのピッチャー。


やがて正則が先に視線を外す。


悠翔も仲間たちと歩き始める。


二人はまだ知らない。


全国大会決勝。


博多南中学校。


福岡高校。


プロ野球。


そして、そのはるか先。


この短い視線の交錯が――


長い野球人生の始まりになることを。


次回予告


第18話「博多の野球」


大阪タイタンズ、初戦突破。


9対2。


星野慎一が見せた三段階の緩急。


加藤亜由美の3ラン。


宮本さくらの2ラン。


小技と走塁。


大阪は優勝候補として、その力を全国へ示した。


そして舞台は、博多リトルスターズへ。


初戦の相手。


岐阜県代表・長良川リトルボーイズ。


チーム防御率、1.85。


篠田正孝監督。


「派手な野球はいらん」


「四球でもええ。内野安打でもええ。一本ずつつないで一点取るぞ」


柳川悠翔。


坂井雄二。


牧田和美。


岸田誠一。


立花朋輝。


森下悠一。


松本航。


神谷蓮。


大原颯真。


博多の九人が、全国大会のグラウンドへ。


スタンドでは今度は――


大阪タイタンズの選手たちが、その試合を見つめる。


正則。


「あいつ、三塁手なんか」


亜由美。


「さっきスタンドにおった子?」


「うん」


まだ互いのことをほとんど知らない二人。


次回、第18話。


「博多の野球」


大阪が見せたのは、力と変化。


博多が見せるのは――


一人ではなく、九人で一点を奪う野球。

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