60を待つな
第14話「60を待つな」
五回表。
星野慎一がついに解禁した、約60キロのおちょくりスローボール。
130キロ前後。
100キロ前後。
そして約60キロ。
金沢ゴールデンシャークスの打者は、三段階の速度差に完全にタイミングを崩された。
大阪タイタンズ、4対0。
そして五回裏。
今度は大阪打線が、一気に金沢を攻め立てる。
五回裏 大阪タイタンズの攻撃
この回は、六番・宮本さくらから。
六番 宮本さくら
二回にはライトスタンドへ2ランホームランを放っているさくら。
金沢バッテリーも当然警戒する。
高倉健吾が外角へ投げる。
さくらは無理に引っ張らない。
逆方向へ弾き返した。
カキン!
一、二塁間を破る。
ライト前ヒット。
無死一塁。
水野沙織
「宮本さくら、ライト前! 大阪、先頭打者が出ました!」
七番 川上眞子
続く川上眞子。
二回にはセーフティバントで出塁している。
金沢内野は当然、前も警戒する。
しかし眞子は今度は打つ。
高倉のボールを引きつけた。
カキン!
センター前。
ヒット。
さくらは二塁で止まる。
無死一、二塁。
正則
「今度は普通に打った!」
亜由美
「眞子の場合、何してくるか分からんくなってきたな」
八番 村瀬涼太
村瀬が打席へ。
高倉も簡単にはストライクを取りに来ない。
外角低め。
村瀬がうまく合わせる。
打球は三遊間。
ショート・前田蒼真が飛びつく。
届かない。
レフト前ヒット。
さくらが三塁へ。
眞子が二塁へ。
村瀬が一塁。
三連打。
無死満塁。
水野
「宮本! 川上! 村瀬! 三者連続ヒット! 大阪タイタンズ、ノーアウト満塁です!」
三浦佳奈
「大阪打線がつながりました。しかも三人とも無理に長打を狙っていません」
九番 星野慎一
打席には投手・慎一。
無死満塁。
金沢は慎一なら送りバントもあると警戒する。
慎一が構える。
高倉が投げた。
バント。
一塁方向へ転がす。
三塁走者・さくらがスタート。
高倉が前へ出る。
捕る。
ホームを見る。
間に合わない。
一塁へ送球。
慎一はアウト。
さくらがホームイン。
眞子は三塁へ。
村瀬は二塁へ。
セーフティスクイズ成功。
5対0。
一死二、三塁。
水野
「星野慎一、スクイズ成功! 自らのバットでも一点を追加しました!」
一番 梶原和樹
一死二、三塁。
打順は先頭へ戻る。
梶原が打席。
ここで必要なのは長打ではない。
外野へ運べば一点。
高倉が投げる。
梶原が振った。
カァン!
センター方向へのフライ。
センター・谷口大和が下がる。
捕球。
三塁の眞子がタッチアップ。
スタート。
谷口がホームへ返す。
眞子が滑り込む。
「セーフ!」
犠牲フライ。
6対0。
二死。
二塁には村瀬が残る。
だが大阪はここで攻撃を終わらせない。
二番 朝倉美羽
美羽が打席へ。
高倉が投げる。
美羽がセンター前へ弾き返した。
村瀬は三塁へ。
美羽は一塁。
二死一、三塁。
続く打者を迎える前。
美羽が走った。
二塁へ盗塁成功。
二死二、三塁。
そして。
三番 加藤亜由美
打席には加藤亜由美。
大阪府大会決勝では3ランホームランも放っている。
金沢としては最も避けたい打者の一人。
高倉が慎重に投げる。
初球。
外角。
ボール。
二球目。
内角。
ファウル。
1ボール1ストライク。
三球目。
低め。
見送る。
2ボール1ストライク。
四球目。
高倉が投げた。
少し高い。
少し甘い。
亜由美の目が変わった。
踏み込む。
フルスイング。
カァァァン!
水野
「打ったぁ!」
打球はレフト方向。
高い。
大きい。
レフト・森川颯太が下がる。
フェンス際。
さらに下がる。
見上げた。
入った。
3ランホームラン!
村瀬。
美羽。
そして亜由美。
三人がホームへ帰る。
9対0。
大阪ベンチが総立ち。
正則も飛び上がる。
「亜由美ぃ!」
亜由美がダイヤモンドを一周する。
ホームを踏んでベンチへ戻ってきた。
正則が迎える。
「すげえ!」
亜由美が笑う。
「どう?」
「どうって……完璧やん」
「また赤くなる?」
「ならんわ!」
智雄が横から言う。
「ちょっと赤いぞ」
「うるさい!」
試合中でも、ほんの一瞬だけ「完熟りんご」が顔を出した。
四番 三宅奈緒
二死走者なし。
打席には三宅。
高倉が投げる。
初球から三宅が振り抜いた。
カァン!
痛烈。
一塁方向。
誰もがヒットと思った。
しかし。
ファースト・宮下蓮斗の真正面。
宮下が反応する。
パシッ!
ライナーを直接捕球。
「アウト!」
これで三つ目のアウト。
チェンジ。
五回裏終了。
大阪タイタンズはこの回――
宮本さくら。
川上眞子。
村瀬涼太。
三者連続安打で無死満塁。
九番・星野慎一のスクイズ。
一番・梶原和樹の犠牲フライ。
そして三番・加藤亜由美の3ランホームラン。
一挙五得点。
大阪タイタンズ 9―0 金沢ゴールデンシャークス。
次回予告
第15話「一本を取りに行く」
五回終了。
大阪タイタンズ、9対0。
宮本さくら。
川上眞子。
村瀬涼太。
三連打。
星野慎一のスクイズ。
梶原和樹の犠牲フライ。
そして――
加藤亜由美の3ランホームラン。
大阪が大きくリードする。
しかし金沢ゴールデンシャークスは諦めない。
村井監督。
「九点全部取り返そうと思うな」
「まず一本。まず一人や」
六回表。
星野慎一。
130キロ。
100キロ。
60キロ。
三つの速度を操る右腕に、金沢打線が食らいつく。
正則。
「慎一、向こう粘る気やぞ」
有村。
「球数投げさせるつもりや」
慎一。
「ほな、一球ずつ勝負したる」
次回、第15話。
「一本を取りに行く」
九点差。
それでも、試合は最後のアウトまで終わらない。




