↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
河内正則・栄光への道  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
83/108

読んだ先を読む

第9話「読んだ先を読む」


二回裏。


大阪タイタンズ、2対0。


三宅奈緒のライト前ヒットから金沢のデータの隙を突き、宮本さくらがライトスタンドへ2ランホームラン。


一回には完璧に機能していた金沢ゴールデンシャークスの守備チャートが破られた。


金沢ベンチ。


村井監督が決断する。


「通常守備に戻すぞ」


打者ごとに細かく守備位置を変えるのをやめる。


引っ張り。


流し打ち。


どちらにも対応できる基本位置。


ただし、大阪の強い打球を警戒して内野陣はやや深めに守る。


水野沙織

「金沢、守備位置を変えてきました」


三浦佳奈

「大阪がチャートに気づいたと判断したのでしょう。今度はどちらにも対応できる守備体系です」


大阪ベンチ。


森下真央も気づいた。


「通常守備に戻した」


新田絵里がタブレットを確認する。


「でも内野は深いよ」


そして打席へ向かうのは――


七番 川上眞子


眞子が打席へ入る前に守備位置を見る。


三塁手・中田琉生。


かなり後ろ。


ショート・前田蒼真も深い。


「ふーん」


眞子が小さく笑った。


「そうくるんだ〜」


深い守備。


強い打球への警戒。


ならば。


「じゃあ……そこ使お」


初球。


高倉健吾が投げた。


その瞬間。


眞子がバットを寝かせる。


コンッ。


「バント!」


三塁線。


ラインぎりぎり。


ボールが絶妙な速度で転がっていく。


中田が猛然と前へ出る。


だが最初の守備位置が深い。


しかも走っているのは、チーム屈指の俊足を誇る川上眞子。


拾う。


一塁へ。


「セーフ!」


眞子が駆け抜けた。


セーフティバント成功。


正則がベンチから叫ぶ。


「眞子、それは速すぎるやろ!」


亜由美も笑う。


「内野下がったら、そりゃ眞子の庭になるわ!」


水野

「川上眞子、セーフティバント! 大阪タイタンズ、金沢の深い守備の前へ転がしました!」


三浦

「見事ですね。金沢が強い打球に備えて下がった。それを見て瞬時に攻撃方法を変えました」


無死一塁。


八番 村瀬涼太


村瀬が打席へ。


しかし高倉の視線は打者だけに向いていなかった。


一塁。


眞子。


さっき三宅に盗塁を許している。


しかも今度の走者は俊足の眞子。


高倉が一塁へ。


牽制。


セーフ。


もう一度。


牽制。


眞子が戻る。


三度目。


また牽制。


正則が呆れる。


「気にしすぎやろ」


智雄

「眞子が一塁におるだけで圧力になっとる」


村瀬への初球。


ボール。


高倉はまた一塁を見る。


二球目。


外れる。


2ボール。


牽制。


三球目。


ストライク。


それでも高倉は眞子が気になる。


四球目。


外。


3ボール1ストライク。


捕手・西野航平が声をかける。


「健吾! 打者に集中や!」


高倉がうなずく。


セット。


だが一塁を一度確認してから投げたボールは――


外れた。


「ボールフォア!」


村瀬、四球。


無死一、二塁。


金沢ベンチがタイムを取った。


西野。


内野陣。


コーチ。


全員がマウンドへ集まる。


コーチが高倉を見る。


「走者は気になるやろ。でもな、バッターに集中せえ」


高倉がうなずく。


「はい」


「これ以上ランナーためたら、もっと厳しくなるぞ」


西野も肩を叩く。


「俺がおる。走者は任せろ」


高倉が大きく息を吐いた。


九番 星野慎一


無死一、二塁。


打席には投手の慎一。


川原監督からサイン。


慎一が構える。


正則が言う。


「ここは決まっとるな」


初球。


慎一がバントの構え。


転がした。


一塁側。


高倉が前へ出る。


拾う。


一塁へ。


アウト。


その間に眞子は三塁。


村瀬は二塁へ。


一死二、三塁。


慎一は自分の仕事を終え、ベンチへ戻ってきた。


正則が手を出す。


「ナイスバント」


慎一がタッチする。


「投げるだけが仕事ちゃうからな」


一番 梶原和樹


打順は先頭へ戻る。


一死二、三塁。


梶原。


一回の打席では三遊間へ強いゴロを放ちながら、金沢のシフトに阻まれた。


今度は違う。


金沢は通常守備。


ただし内野は深い。


高倉が投げる。


梶原が打った。


三遊間。


ショート前田が追う。


深い。


追いついた。


捕る。


だが体勢が苦しい。


その瞬間、三塁の眞子がスタート。


前田が一塁へ投げる。


梶原が走る。


「セーフ!」


内野安打。


眞子がホームイン。


3対0。


村瀬は三塁へ。


一死一、三塁。


水野

「梶原、内野安打! 大阪タイタンズ、さらに一点追加です!」


三浦

「一回ならアウトになった可能性の高い打球です。金沢が通常守備へ戻したことで、今度は深い位置からの送球が間に合いませんでした」


梶原が一塁上で拳を握る。


眞子がベンチへ戻ってくる。


亜由美が迎える。


「眞子、足で一点取ったな」


「セーフティ決まった時点で勝ったと思った」


「それ言うの早い!」


二番 朝倉美羽


一死一、三塁。


美羽が打席へ入る。


高倉も踏ん張る。


初球。


ボール。


二球目。


美羽がファウル。


三球目。


外角。


ボール。


四球目。


ファウル。


2ボール2ストライク。


五球目。


ファウル。


六球目。


またファウル。


七球目。


内角。


美羽が詰まりながらもカット。


これもファウル。


八球目。


高倉が投げた。


美羽が振り抜く。


鋭い打球。


三塁線。


「捕った!」


サード・中田琉生。


真正面。


強烈なライナーを直接キャッチ。


アウト。


二死。


三塁走者・村瀬は飛び出しかけたが、すぐに帰塁。


一塁走者・梶原も戻る。


併殺にはならない。


水野

「朝倉、八球粘りましたが最後はサードライナー! 中田がしっかり捕りました!」


三浦

「金沢もここは踏ん張りました。強い打球でしたが、正面です」


続く三番・加藤亜由美を高倉が打ち取り、ようやくスリーアウト。


チェンジ。


二回裏。


大阪タイタンズは宮本さくらの2ランに加え、川上眞子のセーフティバントを起点としてさらに一点。


大阪タイタンズ 3―0 金沢ゴールデンシャークス。


一回は金沢が大阪の打球を読んだ。


二回。


大阪は金沢がどう守るかを読んだ。


そして金沢は、その大阪の読みをさらに読み始めている。


真央が新しいチャートを書き込む。


絵里が言った。


「一回のデータ、もう使えなくなってきたね」


真央は首を横に振る。


「使えるよ」


「え?」


「使い方が変わっただけ」


一回。


二回。


守備位置。


配球。


走者への警戒。


すべてが次の材料になる。


真央はグラウンドを見た。


「相手がどう変えたか。それもデータやから」


三回表。


慎一が再びマウンドへ向かう。


正則が声をかける。


「慎一。向こうもそろそろ、お前の投球データまとめてくるで」


慎一が振り返った。


「ほな」


少し笑う。


「まだ見せてへんもん、見せんかったらええやろ」


正則の表情が変わる。


智雄も分かった。


約60キロ。


速球とほぼ同じ腕の振りから投じる超スローボール。


全国大会では――


まだ一球も投げていない。


次回予告


第10話「まだ見せない」


大阪タイタンズ、3対0。


三回表。


金沢ゴールデンシャークスは、星野慎一の一回、二回の投球を分析する。


コース。


球速。


プレート位置。


打者への攻め方。


だが、そのデータには重大なものが一つ欠けている。


約60キロの超スローボール。


正則。


「そろそろ使うんか?」


慎一。


「まだ分からん」


智雄。


「見せたら向こうのデータになるぞ」


そして金沢打線は、慎一がこれまで投げた球だけを材料に狙いを絞り始める。


それを見た大阪バッテリーは――


あえて秘密兵器を使わない。


次回、第10話。


「まだ見せない」


秘密兵器は、投げるから怖いのではない。


いつ来るか分からないから、怖い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。