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河内正則・栄光への道  作者: リンダ


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崩れない守備

 第6話「崩れない守備」


 一回表。


 星野慎一は八球で三者凡退。


 三つのアウトは、すべて内野ゴロだった。


 全国大会初登板。


 これ以上ない立ち上がり。


 しかし、一回裏。


 大阪タイタンズはすぐに知ることになる。


 金沢ゴールデンシャークスが、なぜ石川県大会を勝ち抜いてきたのか。


 その理由を。


 一回裏 大阪タイタンズ


 金沢の先発・高倉健吾がマウンドへ上がる。


 内野陣も守備位置についた。


 ショート・前田蒼真。


 セカンド・北川悠人。


 ファースト・宮下蓮斗。


 サード・中田琉生。


 実況・水野沙織が守備位置を確認する。


 水野

「さあ、大阪タイタンズの全国大会最初の攻撃です。一番センター、梶原和樹から」


 解説・三浦佳奈もグラウンドを見る。


「金沢の守備位置にも注目したいですね」


 一番 梶原和樹


 梶原が打席へ入った。


 高倉が投げる。


 初球は見送った。


 二球目。


 外角。


 梶原が打った。


 強いゴロ。


 三遊間。


 大阪ベンチが反応する。


 正則

「抜けた!」


 ところが。


 ショートの前田が、すでに三遊間寄りへ動いていた。


 深い位置で捕球。


 すぐに踏ん張る。


 一塁へ。


 アウト。


「えっ?」


 正則が目を丸くした。


 亜由美もネクストバッターズサークルから見ていた。


「うわ、あれ追いつくん?」


 普段なら内野安打になってもおかしくない。


 それほど深い位置だった。


 しかし前田は余裕を持って打球へ入っていた。


 水野

「前田、深い位置から一塁へ! アウトです!」


 三浦

「いい守備ですね。ただ……」


 三浦の言葉が少し止まった。


 何かが気になった。


 二番 朝倉美羽


 美羽が打席へ。


 高倉の投球。


 美羽は引っ張った。


 一、二塁間。


 また強いゴロ。


 今度こそ抜ける。


 そう思われた。


 ところが。


 セカンド北川が、最初から一塁方向へ寄っていた。


 回り込む。


 捕球。


 一塁へ。


 アウト。


 二死。


 大阪ベンチが少し静かになる。


 正則

「また?」


 智雄

「守備うまいな」


 有村恒一郎は黙ってグラウンドを見ていた。


 二つの打球。


 どちらも守備範囲が広いだけにも見える。


 だが――


 何かが違う。


 三番 加藤亜由美


 亜由美が打席へ。


 一球。


 二球。


 高倉のボールを見ながらタイミングを合わせる。


 そして打った。


 強いゴロ。


 二遊間。


 亜由美は一塁へ走る。


 普段なら。


 このコースなら。


 足があれば内野安打になる可能性がある。


 だがショート前田が待っていた。


 正面に近い。


 捕球。


 一塁へ。


 アウト。


 三者凡退。


 大阪タイタンズの全国大会最初の攻撃は、三人で終了した。


 しかも――


 すべて内野ゴロ。


 三つとも偶然なのか


 水野

「大阪タイタンズ、一回裏は三者凡退。金沢ゴールデンシャークス、評判通りの堅い守備を見せました」


 三浦はすぐには答えなかった。


 守備位置を見ている。


「水野さん、これ……単純に守備がうまいだけではないかもしれません」


「と言いますと?」


「大阪の打者が打つ前から、守備側がかなりいい位置にいます」


 大阪ベンチでも同じ疑問が生まれていた。


 正則が言う。


「なんや、あれ」


 梶原も首をひねる。


「俺の打球、普通やったら内野安打あるで」


 美羽もうなずく。


「私のも。抜けると思った」


 亜由美がヘルメットを外す。


「うちもや。打った瞬間、行けると思った」


 川原監督は何も言わない。


 グラウンドを見ている。


 そしてベンチ後方。


 森下真央と新田絵里が、すでに動いていた。


 スコアラーが見つけた違和感


 真央の前にはスコアブック。


 絵里の前には記録用のタブレット。


 三人の打球方向。


 金沢内野陣の守備位置。


 打球が飛んだ瞬間の初動。


 それを一つずつ確認する。


 真央が言った。


「絵里」


「うん」


「最初から寄ってる」


「私もそう思った」


 二人は金沢の内野陣を見る。


 一番・梶原。


 ショート前田は通常より三遊間寄り。


 二番・美羽。


 セカンド北川は一、二塁間寄り。


 三番・亜由美。


 前田は再び二遊間方向へ位置を変えていた。


 偶然ではない。


 絵里がタブレットを操作する。


「これ、打者ごとに変えてる」


 真央の表情が変わった。


「チャート持ってるんや」


 川原監督が振り返る。


「何?」


 真央が説明する。


「金沢、うちの打撃傾向を調べてます」


 正則たちも集まる。


 真央はスコアブックを開いた。


「梶原君が普段通り打った時に多い方向」


 指を動かす。


「美羽ちゃんの打球傾向」


 さらに次。


「亜由美ちゃんの打球方向」


 三人の打球。


 金沢は、ほぼその場所へ選手を置いていた。


 有村が言う。


「シフトか」


「うん。でも極端に動いてへんから、見た目では分かりにくい」


 絵里が続ける。


「打者ごとに数歩ずつ変えてる。たぶん過去の試合をかなり調べてる」


 正則がグラウンドを見る。


「だから深いゴロでも追いつけるんか」


 真央がうなずく。


「追いついてるというより――」


 一度言葉を切る。


「来るところで待ってる」


 ベンチの空気が変わった。


 金沢の野球


 金沢ゴールデンシャークス。


 彼らは単純に守備のうまさだけで地区予選を勝ち抜いてきたわけではなかった。


 相手打者の打球方向。


 カウント別の傾向。


 右投手。


 左投手。


 速球。


 変化球。


 走者の有無。


 それらをチャート化する。


 そして試合では、その情報をもとに守備位置を細かく調整する。


 相手が普段通りに打つ。


 そこに金沢の選手がいる。


 強い打球を打った。


 そこにもいる。


 深いところへ転がした。


 それでも、最初から数歩寄っているから追いつく。


 相手はやがて思い始める。


 今日は抜けない。


 もっと強く打たなければ。


 もっと厳しいコースを狙わなければ。


 そして打撃を崩していく。


 金沢は、そうやって石川県大会を勝ち抜いてきた。


 三浦も中継席で気づき始めていた。


「これは面白いですね。金沢は大阪打線をかなり研究しています」


 水野

「守備力だけではない?」


「はい。守備力とデータの組み合わせです。守備範囲が広いのではなく、打球が来る可能性の高い場所へあらかじめ寄っている」


「なるほど」


「ですから大阪が普段通りの打撃を続けると、金沢の術中にはまる可能性があります」


 一回では遅いのか


 正則が真央へ聞く。


「でも、これ事前に分からんかったん?」


 真央は首を横に振る。


「金沢の守備が堅いことまでは分かってた。でも、どうやって堅くしてるのかまでは映像だけじゃ確信できんかった」


 絵里も言う。


「実際にこっちの打者三人が打って、初めて分かった」


 川原監督がうなずいた。


「それでええ」


 正則が見る。


「え?」


「一回で分かったんやろ」


 監督はグラウンドを見る。


「十分や」


 梶原。


 美羽。


 亜由美。


 三人ともアウト。


 一回の攻撃は終わった。


 だが三つのアウトと引き換えに、大阪は金沢の守備の正体を知った。


 川原監督が選手たちを集める。


「聞け」


 全員が見る。


「今まで通り打ったら、向こうの思うつぼや」


 亜由美がうなずく。


「なら変える」


「そうや」


 美羽が聞く。


「逆方向ですか?」


「それだけやない」


 川原監督は答える。


「バントもある。流し打ちもある。打球速度を殺す方法もある。あえて向こうが空けた場所を狙う方法もある」


 有村が続ける。


「守備位置が変わるいうことは、逆に言えばどっかが空く」


 真央が言った。


「二回から、打者が入るたびに金沢の守備位置を記録する」


 絵里もうなずく。


「こっちもチャート作る」


 正則が笑った。


「向こうがデータで来るなら」


 亜由美が続ける。


「こっちもデータで返す」


 川原監督が笑った。


「そういうことや」


 二回表へ


 星野慎一が再びマウンドへ向かう。


 二回表。


 金沢の攻撃は四番から。


 慎一が帽子をかぶり直した。


 正則が声をかける。


「慎一!」


 慎一が振り返る。


「何?」


「もうちょい時間稼いで投げてくれ」


「なんでや」


「こっち作戦会議中や」


 慎一が笑う。


「知らんわ。三人で終わらせる」


「だから早いねん!」


 ベンチに笑いが起こる。


 それでも慎一の顔は、マウンドへ向いた瞬間に変わった。


 全国大会初戦。


 一回が終わった。


 スコアは0対0。


 大阪はまだヒットを打っていない。


 しかし――


 もう一回表までの大阪とは違う。


 金沢の守備の正体を知った。


 だからこそ。


 本当の勝負は、二回から始まる。


 次回予告


 第7話「データの裏側」


 金沢ゴールデンシャークス。


 打撃傾向をチャート化し、相手の打球を先回りする守備。


 一回。


 大阪タイタンズは三者凡退。


 しかし、その三つのアウトから森下真央と新田絵里が金沢の狙いを見抜いた。


 二回表。


 星野慎一は四番打者から始まる金沢打線と対峙。


 そして二回裏。


 大阪は四番・三宅奈緒から。


 真央。


「守備位置、変わった」


 絵里。


「三宅ちゃんの引っ張りを警戒してる」


 川原監督。


「ほな、その逆を行くぞ」


 普段通りに打てば捕られる。


 ならば。


 普段通りに打たなければいい。


 守備チャートを武器にしてきた金沢。


 そのチャートそのものを、大阪が逆手に取る。


 次回、第7話。


「データの裏側」


 読み合いと読み外し。


 全国大会で初めて、大阪タイタンズが「考える野球」の勝負へ踏み込む。

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