大阪代表の意地
第5話「大阪代表の意地」
全国大会、開幕。
東京ドーム。
各地区を勝ち抜いた少年野球の強豪が集まる全国大会。
大阪代表・大阪タイタンズの初戦が、いよいよ始まろうとしていた。
対するは石川県代表。
金沢ゴールデンシャークス。
石川県大会を、安定した守備力で勝ち抜いてきたチームだった。
派手な大量得点で相手を圧倒するというより、一つのアウトを確実に取る。
ゴロを捕る。
正確に送る。
フライを落とさない。
余計な進塁を許さない。
エラーが非常に少ない。
大阪タイタンズにとって、全国大会最初の相手としては厄介なチームだった。
スターティングメンバー発表
場内アナウンスが響く。
先攻は石川県代表、金沢ゴールデンシャークス。
金沢ゴールデンシャークス
1番 ショート 前田蒼真
2番 セカンド 北川悠人
3番 センター 谷口大和
4番 ファースト 宮下蓮斗
5番 キャッチャー 西野航平
6番 サード 中田琉生
7番 レフト 森川颯太
8番 ライト 杉本海斗
9番 ピッチャー 高倉健吾
控え選手。
藤沢悠真 投手
大崎直樹 投手
松井陽向 投手
山岸拓実 捕手
柴田一輝 内野手
野村晴翔 内野手
小坂蒼士 内野手
橋本陸 内野手
寺西颯介 外野手
宮崎湊 外野手
竹内悠生 外野手
本田海里 外野手
高田陽翔 ユーティリティ
石黒奏太 ユーティリティ
南川颯 代走・守備
監督は村井浩之。
そして後攻。
大阪代表、大阪タイタンズ。
大阪タイタンズ
1番 センター 梶原和樹
2番 サード 朝倉美羽
3番 セカンド 加藤亜由美
4番 ファースト 三宅奈緒
5番 キャッチャー 藤原航
6番 ライト 宮本さくら
7番 ショート 川上眞子
8番 レフト 村瀬涼太
9番 ピッチャー 星野慎一
控えには、
河内正則 投手
池永智雄 投手
有村恒一郎 捕手
松浦悠斗 内野手
石川拓海 内野手
長谷川颯真 内野手
西岡蓮 外野手
藤本海翔 外野手
坂口大地 外野手
中井悠真 代走・守備
相原颯太 代走・守備
全国大会初戦。
川原監督が先発を託したのは、河内正則ではなかった。
星野慎一。
正則、池永智雄とともに大阪タイタンズの投手陣を支える三本柱の一人だった。
実況席
全国大会中継。
実況を担当するのは水野沙織アナウンサー。
解説は元内野手の三浦佳奈。
水野
「全国大会初戦、大阪代表・大阪タイタンズ対石川県代表・金沢ゴールデンシャークス。まもなくプレーボールです」
三浦
「大阪タイタンズは投手陣に厚みがありますね。河内正則投手、池永智雄投手、そして今日先発する星野慎一投手。短期決戦では非常に大きな強みになります」
水野
「一方の金沢ゴールデンシャークスは、石川県大会を通じてエラーが非常に少なかったチームです」
三浦
「こういう守備型のチームは崩れにくいんです。大阪としては相手のミスを待つのではなく、自分たちでチャンスを作る必要があります」
試合前
大阪タイタンズのベンチ。
慎一がグラブを持って立ち上がる。
正則が声をかけた。
「慎一」
「ん?」
「頼むで」
慎一は笑った。
「任せとけ」
智雄も横から言う。
「初戦やからって力みすぎんなよ」
「お前に言われたないわ」
「なんでやねん」
正則が笑う。
「今日は俺ら休ませてくれるんやろ?」
慎一が即答する。
「七回まで座っとけ」
「言うたな?」
「言うた」
そこへ捕手の藤原航がマスクを持ってやってくる。
「お前ら、試合前から何勝負しとんねん」
慎一が立ち上がる。
航もホームへ向かう。
川原監督が声をかけた。
「慎一」
「はい」
「全国大会やからって、特別なことせんでええ」
慎一がうなずく。
「いつも通り行きます」
「それでええ」
一回表
先攻。
金沢ゴールデンシャークス。
大阪タイタンズの選手たちが守備位置へ散っていく。
ファースト、三宅奈緒。
セカンド、加藤亜由美。
サード、朝倉美羽。
ショート、川上眞子。
レフト、村瀬涼太。
センター、梶原和樹。
ライト、宮本さくら。
キャッチャー、藤原航。
そしてマウンド。
星野慎一。
東京ドームのマウンドで、慎一が一度だけ大きく息を吐いた。
航がホームベース後方へしゃがむ。
ミットを構えた。
慎一が小さくうなずく。
「行くで」
プレーボール。
一番 前田蒼真
水野
「全国大会、大阪タイタンズの初戦が始まりました。一番ショート、前田蒼真が打席に入ります」
初球。
外角低め。
ストライク。
慎一は淡々としていた。
全国大会。
東京ドーム。
そんな言葉を、マウンドへ持ち込んでいない。
二球目。
内角寄り。
前田が打った。
ゴロ。
二遊間寄り。
亜由美が前へ出る。
正面に入る。
捕球。
一塁へ送球。
三宅が捕った。
アウト。
二球。
まず一つ。
水野
「セカンドゴロ! 星野慎一、わずか二球で全国大会最初のアウトを取りました」
三浦
「低いですね。初球からボールが浮いていません」
ベンチの正則が声を上げる。
「ナイス慎一!」
亜由美がボールをマウンドへ返す。
「慎一、ええよ!」
慎一は軽くグラブを上げた。
二番 北川悠人
三球目。
外へ外れる。
ボール。
四球目。
内角。
ストライク。
五球目。
北川が打つ。
三塁方向。
美羽が前進する。
難しいバウンドではない。
腰を落とす。
捕球。
ステップ。
一塁へ。
三宅のミットに収まった。
アウト。
二死。
水野
「今度はサードゴロ。朝倉美羽、落ち着いて処理しました」
三浦
「大阪も守備が安定しています。慎一投手がしっかりゴロを打たせていますね」
ここまで五球。
正則がベンチで言う。
「早っ」
智雄も笑う。
「まだ五球やぞ」
有村恒一郎は慎一の投球をじっと見ていた。
「低めがええな」
正則もうなずく。
「球威で押し込むというより、芯外しとる」
「慎一らしいわ」
三番 谷口大和
金沢の三番。
谷口が打席へ。
六球目。
外角。
ストライク。
谷口は見送った。
慎一が航から返球を受ける。
七球目。
少し低い。
谷口は手を出さない。
ボール。
カウント1ボール1ストライク。
航が次のサインを出す。
慎一がうなずいた。
八球目。
低め。
谷口が打つ。
詰まった。
打球はショートへ。
眞子が前へ出る。
捕る。
一塁へ。
三宅が受けた。
「アウト!」
スリーアウト。
水野
「三者凡退! 星野慎一、全国大会最初のイニングをわずか八球で終えました!」
三浦
「しかも三つのアウトがすべて内野ゴロです。セカンド、サード、ショート。理想的な立ち上がりですね」
東京ドームに大阪タイタンズ側の拍手が響く。
慎一は表情をほとんど変えず、ベンチへ戻ってきた。
正則が待ち構えていた。
「慎一」
「何?」
「八球?」
「八球」
智雄もやってくる。
「全国大会初回やぞ?」
「だから?」
「もうちょい緊張せえや」
慎一が笑う。
「緊張したら球数減った」
「意味分からん!」
航がマスクを外しながら戻ってくる。
「でも今日は低め来とるで。慎一、そのままでええ」
有村も言う。
「三人とも芯で捉えてへん。ええ立ち上がりや」
正則はマウンドを見た。
金沢の先発、高倉健吾が投球練習を始めている。
「次はこっちやな」
亜由美がヘルメットをかぶる。
「相手、守備めっちゃ堅いんやろ?」
梶原もバットを持って立ち上がった。
「ほな崩しに行こか」
川原監督が静かに告げる。
「相手のミスは待つな。自分らで一点取りに行け」
「はい!」
一回裏。
大阪タイタンズの全国大会最初の攻撃。
先頭打者・梶原和樹が左打席へ向かう。
金沢ゴールデンシャークスの内野陣が構えた。
全国大会。
大阪タイタンズの戦いは、まだ八球しか終わっていない。
だが星野慎一は、その八球で確かに示した。
大阪代表は――
河内正則だけのチームではない。
次回予告
第6話「崩れない守備」
一回表。
星野慎一。
八球。
三者凡退。
すべて内野ゴロ。
最高の立ち上がりを見せた大阪タイタンズ。
しかし一回裏。
今度は金沢ゴールデンシャークスが、その最大の武器を見せる。
守備。
梶原の打球。
抜けた。
大阪ベンチがそう思った瞬間――
「取った!」
亜由美。
「うわ、あれ追いつくん?」
簡単には崩れない。
ならば、どう崩す。
川原監督は金沢守備陣を見ながら、次の手を考え始める。
そして二回。
慎一は再び金沢打線へ。
ベンチでは正則と智雄が、慎一の投球を細かく観察する。
三本柱。
誰か一人が投げるのではない。
三人で全国を勝ち抜く。
次回、第6話。
「崩れない守備」
大阪代表の全国大会初戦。
本当の勝負は、ここから始まる。




