全国から集まる強豪たち
第4話「全国から集まる強豪たち」
東京入りした翌日。
全国大会の舞台となる東京ドームには、朝から各地の代表チームが集まり始めていた。
北海道。
東北。
関東。
北信越。
東海。
近畿。
中国。
四国。
九州。
それぞれの地域大会を勝ち抜いた選手たちが、同じグラウンドへ集まる。
大阪タイタンズの河内正則は、グラウンドへ足を踏み入れるなりスタンドを見上げた。
「でっか……」
加藤亜由美も隣で立ち止まる。
「ここで投げるんやで」
「分かっとる。でもテレビで見るんと全然ちゃうな」
池永智雄も外野席を見上げる。
「ここで全国大会かぁ」
星野慎一は比較的冷静だった。
「球場の大きさに飲まれたらあかんで」
有村恒一郎が笑う。
「慎一が一番緊張してたりしてな」
「してへんわ」
藤原航もグラウンドを見渡した。
「全国から来とるもんな。どこ見ても強そうや」
梶原和樹、朝倉美羽、三宅奈緒、宮本さくら、川上眞子、村瀬涼太も、それぞれ全国の空気を肌で感じていた。
マネージャーの森下真央と新田絵里は、すでに他チームの動きを観察している。
川原監督が手を叩いた。
「見るのはええ。でも俺らも見られとるからな。練習始めるぞ」
「はい!」
大阪タイタンズの全国大会が動き始めた。
大阪の三本柱
正則がブルペンへ入る。
捕手は有村恒一郎。
「今日は軽めやぞ」
「分かっとる」
正則が投げる。
乾いた音。
有村のミットが鳴った。
もう一球。
今度は少し速度を落とす。
それでもフォームは崩れない。
智雄と慎一も、それぞれ投球練習を始めた。
ただし三人には共通する約束があった。
約60キロの超スローボール。
全国大会用に磨いてきた秘密兵器は――
投げない。
川原監督も言っていた。
「見せる必要のないもんは見せるな」
秘密兵器は、見せた瞬間から秘密ではなくなる。
正則は普通の速球と変化球だけを投げ込んだ。
九州代表・博多リトルスターズ
少し離れた場所では、博多リトルスターズが練習を始めていた。
監督は篠田正孝。
全国大会へ登録されたメンバーがグラウンドへ散っていく。
柳川悠翔。
坂井雄二。
牧田和美。
岸田誠一。
立花朋輝。
森下悠一。
松本航。
神谷蓮。
大原颯真。
さらにベンチ入りメンバー。
黒木海翔。
坂本大地。
神谷颯。
岡部結菜。
有田蓮。
村瀬杏奈。
松岡凛太。
山内翔吾。
藤堂琉生。
橘颯太。
山下結斗。
川島蒼空。
西野美優。
高原紗季。
中島ひなた。
全国大会を戦う博多リトルスターズのメンバーがそろっていた。
篠田監督が声を上げる。
「まず守備から行くぞ!」
「はい!」
内野では神谷蓮がショートへ。
牧田和美がセカンド。
柳川悠翔がサード。
立花朋輝がファースト。
捕手の森下悠一が送球する。
外野には坂井雄二、岸田誠一、松本航。
投手の大原颯真もマウンドへ。
控え組も次々とノックを受ける。
黒木海翔。
坂本大地。
神谷颯。
岡部結菜。
投手陣はブルペンで調整。
有田蓮と村瀬杏奈は捕手として投手陣の球を受ける。
松岡凛太、山内翔吾、藤堂琉生、橘颯太、山下結斗は内野ノック。
川島蒼空、西野美優、高原紗季、中島ひなたは外野へ。
誰一人、全国大会へ見学に来たわけではない。
全員が戦力だった。
悠翔が見つけた投手
打撃練習へ移る前。
悠翔が何気なく隣の練習エリアを見る。
大阪代表。
一人の右投手が投げていた。
正則だった。
悠翔の目が止まる。
「……あのピッチャー」
坂井雄二が横を見る。
「大阪?」
「うん」
正則が投げる。
速い。
しかし悠翔が気になったのは球速だけではなかった。
投球後の姿勢。
下半身。
腕の振り。
同じようなフォームから微妙に速度を変えている。
悠翔がつぶやく。
「あのピッチャー、なんかすごそうやな」
大原颯真も見る。
投手だからこそ分かる部分がある。
「力任せじゃないな」
篠田監督が二人の後ろから言った。
「大阪タイタンズ。河内正則や」
悠翔が振り返る。
「河内正則?」
「大阪予選を勝ち上がってきた中心投手の一人たい」
悠翔はもう一度正則を見る。
「河内正則……」
初めて、その名前を知った。
正則が見つけた打者
やがて博多リトルスターズは打撃練習へ。
坂井雄二。
鋭いセンター返し。
牧田和美。
コンパクトに右方向。
岸田誠一。
強い打球を外野へ飛ばす。
立花朋輝。
長打を狙えるスイング。
そして柳川悠翔。
打席へ入った。
一球目。
センター返し。
二球目。
右方向。
三球目。
三遊間を鋭く破る。
正則が思わず目を向けた。
「誰や、あいつ」
亜由美も見ている。
「振り速いな」
有村が答えた。
「博多リトルスターズやろ」
「九州代表?」
「そうや」
正則は悠翔の打撃をしばらく見ていた。
「全国って、こんなやつらばっかなん?」
亜由美が笑う。
「そら全国大会やからな」
「えらいとこ来たなぁ」
そう言いながら、正則は笑っていた。
怖いというより。
投げてみたい。
そんな顔だった。
この時点ではまだ、二人は話していない。
正則は悠翔の名前も知らない。
最初の接点は会話ではなかった。
互いの野球だった。
組み合わせ抽選
午後。
組み合わせ抽選が始まった。
全国各地の代表チームが見守る中、トーナメント表が少しずつ埋まっていく。
大阪タイタンズ。
そして――
博多リトルスターズ。
二つのチームは別々の山へ入った。
正則がトーナメント表を見る。
「博多とは別か」
亜由美が言う。
「まだ博多のこと気にしてんの?」
「いや、打撃練習すごかったから」
「まず自分らの相手やろ」
「分かっとる」
大阪タイタンズの初戦。
石川県代表・金沢ゴールデンシャークス。
正則が名前を見る。
「金沢ゴールデンシャークス」
一方。
博多リトルスターズの初戦は――
岐阜県代表・長良川リトルボーイズ。
悠翔が確認する。
「長良川リトルボーイズか」
坂井雄二がトーナメント表を眺める。
「大阪とは反対側やな」
大原颯真が言った。
「当たるとしても、ずっと先やろ」
篠田監督が即座に止める。
「先を見るな」
全員が監督を見る。
「全国大会で先の相手考えよったら、足元すくわれるぞ。まず岐阜代表だけたい」
「はい!」
大阪と博多。
二つのチームは別々の道を進むことになった。
勝ち続けなければ、交わることはない。
大阪タイタンズ・対金沢ミーティング
宿舎。
夕食後。
大阪タイタンズの選手たちがミーティングルームへ集まった。
ホワイトボードには、
石川県代表 金沢ゴールデンシャークス
川原監督。
正則。
亜由美。
智雄。
慎一。
有村。
航。
梶原。
美羽。
奈緒。
さくら。
眞子。
涼太。
真央。
絵里。
全員で初戦の相手を確認する。
真央が資料を広げた。
「金沢ゴールデンシャークスの最大の特徴は守備」
絵里が補足する。
「予選を通してエラーがかなり少ない。特に内野守備が安定してる」
正則が言う。
「相手のミス待ちできへんってことやな」
「そう」
亜由美も資料を見る。
「内野ゴロを普通に打ってるだけやと、淡々とアウト取られそうやな」
川原監督がホワイトボードへ書く。
堅守。
確実な送球。
ミスが少ない。
「こういうチームはな、こっちが焦ったら向こうの思うつぼや」
智雄がうなずく。
慎一も言う。
「点入らんからって強引になったらあかん」
「そういうことや」
川原監督が選手たちを見る。
「全国大会やからいうて、急に特別な野球を始める必要はない。大阪で勝ってきた野球をそのままやる」
亜由美が言った。
「守備が堅いなら、守備だけでは処理できん打球を打ったらええ」
正則が笑う。
「単純やな」
「何?」
「いや、亜由美らしいなと思って」
亜由美が即座に返す。
「じゃあ正則はゼロに抑えて」
「そっちのほうが単純やんけ!」
笑いが起こった。
川原監督も笑ったが、すぐに表情を戻した。
「でも結局そこや。まず一勝。金沢だけ見ろ」
博多リトルスターズ・対長良川ミーティング
同じころ。
博多リトルスターズの宿舎。
こちらも全員がそろっていた。
柳川悠翔。
坂井雄二。
牧田和美。
岸田誠一。
立花朋輝。
森下悠一。
松本航。
神谷蓮。
大原颯真。
黒木海翔。
坂本大地。
神谷颯。
岡部結菜。
有田蓮。
村瀬杏奈。
松岡凛太。
山内翔吾。
藤堂琉生。
橘颯太。
山下結斗。
川島蒼空。
西野美優。
高原紗季。
中島ひなた。
篠田監督がホワイトボードへ数字を書く。
長良川リトルボーイズ
チーム防御率 1.85
部屋が少しざわついた。
悠翔が言う。
「やっぱ低いな」
黒木海翔も資料を見る。
「投手一人だけじゃないんですよね?」
「そうたい」
篠田監督が答える。
「長良川の厄介なところはそこ。先発だけ抑えれば終わりやない。継投しても大きく崩れん」
投手陣が安定している。
低めへの制球。
少ない四球。
守備との連係。
大量失点しない。
大原颯真が言った。
「投手戦になる可能性ありますね」
「ある」
捕手の森下悠一も腕を組む。
「こっちも一点を簡単にやったらあかんですね」
「その通り」
岡部結菜が尋ねる。
「打つほうはどうします?」
篠田監督が答える。
「防御率1.85いう数字と勝負するな。目の前の一球と勝負せえ」
悠翔が聞く。
「初球から行っていいですか?」
「甘ければ行け。厳しかったら見ろ」
「はい」
「最初から『この投手は打てん』と思った時点で負けたい」
篠田監督がホワイトボードへ書き加える。
四球。
進塁打。
盗塁。
バント。
一本の安打。
「一点はホームランだけで取るもんやない」
松岡凛太がうなずく。
西野美優も資料へ目を落とす。
高原紗季、中島ひなた、村瀬杏奈も真剣な表情だった。
控え選手も含め、誰が試合へ出てもいいように準備する。
篠田監督が最後に言った。
「全国大会は名前だけで勝てる場所やない。俺らも九州代表。向こうも岐阜代表。条件は一緒たい」
悠翔が資料を閉じた。
「まず一勝」
「そういうこと」
大阪代表の河内正則。
昼間に見た投手の姿が、悠翔の頭へ一瞬だけ浮かんだ。
だが、今考える相手ではない。
正則もまた、宿舎で博多リトルスターズのことを考えるのをやめていた。
大阪の相手は金沢。
博多の相手は長良川。
二人が再び同じグラウンドへ立つためには――
まず、それぞれが目の前の相手を倒さなければならない。
全国大会。
その最初の一戦が、いよいよ始まろうとしていた。
次回予告
第5話「大阪代表の意地」
全国大会、開幕。
大阪タイタンズの初戦。
対するは石川県代表――
金沢ゴールデンシャークス。
堅い守備。
少ないエラー。
確実にアウトを積み重ねる北陸の強豪。
大阪タイタンズの先発マウンドには、河内正則。
実況席にも全国大会中継の担当者が入る。
全国大会最初の一球。
有村恒一郎がミットを構える。
正則。
「行くで」
一方、別の試合では――
博多リトルスターズ対岐阜県代表・長良川リトルボーイズ。
防御率1.85の投手陣へ挑む悠翔たち。
一点を奪うのも簡単ではない。
大阪と博多。
まだ交わらない二つの試合。
そして正則の約60キロ超スローボールは、全国の舞台でも通用するのか。
次回、第5話。
「大阪代表の意地」
東京ドームで、最初のプレーボール。




