↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
河内正則・栄光への道  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/106

八点差、それでも攻める

「八点差、それでも攻める」


 四回裏。


 加藤亜由美のスリーランホームラン。


 続く三宅奈緒もレフトスタンドへソロホームラン。


 大阪タイタンズは6-2から一気に10-2まで点差を広げた。


 しかし、まだノーアウト。


 鶴橋ライオンズの二番手・伊藤千尋にとって、苦しい時間が続く。


 五番・藤原航


 藤原は打席へ入ると、伊藤の球筋をじっくり見た。


 監督から左右と高低をもっと使うよう指示された伊藤は、明らかに投球を変えている。


 外角。


 内角。


 低め。


 高め。


 藤原も簡単には振らない。


 際どい球は見極める。


 ストライクゾーンへ入ってくればファウルにする。


 五球目。


 カット。


 六球目も粘る。


 七球目。


 これも仕留めきれずファウル。


 そして八球目。


 伊藤が外角へ投げ込んだ。


 藤原が踏み込む。


「カキン!」


 鋭い。


 打球は三塁方向へ一直線。


 三塁手・石田琉生が反応する。


「バシッ!」


 サードライナー。


「アウト!」


 藤原は一瞬足を止めた。


 捉えていた。


 だが、真正面だった。


 ワンアウト。


「そういえば、まだ三振ないよな」


 鶴橋ベンチで、誰かがぽつりと言った。


「そういや……まだ三振取れてへんよな」


 別の選手もスコアを確認する。


「ほんまや」


 タイタンズ打線は、ここまで簡単には空振りしない。


 際どいボール球は見送る。


 ストライクゾーンへ入れば振ってくる。


 追い込まれても、難しい球ならカットする。


 もちろん打ち取られてはいる。


 内野ゴロもある。


 ライナーもある。


 フライもある。


 だが、三振がない。


「珍しいな……」


「際どいとこは見られる。ストライクに入れたら打たれるか、カットされる」


「投げる方からしたら嫌やな」


 伊藤自身も、それを感じ始めていた。


 三振を狙おうとして際を攻めれば見送られる。


 カウントを取りにゾーンへ入れれば、バットが出てくる。


 大阪タイタンズ打線は、投手に休む時間を与えてくれない。


 盛り上がるタイタンズ応援席


 一方、大阪タイタンズ側の応援席は大盛り上がりだった。


 10-2。


 府大会決勝。


 全国大会まで、少しずつ距離が縮まっている。


 その中でも特に声が大きかったのが、河内正則と加藤亜由美の家族だった。


 正則の姉・河内一香も、グラウンドから目を離さない。


 亜由美の家族も、先ほどのスリーランの興奮がまだ冷めていなかった。


「亜由美、よう打った!」


 その声がグラウンドまで届く。


 ベンチの亜由美は少し照れながらも、次の打者へ声を飛ばした。


「さくら、続いていこ!」


 六番・宮本さくら


 宮本さくらが打席へ入る。


 伊藤はここまでの流れを断ちたい。


 初球。


 ストライク。


 さくらは動かない。


 二球目。


 ボール。


 三球目。


 ファウル。


 その後も粘り、カウントは2-2。


 六球目もファウル。


 そして七球目。


 伊藤がセットに入った。


 内野陣は普通の守備位置。


 誰も予想していなかった。


 投球と同時に――


 さくらがバットを寝かせた。


「バント!」


 意表を突くセーフティバント。


 三塁線へ転がる。


 石田が慌てて前進する。


「サード!」


 捕球。


 一塁へ投げる。


 さくらが走る。


 送球が届く。


 その直前――


 さくらの足が一塁ベースを駆け抜けた。


「セーフ!」


 宮本さくら、セーフティバント成功。


 ワンアウト一塁。


 七球粘った末に、最後はバットを振り切るのではなく転がした。


 鶴橋守備陣にとっては完全に意表を突かれた形だった。


 七番・川上眞子


 続く川上眞子。


 眞子も初球から積極的に構える。


 伊藤が投げる。


 眞子が叩いた。


「カン!」


 打球はショート方向。


 高瀬蓮が追う。


 深い。


 三遊間の奥。


 高瀬がなんとか追いついた。


 踏ん張って一塁へ。


「セーフ!」


 間に合わない。


 ショート深いところへの内野安打。


 さくらは二塁へ。


 ワンアウト一、二塁。


 ホームランだけではない。


 四球。


 粘り。


 セーフティバント。


 内野安打。


 タイタンズが次々と違う形で伊藤を揺さぶっていく。


 八番・村瀬涼太


 村瀬は打席へ入ると、すぐにバントの構えを見せた。


 今度は奇襲ではない。


 確実に走者を進める。


 伊藤が投げる。


 村瀬が転がした。


 一塁側。


 岡田大翔が前へ出る。


 捕球。


 一塁へ。


「アウト!」


 送りバント成功。


 さくらは三塁。


 眞子は二塁。


 ツーアウト二、三塁。


 ここで九番。


 河内正則。


 九番・河内正則


 応援席から、さらに大きな声が飛ぶ。


「正則、いけー!」


 正則が打席へ入る。


 二塁と三塁に走者。


 一本出れば、さらに2点が入る。


 伊藤がセット。


 投げた。


 正則が振り抜く。


「カキィン!」


 鋭い打球。


 一塁方向。


「ファースト!」


 一塁手・岡田大翔が反応した。


 ライナー。


 岡田がグラブを伸ばす。


「バシッ!」


 捕った。


「アウト!」


 スリーアウト。


 チェンジ。


 正則は打球の行方を見ながら、悔しそうに息を吐いた。


「またライナー正面か……」


 三回裏はサードライナー。


 今度はファーストライナー。


 当たりそのものは悪くない。


 しかし野手の正面だった。


 四回終了


 大阪タイタンズはこの回、4点。


 大西晴斗の二者連続四球から始まり、加藤亜由美がスリーランホームラン。


 三宅奈緒がソロホームラン。


 さらに宮本さくらのセーフティバント、川上眞子の内野安打で再びチャンスを作ったものの、追加点は入らなかった。


 スコアは――


 鶴橋ライオンズ 2-10 大阪タイタンズ。


 八点差。


 試合は五回へ入る。


 捕手交代


 守備につくタイタンズ。


 ここで川原監督が動いた。


「キャッチャー、代えるぞ」


 ここまでマスクをかぶっていた藤原航に代わり、正捕手――


 有村恒一郎。


 有村がプロテクターを装着する。


 藤原はベンチへ戻る途中、有村と拳を軽く合わせた。


「正則、スロー混ぜ始めとる。三回は速球に合わせられたけど、四回は緩急でまた崩せた」


「分かった」


「ただ鶴橋や。次はまた何かしてくる」


 有村がマスクをかぶる。


「そこは見ながら変えるわ」


 マウンドには河内正則。


 ホームベースの後ろには有村恒一郎。


 ここからは新しいバッテリーだ。


 正則が投球練習の一球目を投げる。


「ズバーン!」


 有村のミットが鳴った。


 有村は返球しながら正則を見る。


「ええ球や。けど八点差は忘れろ」


 正則がうなずいた。


「0-0のつもりでいく」


 五回表。


 打撃の鶴橋ライオンズ。


 大量リードを奪われても、まだ試合を捨てる理由はない。


 そして正則にとっては、正捕手・有村との最初のイニングが始まる。


 次回予告

 第○話「正捕手・有村」


 四回終了。


 大阪タイタンズ、10-2。


 加藤亜由美のスリーラン。


 三宅奈緒のソロホームラン。


 宮本さくらは2-2から意表を突くセーフティバント。


 川上眞子もショート深い位置への内野安打。


 ホームランだけではない攻撃で、タイタンズは鶴橋を揺さぶった。


 そして五回表。


 タイタンズは守備を変更。


 ここまでマスクをかぶった藤原航に代わり、正捕手・有村恒一郎が入る。


 河内正則との新しいバッテリー。


 速球。


 コース。


 高低。


 そして60キロ前後のおちょくりスローボール。


 しかし鶴橋打線も、同じ攻め方を二度黙って受けるチームではない。


 八点差でも、試合はまだ終わっていない。


 次回、


「正捕手・有村」


 正則の球を知り尽くした正捕手が、鶴橋の三巡目にどう立ち向かうのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。