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河内正則・栄光への道  作者: リンダ


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一番からの四回裏

「一番からの四回裏」


四回表。


河内正則は、この回から60キロ前後のおちょくりスローボールをランダムに混ぜ始めた。


内角いっぱいへの超スロー。


その直後には、外角いっぱいへ約140キロの速球。


三回に速球へ対応し始めていた鶴橋ライオンズ打線は、再びタイミングを崩される。


結果は三者凡退。


わずか6球。


スコアは6-2。


そして四回裏。


大阪タイタンズは、一番・梶原和樹から始まる好打順を迎えた。


四回裏 大阪タイタンズ


先発・大西晴斗がマウンドへ上がる。


しかし、一回から大量の球数を投げ続けてきた影響は隠せなくなっていた。


捕手・片岡陸への投球練習。


一球が外へ抜ける。


次は高い。


低めを狙った球は手前で落ちる。


片岡が立ち上がり、大西へ返球した。


「晴斗、力むな。腕振っていこう」


大西はうなずいた。


だが、身体は気持ちについてこなかった。


一番・梶原和樹


梶原は初球から、その変化を見抜いていた。


無理に打ちにいかない。


外れる。


見送る。


また外れる。


大西はストライクを取りにいこうとするが、今度は高い。


梶原は最後までバットを出さなかった。


「ボールフォア!」


四球。


ノーアウト一塁。


一塁へ向かう梶原が、ベンチへ視線を送る。


明らかに制球が乱れている。


二番・朝倉美羽


続いて朝倉美羽。


大西はセットポジションへ入った。


一塁には俊足の梶原。


その存在も大西を苦しめる。


初球。


外。


二球目。


高い。


片岡がミットを低く構える。


三球目。


また外れた。


大西がマウンド上で息を吐く。


ストライクを欲しい。


しかし、その気持ちが強くなるほど腕に力が入る。


最後の一球もゾーンから外れた。


「フォアボール!」


二者連続四球。


ノーアウト一、二塁。


鶴橋ベンチが動いた。


監督が審判へ歩み寄る。


そして右手を上げた。


「ピッチャー、交代します」


大西が空を見上げた。


ここまでだった。


打ち込まれて降りるのとは、また違う悔しさがある。


制球が定まらなくなり、自分から崩れてしまった。


片岡がマウンドへ来て、大西の肩を軽く叩いた。


大西はボールを託し、ベンチへ戻っていった。


二番手・伊藤千尋


ブルペンから新しい投手が走ってくる。


伊藤千尋。


鶴橋ライオンズの二番手投手だ。


千尋がマウンドへ上がり、投球練習を始める。


一球。


二球。


三球。


大阪タイタンズのベンチは静かだった。


だが、全員が見ていた。


真央はタブレット。


絵里はスコアノート。


そして次打者――


三番・加藤亜由美。


亜由美はネクストバッターズサークルから、千尋の投球をじっと観察していた。


腕の出どころ。


ストレートの軌道。


低めへの角度。


変化球の曲がり始め。


そして、投げ終わったあとの身体の向き。


「……だいたい分かった」


亜由美が小さくつぶやいた。


投球練習だけですべてが分かるわけではない。


それでも、初見の投手に対する材料は一つでも多い方がいい。


千尋の投球練習が終わった。


ノーアウト一、二塁。


梶原。


美羽。


二人の走者を置いて、亜由美が打席へ入る。


三番・加藤亜由美


千尋がセットポジションへ。


初球。


亜由美は見送った。


球筋を見る。


二球目。


バットを出す。


ファウル。


「なるほど……」


三球目。


ボール。


四球目。


亜由美は反応しかけたが、バットを止めた。


ここまで四球。


投球練習で見た軌道と、実戦での軌道。


ほぼ頭の中で重なった。


そして五球目。


千尋が足を上げる。


腕を振った。


ボールがホームへ向かってくる。


真ん中。


低め。


だが、低めいっぱいではない。


わずかに高い。


真ん中低めへ甘く入った。


亜由美の左足が踏み込まれる。


腰が回る。


バットが一気に走った。


「カキィィィィィン!」


完璧だった。


センター・藤田悠生が一歩下がる。


二歩。


三歩。


すぐに走り出した。


「センター!」


藤田が背走する。


まだ伸びる。


フェンス際。


藤田が振り返った。


もう追わない。


打球はセンターのフェンスを越え――


そのままスタンドへ飛び込んだ。


「ホームラン!」


タイタンズベンチが一斉に沸き上がる。


梶原が三塁を回る。


ホームイン。


美羽も続いてホームを踏む。


そして亜由美。


一塁。


二塁。


三塁。


最後にホームへ帰ってきた。


加藤亜由美、スリーランホームラン。


三人がホームへ戻る。


一振りで3点。


大阪タイタンズ、9-2。


四点差が、一気に七点差へ広がった。


亜由美がベンチへ戻る。


正則が真っ先に声をかけた。


「亜由美、えぐいって!」


「甘かったから振っただけや」


「センター越えるほど振る必要ある?」


「ホームランに必要あるもないもないやろ!」


「それはそう!」


二人のやり取りにベンチから笑いが起こった。


しかし真央と絵里は、すぐに伊藤千尋へ視線を戻していた。


まだ交代したばかり。


スリーランを打たれたとはいえ、千尋の球そのものを見切ったわけではない。


真央が記録する。


「五球目。真ん中低め。少し甘く入った」


絵里もうなずく。


「亜由美が投球練習から見てた球筋とほぼ同じだった。だから迷わず振れたんだと思う」


川原監督も選手たちへ声を飛ばした。


「まだ終わってへんぞ! 七点差でも決勝や! 一個ずついけ!」


四回裏。


まだノーアウト。


スコアは――


鶴橋ライオンズ 2-9 大阪タイタンズ。


そして打席には四番・三宅奈緒。


伊藤千尋にとって、本当の勝負はここからだった。


次回予告


「伊藤千尋、踏ん張れるか」


四回裏。


制球を乱した大西晴斗が二者連続四球。


鶴橋はついに継投へ。


二番手としてマウンドへ上がったのは、伊藤千尋。


しかし加藤亜由美は、その投球練習から球筋を観察していた。


そして五球目。


真ん中低めへ甘く入った一球をフルスイング。


センタースタンドへ飛び込むスリーランホームラン。


6-2から9-2。


それでも、まだノーアウト。


続くのは四番・三宅奈緒。


大量リードを奪った大阪タイタンズ。


ここで一気に試合を決めにいくのか。


それとも伊藤千尋が立て直し、鶴橋の反撃へ望みをつなぐのか。


次回、


「伊藤千尋、踏ん張れるか」


七点差のマウンドで、二番手投手の意地が試される。

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