二巡目のライオンズ
第○話「二巡目のライオンズ」
二回を終えて、6-0。
大阪タイタンズが大きくリードしている。
しかし、河内正則はベンチへ戻っても浮かれていなかった。
一回はわずか6球で三者凡退。
ところが二回には四番・岡田大翔に二遊間を破られ、六番・石田琉生にはレフト線へのツーベースを許している。
鶴橋ライオンズは、明らかに正則の速球へタイミングを合わせ始めていた。
三回表。
正則が再びマウンドへ上がる。
先頭は八番・片岡陸。
三回表 鶴橋ライオンズ
八番・片岡陸
片岡は捕手らしく、正則の投球をベンチでも細かく観察していた。
一回に見せた145キロ。
120キロ台から130キロ台まで微妙に変えてくる速球。
そして二回、宮原航平に一球だけ投じた60キロ前後の超スローボール。
正則が投げる。
片岡は簡単には振らない。
何球か見極めたあと、外角へ来た球を逆方向へ打った。
打球はライト方向へ上がる。
宮本さくらが前進。
落下地点へ入った。
「オーライ!」
捕球。
ライトフライ。
ワンアウト。
九番・大西晴斗
続いて打席へ入ったのは、先発投手の大西晴斗。
大西はすでに二回までに大量の球数を投げている。
それでも打席では食らいついた。
正則の速球をファウル。
もう一球もファウル。
しかし最後は外角低め。
大西がバットを出す。
「カッ!」
ボテボテのゴロが二塁方向へ転がった。
亜由美が前へ出る。
捕球。
一塁へ送球。
「アウト!」
セカンドゴロ。
ツーアウト、ランナーなし。
正則は下位打線を二人で切った。
だが、ここからだった。
打順が一番へ戻る。
二巡目。
藤原航がマスク越しに正則を見る。
正則も小さくうなずいた。
「ここからやな」
一番・藤田悠生
一打席目はセカンドフライ。
しかし藤田は、一巡目とは明らかに違うタイミングで構えていた。
正則が投げる。
藤田が振る。
「カンッ!」
三塁方向。
強烈ではない。
だが、高い。
大きくバウンドした。
朝倉美羽が前へ出る。
一度。
二度。
ようやく捕球。
すぐ一塁へ投げる。
藤田が全力疾走。
三宅奈緒が送球を受けた。
「セーフ!」
サードへの内野安打。
ツーアウト一塁。
正則がボールを受け取る。
「やっぱり合ってきたな」
一巡目なら差し込まれていた球。
それを今度は前へ飛ばしてきた。
二番・西川颯太
点差は6点。
鶴橋は送りバントを使わない。
ツーアウトでもある。
必要なのは、まず走者を返せる形を作ること。
西川と正則の勝負は2ボール2ストライクになった。
藤原が外角へ構える。
正則が投げる。
外角いっぱい。
決して甘くない。
それでも西川は踏み込んだ。
逆方向へ振り抜く。
「カキーン!」
三塁線を破った。
打球がレフト線を転がる。
藤田が一塁から一気に二塁を回る。
村瀬涼太が打球を追う。
西川は一塁を蹴って二塁へ。
藤田は三塁も蹴った。
「回れ!」
ツーアウト。
迷う必要はない。
藤田がホームへ向かう。
レフトから返球。
藤原がホーム前で待つ。
藤田が滑り込んだ。
「セーフ!」
西川颯太、レフト線へのタイムリーツーベース!
鶴橋が一点を返した。
6-1。
ツーアウト二塁。
一巡目に詰まらされた西川が、二巡目では外角いっぱいの球を逆方向へ運んだ。
正則も素直に認める。
「うまいな」
藤原が返球する。
「完全に合わせてきてる。もう一巡目の感覚で投げたらあかん」
「分かってる」
三番・高瀬蓮
高瀬が打席へ入った。
二塁には西川。
正則が投げる。
高瀬は速球に狙いを絞っていた。
振り抜く。
「カキーン!」
打球はレフト前へ。
村瀬が前進する。
しかし届かない。
ヒット。
二塁の西川が三塁を回る。
村瀬がすぐ本塁へ返す。
西川が滑り込む。
「セーフ!」
高瀬蓮、レフト前タイムリーヒット。
もう一点。
6-2。
ツーアウト一塁。
6点あった差が4点になった。
鶴橋ベンチが一気に沸き上がる。
「いけるぞ!」
「正則に合ってきた!」
「もう一本!」
正則はマウンドで帽子のつばを触った。
焦りはない。
だが、認識は完全に変えた。
一巡目の鶴橋ではない。
速球を見せ続ければ、確実に捉えてくる。
四番・岡田大翔
ここで二回にもヒットを放っている四番・岡田。
ツーアウト一塁。
一発が出れば、6-4まで迫られる。
藤原がタイムを取った。
マウンドへ向かう。
「ここは絶対切ろう」
「せやな」
「岡田は速球にかなり合ってる」
正則がグラブで口元を隠す。
「あれ、意識させるか」
「ああ。ただし投げるとは限らん」
正則が笑う。
「それが一番いやらしいな」
藤原も笑った。
二人が離れる。
岡田は当然、速球だけを待つことができない。
二回に見た60キロ前後の超スローボールが頭にある。
正則が投げる。
速球。
岡田がファウル。
次は外角。
見送る。
さらに高さを変える。
追い込んだ。
岡田が構え直す。
速いのか。
遅いのか。
正則が投球動作へ入った。
腕を振る。
岡田が一瞬、超スローを意識した。
しかし来たのは速球だった。
「バシッ!」
振り遅れる。
「ストライク! バッターアウト!」
空振り三振。
スリーアウト。
正則が拳を握った。
三回表終了
鶴橋ライオンズ、2点。
鶴橋ライオンズ 2-6 大阪タイタンズ。
八番・片岡はライトフライ。
九番・大西はセカンドゴロ。
簡単にツーアウトを取った。
しかし二巡目に入った瞬間、流れが変わった。
一番・藤田が高いバウンドのサードゴロを内野安打にする。
二番・西川が2ボール2ストライクから外角いっぱいの球をレフト線へ運び、タイムリーツーベース。
三番・高瀬もレフト前へのタイムリーヒット。
二死走者なしから、三連打で2点。
最後は四番・岡田を空振り三振に仕留めたものの、鶴橋打線が正則へ適応し始めていることは明らかだった。
ベンチへ戻った正則が藤原に言った。
「やっぱ.310は伊達やないな」
「せやな。外角いっぱいでも持っていかれた」
スコアラー席でも真央と絵里が急いでデータを書き込んでいる。
真央が指摘する。
「一巡目より始動が早くなってる。でも、ただ早くしただけじゃない。ボールをかなり引きつけて見てる」
絵里も続ける。
「だから外角も逆方向へ運べる。次の一巡は配球変えた方がいい」
川原監督もうなずいた。
「正則」
「はい」
「打たれたからいうて逃げるな。ただし、同じことは繰り返すな」
「はい」
正則はグラブを置いた。
6-2。
まだ4点差。
しかし試合の空気は、一回とは明らかに変わっていた。
鶴橋はもう、145キロという数字だけに驚いてはいない。
速球へ合わせ始めている。
ならば次は――
正則と藤原が、もう一度先に変わる番だった。
次回予告
第○話「四点差の攻防」
三回表。
二死走者なしから、鶴橋ライオンズが三連打。
藤田の内野安打。
西川のタイムリーツーベース。
高瀬のタイムリーヒット。
6-0だった点差は、6-2へ。
河内正則の速球に、鶴橋打線が確実に対応し始める。
それでも最後は四番・岡田を空振り三振。
正則と藤原も、次の一巡へ向けて配球を組み直す。
そして三回裏。
大阪タイタンズの攻撃。
大量の球数を費やしてきた大西晴斗は、まだマウンドに立っている。
4点差へ縮められた直後。
タイタンズは再び突き放せるのか。
それとも鶴橋が流れを引き寄せるのか。
次回、
「四点差の攻防」
決勝戦は、ここから本当の駆け引きに入る。




