五十球を越える前に
「五十球を越える前に」
一回だけで40球。
鶴橋ライオンズ先発・大西晴斗にとって、二回裏は早くも重要なイニングになった。
大阪タイタンズの方針は変わらない。
狙い球が来れば振る。
来なければ粘る。
ただ球数を増やすために見逃すのではない。打てる球を待った結果として、大西にもう一球、さらにもう一球と投げさせる。
川原監督がベンチから声をかけた。
「一回と一緒や。無理に打ちにいかんでええ。ただし甘い球は逃すな!」
先頭は八番・村瀬涼太。
二回裏 大阪タイタンズ
八番・村瀬涼太
村瀬は最初から大西の球筋をじっくり見た。
初球を見送る。
二球目。
三球目。
ストライクゾーンへ来た球には反応するが、仕留められなければファウルにする。
五球目。
ファウル。
六球目。
ボール。
七球目。
またファウル。
大西が額の汗をぬぐった。
これで、この試合47球。
そして八球目。
大西が投げた。
村瀬が振る。
「カッ!」
芯ではない。
打球は三塁方向へ。
しかし、強くないからこそ厄介だった。
高いバウンド。
三塁手・石田琉生が前へ出る。
一度。
二度。
大きく跳ねたボールをようやく捕球した。
「ファースト!」
石田が投げる。
村瀬は全力疾走。
一塁へ頭から飛び込む勢いで駆け抜けた。
送球が一塁手のミットへ入る。
ほぼ同時。
「セーフ!」
村瀬が拳を握った。
内野安打。
ノーアウト一塁。
大西は二回最初の打者だけで8球を使った。
通算48球。
早くも50球が目前に迫る。
九番・河内正則
正則がバットを持って打席へ向かう。
マウンドでは145キロを投げる男だが、この場面で必要なのは豪快な一打ではなかった。
正則は三塁方向を見る。
石田は先ほどの内野安打を警戒している。
それでも正則は迷わなかった。
大西が初球を投げる。
正則がバットを寝かせた。
「バント!」
三塁線。
セーフティバント。
絶妙な場所へ転がった。
石田が猛然と前へ出る。
一塁走者の村瀬は二塁へ。
石田が捕球した時点で、正則はすでに一塁まであとわずか。
投げる。
正則が駆け抜ける。
「セーフ!」
村瀬も二塁へ到達。
正則のセーフティバントは内野安打。
ノーアウト一、二塁。
初球だったため、大西の球数は49球。
そして打順は一番へ戻る。
一番・梶原和樹
一回に10球粘って四球を奪った梶原。
大西にとって、また嫌な打者が戻ってきた。
梶原は今回も急がない。
一球目。
二球目。
三球目。
この打席の途中で、大西は50球を突破した。
まだ二回。
梶原は粘る。
六球目も簡単には終わらない。
そして七球目。
梶原がバットを出した。
「ボテッ」
鈍い当たり。
一塁方向へのボテボテのゴロ。
一塁手・岡田大翔が前へ出て捕球する。
梶原は一塁へ全力疾走。
岡田が自らベースを踏んだ。
「アウト!」
その間に村瀬は三塁へ。
正則は二塁へ。
ワンアウト二、三塁。
梶原にヒットはつかない。
だが走者二人を進めた。
進塁打。
大西の球数は56球。
二番・朝倉美羽
一回にセーフティバントを決めた美羽。
今度はバットを強く握った。
大西が投げる。
美羽が踏み込む。
「カキーン!」
今度は小技ではない。
痛烈なライナーが三塁線を襲った。
石田が飛びつく。
抜けた。
打球はレフト線を転がっていく。
「走れ!」
三塁の村瀬が生還。
3-0。
二塁の正則も三塁を蹴った。
レフトから返球されるが間に合わない。
正則もホームイン。
4-0!
美羽は二塁へ滑り込む。
「セーフ!」
朝倉美羽、レフト線への2点タイムリーツーベース。
ワンアウト二塁。
タイタンズが一気にリードを4点へ広げた。
三番・加藤亜由美
亜由美が打席へ入った。
二塁には美羽。
一回に続き、ここでも自分の役割を迷わなかった。
大西の初球。
亜由美が構える。
「バント!」
三塁方向へ転がした。
大西が前へ出て処理する。
一塁へ。
「アウト!」
その間に美羽は三塁へ。
ツーアウト三塁。
亜由美は初球で送りバントを成功させた。
そして四番。
三宅奈緒。
四番・三宅奈緒
一回は犠牲フライで先制点を叩き出した奈緒。
大西にとっては、ここを抑えれば二点で止められる場面だった。
ツーアウト三塁。
大西が投げる。
奈緒が待っていた球だった。
踏み込む。
振り抜く。
乾いた打球音が球場へ響いた。
「カキィィン!」
打球がレフトへ高く上がる。
左翼手・宮原航平が下がる。
さらに下がる。
フェンス際。
見上げた。
そのまま――
レフトスタンドへ飛び込んだ。
「ホームラン!」
三塁の美羽がゆっくりホームへ。
続いて奈緒がダイヤモンドを一周する。
三宅奈緒、2ランホームラン。
大阪タイタンズ、さらに二点追加。
6-0。
タイタンズベンチが沸き上がる。
一回は四球、バント、盗塁、犠牲フライを絡めて二点。
二回は内野安打、セーフティバント、進塁打、長打。
そして最後にホームラン。
小技だけではない。
長打だけでもない。
相手の状態と守備位置を見ながら、その場で最も得点につながる攻撃を選んでいる。
大西はマウンドで大きく息を吐いた。
まだ二回。
しかし球数は、すでに50球を大きく超えていた。
五番・藤原航
藤原が打席へ入った。
大西が投げる。
藤原はしっかり捉えた。
「カキーン!」
大きい。
センター方向へ伸びる。
センター・藤田悠生が背走する。
一瞬、球場がざわめいた。
しかし打球はスタンドまでは届かない。
藤田が落下地点へ入った。
捕球。
「アウト!」
センターフライ。
スリーアウト。
二回終了
大阪タイタンズはこの回、4点を追加した。
鶴橋ライオンズ 0-6 大阪タイタンズ。
二回の攻撃は、八番・村瀬の8球目の内野安打から始まった。
正則が初球でセーフティバントを決めて一、二塁。
梶原が7球粘った末のファーストゴロで走者を進める。
美羽がレフト線へ2点タイムリーツーベース。
亜由美が初球で送りバント。
そして奈緒がレフトスタンドへ2ランホームラン。
最後は藤原の大きなセンターフライ。
真央がスコアブックを確認する。
「一回40球。二回もかなり投げさせた」
絵里は大西の投球フォームを見ていた。
「最初からほぼ全力だったのに、二回でもうこの球数。次の回、球速だけじゃなくてリリースポイントも見た方がいいかも」
川原監督はスコアボードを見上げる。
6-0。
大きなリード。
しかし、まだ二回が終わっただけだ。
相手は打撃でここまで勝ち上がってきた鶴橋ライオンズ。
そして三回表。
打順は八番・片岡陸から。
九番・大西晴斗を挟み、再び一番・藤田悠生へ回っていく。
正則が立ち上がった。
一回は6球。
二回は二安打を許したものの無失点。
そして、おちょくりスローボールはまだ――
たった一球しか投げていない。
次回予告
「二巡目のライオンズ」
6-0。
大阪タイタンズが大きく先行。
だが、河内正則は分かっている。
点差と投球内容は別物。
二回には岡田大翔と石田琉生にヒットを許した。
鶴橋打線は、確実に速球へタイミングを合わせ始めている。
そして三回表。
下位打線から始まり、打順は一番へ。
いよいよ二巡目。
一度正則の球を見た打者たちが、どう修正してくるのか。
145キロ。
120キロ台。
130キロ前後。
そして、まだ一球しか見せていない60キロ前後。
次回、
「二巡目のライオンズ」
六点差でも、打撃のチームはまだ諦めない。




